| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

それから 本町絢と水島基は  結末

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

1-⑼

 次の日の朝、階段教室での社会学の講義で会った時には、ふたりとも、普段と変わらず、おはようを交わしたが、私はVサインを送った。でも、会った時の感じが、今までよりも、もっと近くなったのを感じていた。

 今夜は、お店が休みなので、皆で外食しようとおじさんが言っていた。私は部活があるので、帰りは8時になる。お姉ちゃんも、それぐらいかなって、8時からってなった。7時半頃家に着いたら

「もう、私達はお風呂済ませたんだけど、絢ちゃんも入る?」

「うーん ちょっと、せわしいので後にします。シャワー学校でしてきましたし」

「そう 澄香も、もう帰って来ると思うし、着替えたら、リボン結んであげるね」

 着替えなさいってことだよね。私は、ローズピンクのフレァーワンピースに襟元には、お母さんからもらったアメジストのネックレスをした。行くのは、歩いて10分足らずの所にある『やましん』のステーキハウスなんだけど。着替え終えて、下に降りて行ったら

「なんて、可愛いらしいのかしら こっちに来て リボンはえんじ色でいいかしら 澄香のものなんだけどね。あとで、写真撮りましょ」

「そうだ絢 うちの宣伝ポスターに出てくれないか 今は澄香がモデルしちょるが、割と人気あってな 絢と二人で出ていると、もっと話題集めて、テレビ局も来るわいな もっとも、澄香は先生になったから、もう、駄目かも知れんが」

「私、そういうの、駄目なんです。恥ずかしいから」
 

 澄香お姉ちゃんは、少し遅れるらしくって、3人で先にお店にいった。お店は古くからあるお肉屋さんの隣に白壁造りで建てられていて、中に入って行くと、テーブル席が幾つもあって、3組の夫婦らしき客が居て、壁側の通路を通って行くと奥には、鉄板の周りに10席ほど円形に配置されていた。その真ん中あたりに座ったら、男性のウェイターさんが飲み物を伺いに来た。

「わし等はビンのビールがいい、グラス2つ、絢はどうする?」

「私、お水がいいです」

「そうか、じゃー ぶどうのジュースでも持ってきてくれ」

 コックさんがお肉の塊が入った竹ザルのお皿を見せて「これになります。土佐のあかうしで」と言ってきた。

「おう、いいぞ その前に鮑を頼む」

「申し訳ございません。今日は大きいのがなかったので入れておりません。とこぶしなら大きいのがございますが」

「それは、味がもうひとつでなぁ。じゃー 帆立と車海老あるか?」

「はい、知床の帆立と車海老は対馬の天然物がございます」

 おじさんは、やり取りした後、私に

「この男は『やましん』の社長が東京のホテルから引っ張ってきたんだ。腕は良いし、客の身になって、よく考えてくれちょるから・・、重友君だ。わしは、いつも指名するんだ」

 その時、黒のダブルのスーツ姿の人が寄ってきて、おじさんとおばさんに挨拶してきた。

「いつも、ご贔屓にありがとうございます。奥様もいつもお元気そうでいいですね。こちらのお美しいお嬢様は初めてでございますよね」

「あぁー 社長 これは、わしの下の娘だよ 4月に生まれたんだ」

「えぇー そうなんですか オーナーの永田でございます。お嬢様はこちらのご出身でございますか」

「社長もしつこいな わしの娘だから、ここの出身にきまっちょるよ」


「遅れて、すみませーん。ごめんなさいね」と、その時、澄香お姉ちゃんが入ってきた。

「おぉー こんな美しいお嬢様お二人もお持ちなんて、うらやましいですな。どうぞ、ごゆっくりしてください。私は、ここで失礼いたします」とオーナーは笑顔で去って行った。
お姉ちゃんが席に着くと、コックさんが話しかけていた。

「いらっしゃいませ 髪の毛を短くなさったのですね そちらも素敵です」

「ありがとうございます うれしいわ この前はお世話になりました」

「おいおい 君達は知り合いなのか」とおじさんが少し慌てていた。

「そんなことじゃあ無くてょ ただ、卒業前にお友達と食事に来ただけよ その子、卒業旅行に一緒に行けなかったから、記念にと思って、その時、重友さんにお世話になつたの」
「あっ そうだ この前、一緒だった璃々ちゃんが、とてもおいしくて、楽しかったので、いい想い出になりましたと、重友さんにお会いしたらお礼言っておいてと言われてたのよー あの子、島の先生になると言って志願して行っちゃったけど」

 コックさんは、黙ったまま、うれしそうに頭を下げていた。
 
「そうなんか わしはいろいろと考えてしまった すまんのー」とおじさんは、ひとり、ぶつぶつ言っていた。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧