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歪んだ世界の中で

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第十二話 笑顔の親戚その五

「心が貧しい人ってね」
「幾らでもますね」
「お金がなくても贅沢な人はいるけれど」
 心がだ。そうだというのだ。
「その辺りはね」
「お金はお金ですから」
 また言う真人だった。
「所詮それだけです」
「お金以上のものじゃない」
「はい、そうです」
「それなら僕は」
「お金にはこだわらずにいくべきですよ」
「お金以上のものを既に持っているかな」
 こうもだ。希望は考えたのだった。
「友井君に千春ちゃんに」
「大叔母さん達もですね」
「そうだね。持っているね」
「一つだけじゃないですね」
「うん。その努力やそうしたものも知ったし」
 そしてだ。身に着けたというのだ。
「僕もね。少しずつだろうけれど」
「心が豊かになっていますね」
「精々。白い御飯だけだったよ」
 希望は最初はだ、そうだったというの。
「生まれて生きているだけで」
「そうでしたね。最初は」
「白い御飯だけでも御馳走だし。こうも思えてきたけれど」
 生きている、その有り難さもだ。希望はわかってきたのだ。
「けれどね。そこにね」
「牛丼になりましたね」
「友井君とおばちゃん達だね」
 彼等の存在がだ。生きているだけのことからさらに豊かにしてくれたというのだ。
「友井君と知り合えて。友達になれて」
「大叔母さん達が親戚でいてくれて」
「うん、僕は牛丼になれてね」
「そして今はですね」
「千春ちゃんと出会えてね」
 今度は彼女だった。千春だった。
「一緒にいる様になって。そこから多くのことを知って」
「そうして」
「定食になれたよ。そしてこれからはね」
「さらに、ですね」
「定食からね」
 さらにだというだ。そこで終わりではなくだ。
「フルコースになりたいね」
「そこまで豊かにですね」
「いや、和食だから」 
 希望はジョークも入れた。余裕のある笑顔で。
「懐石料理になるかな」
「ははは、そうですね」
「うん。そうなるよね」
「そうですね。和食ですから」 
 真人もだ。笑顔で希望の今の言葉に答えた。
「そうなりますね」
「それじゃあね。僕はね」
「懐石料理になられますか」
「そうなるよ。もっともっとね」
「心が贅沢になるのですね」
「そうなるよ。そしてそれはね」
 真人を見て。そうしての言葉でもあった。
「友井君もだね」
「そうなりますね」
「一人でね。贅沢になろうって思ってもね」
「そうはなりませんね」
「自分だけのことを考えてたら」
 そうだとだ。どうなるかというのだ。
「心は豊かにはなれないよ」
「そもそも自分のことだけを考えていますと」
「貧しいね。それ自体が」
「はい、そう思います」
 まさにそうだとだ。真人も希望に答える。答えながら塩鮭を食べる。その皮を奇麗に箸で取ってた。それを口の中に入れて食べながらの言葉だった。 
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