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Fate/WizarDragonknight

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どんなときも食事は大事

 辛うじて建物としての体裁は残っている。
 ムー大陸の市街地の建物には、ハルトはそんな印象を抱いた。
 丘の上の市街地入口からムー大陸の通路に入ると、建物たちに近づき、詳細が分かってくるが、柱一本だけになったもの、壁に大きな穴が開いたもの、壁が全て消えて屋根だけが落ちてきたものなど。

「確かに、リゲルちゃんが言ったように、結構ひどくやられてるね」
「それに、この素材は……ええ。潮や風化でここまで朽ちる物質ではないわ」

 リゲルが、柱だけになった建物に手を触れながら断言した。両目にゴーグルをつけ、その面にはさまざまな数値が現れては消えている。

「外的要因なしでここまで風化するのは、四十億年はかかるわ。地球誕生後すぐに作られたものでもないといけないわね」
「ごめん。大きすぎて、例えがよくわかんない」
「要は、風化じゃないってことよ。あと、誰がリゲルちゃんよ」

 ゴーグルを消滅させたリゲルが口を尖らせた。ハルトは「え?」と疑問符を浮かべ、

「ダメ? リゲルちゃん」
「ダメに決まってるでしょ。何よ、リゲルちゃんって」
「ええ……じゃあなんて呼べば?」
「……そもそも呼ばないで」
「何で」

 すると、リゲルは呆れたような顔をした。

「私たちは敵同士よ。どうして呼び合う必要があるの?」

 ゴーグルを収納し、ジト目でハルトを睨むリゲル。ハルトは頬をかき、

「少なくとも、今は停戦中でしょ? そもそも、このムー大陸を脱出するためには、俺が持ってるバングレイの情報だって必要じゃない?」
「……そのバングレイとやらを倒したところで、ここから脱出できるとは限らないわよ」
「少なくとも、今の目的はバングレイじゃないの?」

 ハルトの言葉に、リゲルは腕を組んだ。

「……普通に名前で呼びなさい。ちゃん付けはやめて」
「オッケー。リゲル。じゃ、俺のことも普通に……」
「ウィザード」
「……え?」
「貴方は敵よ。だから、名前はいらないわ。ウィザード。それで十分でしょ」

 それ以上ハルトの言葉を待たず、リゲルは家屋の調査に戻った。
 取り残されたハルトは、「まあ、仕方ないか……」と諦めた。
 やがて、家々を見た後、ハルトとリゲルは中央の噴水広場跡にやってきた。すでに水などない噴水広場らしき場所。現代ならば緑の木々がありそうなところには、茶色一色の殺風景が広がっていた。

「ムー大陸で戦えって言われてもなあ。こんなに広いと、相手を探すのも一苦労だな」
「……」
「リゲル?」

 リゲルは返答しなかった。彼女は、目元を覆うゴーグルに表示されているデータを読み解いている。

「いるわね」
「いる?」

 リゲルが険しい顔を浮かべている。彼女はハルトではなく、別方向をじっと睨んでいた。

「他の参加者よ。ここから……西へ三百メートル」
「近いじゃん。この町のなかってことだよね」
「そうなるわね。……行くわよ」

 リゲルは一足先にそちらへ向かう。ハルトは頭をかいて、その後を追いかけた。
 そして、そこ___屋根が斜めに倒れて、テントのようになった家にいた、聖杯戦争の参加者。それは。

「よお! ハルト! 元気か?」

 焚火をしているコウスケだった。

「お前何してんの!?」

 ハルトはダッシュで接近して怒鳴る。だがコウスケは「まあまあ」と言って、ハルトに串焼きを差し出す。

「食うか?」
「いや食うかじゃなくて! ……ていうか、この肉何の肉?」
「鳥」
「鳥ィ!?」
「ほら。ここさ、結構上空に鳥飛んでんのよ。で、ファルコで取った」
「取ったぁ!?」
「んで、イイ感じに風通しいい屋内だから、ここでキャンプしてんだ」
「さっきまで俺と一緒に地上にいたよなお前!?」
「皆まで言うな。これ食ったら、次は保存用の鳥を取るつもりだぜ」
「お前バングレイに負けず劣らずの狩人だなおい!」
「結構美味いぜ。ほら、食えよ」

 コウスケはそう言いながら串焼きをぐいぐいと押し付ける。

「熱っ! やめ! 押し付けるな!」
「おら、食え食え……お?」

 その時、コウスケはハルトの後ろにいるリゲルに気付く。

「カワイ子ちゃん」
「今時カワイ子ちゃんなんて聞かないな」

 コウスケはビッチリと立ち上がり、リゲルの手を握る。

「おおおお俺、多田コウスケ! 大学生彼女なし! ぜひオレと一宿以上の……」
「てーい」

 暴走するコウスケの頭をチョップし、ハルトは咳払いする。

「えっと……この女の人はリゲル。ガンナーのサーヴァントだって」
「サーヴァント? 大丈夫なのか?」

 さっきまでその外見に骨抜きにされていたコウスケは表情を切り替える。
 ハルトは「まあまあ」と宥めて、

「あんまり敵対の意思はなさそうだし」
「ほー……」
「多田コウスケ……貴方、確かランサーのサーヴァントだったわね」
「いや、マスターだけど」
「……」

 リゲルの顔が少し赤くなった。彼女は顔を背け、

「そうとも言うわね」
「いやそうとしか言わねえよ」

 リゲルは押し黙った。
 すると、コウスケは手を叩いて「分かった!」と叫んだ。

「さてはカワイ子ちゃん、残念美少女だな!」
「なっ……」

 リゲルはなおさら顔を赤くする。

「ち、違うわ! たまたま、マスターが教えてくれたのを忘れていただけよ!」
「だーっ! 皆まで言うな。天然だって隠してえんだな? オレはそんなこと気にしねえから安心しろ」
「違うって言ってるでしょ!」
「わ、分かった! 分かった!」

 喚くリゲルを宥めながら、コウスケはリゲルへ焼き鳥を渡した。

「お前も食うか? 美味いぞ」
「……」

 リゲルは口をへの字にしながら、「いただくわ」と串を受け取った。

「さてと。お前とさっさと合流できたのはラッキーだったな」
「何が悲しくてお前みてえな野郎なんだよ。女の子と合流させろよ」

 焼き鳥にかぶりつきながら、コウスケは口を尖らせた。ハルトは苦笑しながら、コウスケの右手を見下ろす。

「響ちゃんに、何か変化はない?」
「ん? ああ。今のところ何もねえ。響に何かあったら、令呪にも影響するはずだからな」

 だが、彼の手に刻まれた呪いの紋章は、以前見たのと同じ、響のフォニックゲインの紋章がそのまま描かれていた。
 コウスケは串の鶏肉を喰い終え、焚火に投げ入れる。

「アイツがまだ無事ってことは、オレたちで助け出すチャンスがあるってことだ。ほれ、腹が減っては戦はできねえ。ジャンジャン食え」

 コウスケがそう言って、焚火に備えてある串焼きに促す。この短時間でどれだけ捕ったのか、三人分は賄えそうな量であった。

「お前、こんなに一人で食べるつもりだったのか。本当に大食いだな」
「皆まで言うな。褒めても何も出ねえよ」
「褒めてない褒めてない。それより、ムー大陸に来てから、なんか変わったもの見た?」

 ハルトはコウスケの向かい側に腰を落とす。リゲルは入口で、微動だにせずにコウスケを見守っている。
 コウスケは鳥を食らいながら答えた。

「全部だな。この遺跡は、考古学的発見の山だぜ」
「あー……まあ、そりゃそうだな」
「この遺跡、家屋一つとっても何でできてんのか全く分からねえ」
「完全に風化するまで地球の年月と同じくらいかかるみたいだよ」
「そもそも、こんなでっけえ大陸がどうやって空に浮いているんだって話になるぜ。コイツはマジで調査してえ」
「後にして。考古学専攻にとっては嬉しい場所だろうけど、そもそも俺たちは、このムー大陸に閉じ込められてることを忘れないでね」
「わーってるよ。皆まで言うな。うっし、ごちそーさん!」
「ん?」

 いつの間にか、最後の串焼きがコウスケの胃袋の中に消えていた。あれだけあった量が、もうなくなっている。
 この状況下でのマイペースっぷりに舌を巻きながら、ハルトは立ちあがる。

「非常食が必要になるほど、ムー大陸に滞在するつもりはないよ。早くバングレイたちを倒して、ここから脱出しよう」
「あー……そうだな。その方がいいな。じゃ、カワイ子ちゃんもよろしくな?」

 コウスケはリゲルへ手を伸ばした。だが、リゲルはそれを取ることなく、言い放った。

「私は敵よ。あなたたちとはあくまで、一時休戦。それを忘れないで」
「あー……」

 リゲルの塩対応に、コウスケはハルトへ耳打ちした。

「なあなあ、ハルト。カワイ子ちゃんって、アレか? 『か、勘違いしないでよね! アンタ達のためにやったんじゃないからね!』とか言ってくれるタイプか?」
「上手く機嫌とれば、言ってくれるかもね」
「うっし! んじゃハルト、早速高感度を上げる手段を考えようぜ」
「あれか? プレゼントを贈るとか?」
「お? それいいな。カワイ子ちゃんと言ったらアレだな? 渋谷のハチ公か?」
「お前ハチ公って何か知ってるの?」
「聞こえてるわよ二人とも!」

この町を出るまで、リゲルは少し機嫌が悪かった。 
 

 
後書き
ココア「チノちゃ~ん!」
リゼ「ココア? もう帰ってきたのか」
ココア「大変だよ! 外が、本当に大変なことになってるよリゼちゃん!」
リゼ「私も聞いてる。化け物がたくさん現れたんだろ?」
ココア「あれ? リゼちゃん、知ってたの?」
リゼ「お客さんから聞いた。よかった、お前が帰ってきて。チノも心配していたぞ」
ココア「ふええん……ごめんね。チノちゃんは?」
リゼ「倉庫で、何人受け入れられるか数えてる」
ココア「そっか……可奈美ちゃんとハルトさんは帰ってきてないの?」
リゼ「ハルトは朝でかけたきり帰ってきてないな。可奈美は……あれ? 可奈美?」
ココア「どうしたの?」
リゼ「いないんだ! 可奈美が! さっき帰ってきたはずなのに!?」
ココア「えええええええ!? もしかして、出ていったの!?」
リゼ「それなら私が気付かないはずがないだろ! まさか、可奈美は特殊部隊の兵士だったのか?」
ココア「そ、それはないと思うよ? でも……」ムー大陸見上げる
ココア「早く……終わるといいね」 
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