コウノトリの夫婦
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第一章
コウノトリの夫婦
ようやく終わった。
そう思ってもう結構経った、クロアチア東部ボスニア=ヘルツェゴビナとの国境沿いの町スラヴァンスキ=ブロットに住むスティェバン=ヴォーキッチは釣りをしている時に釣り仲間に対してこう言った。
「もう戦争なんてな」
「嫌だな」
「ああ、二度とな」
こう言うのだった。
「起こって欲しくないな」
「全くだ」
仲間も頷いた、二人共白髪の老人でヴォーキッチは眼鏡をかけている。
「あんなことはな」
「戦争はどれも酷いがな」
「俺達のところの戦争はな」
「その中でもだったな」
「ただ殺し合うだけのな」
「酷い戦争だった」
「ずっとこうだった」
仲間はこうも言った。
「ここの戦争は」
「利益とかじゃないんだ」
「もうな」
それこそというのだ。
「殺し合うだけのな」
「民族同士でな」
「それだけの」
「酷い戦争だ」
「だからだな」
「本当にあんな戦争はもう沢山だ」
「全くだな」
二人でこうした話をしてだった。
スティエバンは釣りをして多くの魚を持って家に帰った、そうしてから家にいる一匹のコウノトリに魚達を餌にあげた。そうして。
そこに来たもう一匹のコウノトリにも魚をあげた、一緒に飛んできた小さなコウノトリ達にも。そして食べる彼等を見て笑顔になった。
「よく食べろよ」
「ガア」
「ガアガア」
「ガア」
「ガッ」
「ガアッ」
コウノトリ達は魚を美味そうに食べた、もう妻を亡くしたスティエバンはその光景を見て笑顔になっていた。
だが家に来た釣り仲間が彼と一緒に飲みつつ問うた。
「もうあのコウノトリがここに来てな」
「二十五年だな、マレナが来たのは」
「つがいの雌の方だな」
「ああ、ここに来たのはよかったけれどな」
それでもとだ、スティエバンは仲間に話した。
「羽根を痛めていてな」
「飛べないんだな」
「それでずっとうちにいてな」
「つがいの雄が毎年こっちに来てるんだな」
「クレベタンがな」
そちらのコウノトリの名前も言った。
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