天才少女と元プロのおじさん
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
29話 ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!
梁幽館との激戦の翌日。
「ひ、控え?」
詠深は信じられない、といった顔で芳乃を見た。
「次の試合は伊吹ちゃん、正美ちゃんの継投でいくよ」
「えー」
大会終盤になると、どうしても詠深に頼らなければならない試合が続く事が予想される。故に、詠深を温存するために次の試合、詠深は控えとなった。
「どうしてもピンチの時はヨミちゃんに抑えをお願いするから」
不満げな詠深に苦笑しながら芳乃はそう説明する。
「クローザーか」
「かっこいいわね、響きが」
そんな詠深を乗せようと、怜と菫が詠深をおだてる。
「ヨミちゃんが控えてくれてると思うと私も心強いなー」
正美も怜と菫に乗っかると、詠深が正美と息吹の後ろから二人の肩に腕を回した。
「後ろには私がいるので安心して投げなさい!」
そんな単純な所も詠深の良いところかもしれない。
「次の試合は馬宮高校!特筆すべき点はないけど2連勝しただけあってノリと勢いはあるよ。調子に乗ると手強いよ!」
参謀の芳乃は次の対戦相手をそう分析した。
~以下、作者の悪ノリ~
ここは新越谷の次の対戦相手である馬宮高校のグラウンド。野球部キャプテンの西田 絵瑠奈は部員を集めて、彼女等に向き合って立っていた。
「きっと奴らは言っている。ノリと勢いだけはある。調子に乗ると手強いと!」
西田はバットをタクトのように振るい、熱弁する。
「おぉー」
「強いってー」
「照れるなー」
それを聞いた部員達は一様に照れた。馬宮高校のエース、村井を除いて。
「でも部長。だけってのはどういうことですか?」
しかし、一人が“だけ”の部分に引っ掛かりを覚えた。
「つまりこういうことだ。ノリと勢い以外はなにもない、調子がでなけりゃ総崩れ」
西田の答えに一同が怒り出す。勿論、村井を除いて。
「なんだとー!?」
「舐めやがってー!」
「言わせといていいんすか?」
「バットでカチコミ行きましょう!」
皆のボルテージがどんどん高まていった。
「みんな落ち着いて、実際言われたわけじゃないから」
村井がそう言って皆を落ち着かせようとする。
「そう。私の想像だ。良いかお前達、根も葉も無い噂にいちいち惑わされるな。良いか、私達はあの朝霞武蔵野に勝ったんだぞ」
『おぉーー!!』
「苦戦したけどね」
「勝ちは勝ちだ!」
村井がツッコむが、西田はあくまでも前向きだった。
「勢いはなにも悪いことだけじゃない、この勢いを二回戦に持っていくぞ!次はあの武田率いる新越谷高校だだ!」
「······でも武田ってやばくないですか?」
「梁幽館相手に3失点······」
「打てる気しないっす······」
一同、急に弱気になる。
「心配するな!······いや、ちょっとしろー。いい?次の新越谷の攻略法はただ一つ。エース武田のエグい高速カーブの攻略よ!」
西田はピッチングマシンの前に立つと、マシンから投じられる高速カーブにバットを辛うじて当てた。しかし、打球はボテボテのピッチャーゴロである。
「ほら、慣れれば打てる!打てるわ!武田のカーブ敗れたり!!」
「あまり打ててない気が······」
村井はまたツッコむが、西田はそれを無視する。
「これで新越谷など一捻りだ!」
一見、頼もしそうに見える西田に部員達は沸き上がった。
『部長!部長!部長!部長!······』
「部長!部長!部長!部長!······」
グラウンドに部長コールが響き渡る。西田本人もみんなに合わせ、拳を掲げて部長コールに参加するのだった。
ページ上へ戻る