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糸引き婆

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第五章

「仲良くしておるぞ」
「そうなんだね」
「それで前以て言うがわしがこうして人を驚かせるのは趣味じゃ」
「趣味だったんだ」
「もっと言えば生きがいじゃ」
 山影にはっきりとした声で答えた。
「妖怪は人を驚かせるのが生きがいじゃからな」
「それでなんだ」
「朝は寝床で寝てじゃ」
「グーグーグーと」
「夜は皆で遊ぶがその間にな」
「こうしてなんだ」
「人を驚かせて楽しんでおるのじゃ」
 こう山影に話した。
「それが日課じゃ」
「そうなんだね」
「妖怪の生きがいじゃ」
「わしも同じじゃ」
 砂かけ婆も言ってきた。
「それはじゃ」
「同じなんだ」
「夜道に人に砂をかけてな」
 砂かけ婆という名前通りにというのだ。
「そうしてじゃ」
「それが生きがいなんだ」
「朝は寝て夜は遊んでな」
「墓場で運動会とかも」
「酒盛りもやるぞ」
「あの歌のままだね」
「うむ、しかしな」
 こうも言う砂かけ婆だった。
「わし等は人を驚かせるだけで襲ったりはせん」
「しかも驚かせることをわかっている者を驚かせても面白くない」
 糸引き婆も言ってきた。
「今日はさっさと帰るのじゃ」
「そうしろっていうんだ」
「わしを見たくて来たのであろう」
「実際にいるのか、どんな妖怪化知りたくて」
「ならもうこれで終わったな」
「うん、わかったよ」 
 実際にとだ、山影は糸引き婆に答えた。
「これでね」
「ならな」
「もうだね」
「早く帰るのじゃ、夜は人は寝る時間じゃ」
「だからだね」
「寝てじゃ」
 そしてというのだ。
「明日に備えよ」
「そうしろっていうんだ」
「やりたいことが終わったらな」 
 それならというのだ。
「もうじゃ」
「休んでだね」
「明日また頑張るのじゃ」
「それじゃあ」
「うむ、ただまたわしを見たいならな」
 それならとだ、糸引き婆はこうも言った。
「好きなだけ見に来るのじゃ」
「そうしていいんだ」
「別の方法で驚かせるからな」
「糸を引く以外のことで」
「そうじゃ、そうしたことはじゃ」
 まさにというのだ。
「妖怪の生きがいだからのう」
「それで、ですか」
「それでじゃ」 
 その時にというのだ。
「楽しみにしておれ」
「そうなんだね」
「そしてじゃ」
 それでというのだ。 
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