袖引き小僧
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第四章
「それでもな」
「それでも?」
「ああ、お前はそのままだな」
見れば鏡に映る薫子も目で見る彼女も全く同じである。
「左右対称なだけでな」
「わたくしはわたくしですわ」
薫子は上品ぶった仕草で返した。
「この通りですわ」
「そうだな、じゃあな」
「それではですのね」
「いいか、それで口調もな」
お嬢様口調もというのだ。
「別にな」
「いいのでして?」
「ああ、鏡のお前も同じ口調だしな」
「それぞれ違いましたらその方が怖くありませんこと?」
「言われてみればそうか、けれど実際何もなくてな」
そうしたことはというのだ。
「いいか」
「鏡に妖怪が映りましても」
「そうだな、じゃあな」
「それならですわね」
「家まで送るな」
太一は薫子に微笑んで話した。
「そうするな」
「いつも通りですわね」
「朝はお前が迎えに来てくれてるしな」
「子供の頃からそうでしたし」
「だからか」
「構いませんわ」
「そう言えばお前口調は兎も角性格で言われたことはないな」
性格が悪いだの言われることはだ、実際に薫子は穏やかで公平で面倒見がよく曲がったことは嫌いで友人達からも好評だ。
「昔から。口調は高校入ってからだけれどな」
「ですからそれは」
「トルストヤさん見てからだな」
「あの方みたいにと思いまして」
「そうなんだな、まあ兎に角な」
「それではですわね」
「ああ、帰ろうな」
「お家まで」
二人であらためて話してだった。
そうして家に帰った、薫子はまた袖引き小僧に袖を引かれたがもうまた引かれたと思うだけだった。そして太一と手をつないだまま笑顔で家に帰った。そこには笑顔があった。
袖引き小僧 完
2021・4・29
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