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山火事の中で

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第一章

                山火事の中で
 カナダのブリティッシュコロンビア州で山火事が起こった、その火事はあまりにも強く。
 ランドリー家にも避難勧告が来た。
 夫のケビン、白髪で初老の逞しい姿の彼は白髪だが動きのいいやはり初老の妻のリンに対して言った。
「僕達も避難するぞ」
「ええ、けれど」 
 妻は夫に苦い顔で応えた。
「お昼は煙が見える位で」
「消防用の水も使えたからな」
「大丈夫と思っていたのに」
「仕方ない、火事も変わる」
 夫は妻にこう答えた。
「そちらも」
「そういうことね」
「すぐに避難しよう、家族全員で」
「ええ、けれど私達はいいけれど」
 それでもとだ、妻は夫に言った。
「牧場は」
「そっちのことか」
「すぐに避難しないといけないのに」
「そう言ってきている」
 実際にという返事だった。
「州政府からはな」
「そうなのね」
「ああ、だからな」
「牧場のことは」
「タットとソフィーに任せよう」
 こう言うのだった。
「そうしよう」
「あの子達になのね」
「牧羊犬だ、こうした時もな」 
 まさにというのだ。
「頑張ってもらう」
「私達が牧場に帰るまで」
「流石に牧場までは火も来ない、それに餌だってある」 
 羊達のものも犬達のものもだ。
「その用意をしてな」
「そのうえで」
「避難するぞ」
「そうするのね」
「ああ、すぐにな」
「それじゃあ」
 妻も頷いた、そうしてだった。
 夫婦は家族と共に避難した、この時そのタッドとソフィーマレンマ=シープドッグの白い彼等に頼み込んだ。
「皆をお願いするよ」
「私達は絶対に戻るから」
「それまで我慢して欲しい」
「ご飯はあるからね」
「ワン」
「ワンワン」
 雄のタッドも雌のソフィーも素直な感じで鳴いて応えた、そして。
 一家は牧場のことは二匹に任せてだった。
 後ろ髪を引かれる思いだったがそれでも避難した、避難している間夫婦はずっと牧場のことが心配だった。
「大丈夫だろうか」
「あの子達も」
「何もなかったらいいが」
「皆無事なら」
「食べられているか」
「狼や熊は出ないかしら」
 ずっと心配していた、待つ間本当に辛かった。一刻も早く避難勧告が解除されて牧場に戻りたいと思っていた。
 そうした日が二十日続き。
「戻ろう!」
「ええ、すぐに!」 
 夫婦は避難勧告が解除された瞬間にだった。
 牧場に飛んで帰った、その間も不安で仕方なかった。
「皆無事か」
「何もないかしら」
「火事は大丈夫にしても」
「二十日だったから」
「何かあってもおかしくない」
「何もなかったらいいけれど」 
 牧場に急行しながら思った。 
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