非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第104話『予選結果』
場所は救護室。晴登が寝ているベッドの傍ら、チーム【日城中魔術部】が集結していた。
「さて、三浦も起きたことだし、改めて報告しなきゃな」
そう言って、こほんと一つ咳払いをする終夜。しかし、真面目ぶっているようで、その口角が上がっているのを晴登は見逃さなかった。
「さっきも言った通り、俺たち【日城中魔術部】は予選を通過した。16位でギリギリだけどな」
16位。それは予選を通過できる最低順位だ。とはいえ、100チーム以上いる中で16位というのは、とても誇らしいことである。
だが、ここで気になることが一つ、
「あの、ちなみに俺やみんなの順位は……?」
そう、これである。
予選の順位は4つの競技の順位の総和の小ささで決まるというルールなので、自分がどれだけヘマしたのか、どれだけみんなが良い結果を残したのか気になって仕方ない。
「三浦はえっと……あれ、暁、何位だっけ?」
「45位っすよ」
「げ……」
何てことだ。確か最後の山を登る時には30位を切っていたというのに、まさかそんなに順位を落としていたとは。
でもそれなら一層、みんなの順位が気になるというもの。
「あ〜そうそう。で、辻が17位。これでも充分凄いんだが、なんと……」
伸太郎の記憶を借りながら晴登に説明していく終夜だったが、そこで一度言葉を区切った。何だか、肩透かしを喰らった気分である。早くその先を教えて欲しい。
そんな焦れた様子の晴登を見て、終夜はニヤリと笑って──
「俺と結月が1位だ」
「え、1位!?」
「あ、暁! 俺が言う流れだったろ!」
だが、終夜が言うよりも早く、伸太郎が口を挟んだ。その行動に終夜はごねるが、伸太郎は鼻で笑うと、
「俺が1位を取ったんです。ドヤってもいいじゃないすか」
「くっそ、何も言い返せん」
「でもホントに凄いや、暁君」
珍しく上機嫌な伸太郎。それもそのはず、格上の魔術師揃いの競技で彼は1位を取ったのだ。詳しくは知らないが、まぐれという訳でもあるまい。取るべくして取った1位なのだろう。
「ちょっとハルト、ボクのことは褒めてくれないの?」
伸太郎に感心していると、不意に横からムスッとした声が飛んでくる。見ると、結月が頬を膨らませてこちらを睨んでいた。可愛い。
伸太郎が1位だということに驚きすぎて、結月も1位だったということをつい忘れてしまっていた。
「え、あ、うん、もちろん凄いと思ってるよ! さすが結月!」
「ふふん、そうでしょそうでしょ。惚れ直した?」
「へっ!? いや、それは元々惚れてると言うか何と言うか……」
早口にはなったが、本心から結月を褒めると、彼女はご満悦のようだった。しかし、最後に付け足された問いの答えに戸惑ってしまう。
「おい、急に惚気け始めたぞこいつら。追い出すか?」
「賛成ね。もう三浦も元気そうだし」
「ちょ、待ってください!?」
するとその様子を見た終夜と緋翼がからかってくるので、もう収拾がつかない。
結局、騒ぎすぎて晴登以外全員救護室から追い出されてしまうのだった。
*
「三浦君、調子はどう?」
「あ、猿飛さん! 今はだるいですけど、明日には元気になってると思います」
「そう、良かった」
次なる来客は、ようやく見つけた師匠である風香だった。チームの他のメンバーは居らず、1人で来たようだ。
「ごめんね、あの時置いていっちゃって」
「いえいえ! 猿飛さんだって自分のチームがあったんですから、仕方ないですって! 俺なんか世話になりすぎたくらいですし……」
「それは私が好きでやったことだから気にしないで」
凄く申し訳なさそうな顔をする風香に、晴登の方がペコペコと頭を下げる。何度彼女に助けられたと思っているのだ。彼女がいたからこそ、晴登たちは予選通過したと言っても過言ではない。感謝するのはこちらの方なのだ。
「あ、そういえば猿飛さんのチームは予選どうだったんですか?」
「私たちは13位で予選通過。──だから、本戦で当たるかもね」
「……!」
風香の不敵な笑みに、無意識に背筋が伸びる。やはりと言うべきか、彼女たちも勝ち上がったようだ。
予選で垣間見えた彼女の実力を鑑みるに、今の晴登の"風"では到底及ばない。本戦の詳細は後で終夜から教えてもらう手筈だが、もし風香と戦闘をすることになろうものなら……
「早速師弟対決ってことですかね」
「ふふ、楽しみにしてるよ」
そう微笑んで、風香は部屋を後にしようとする。しかし、最後に振り返ると、
「ねぇ、もし明日空いた時間があったら一緒に特訓しない?」
「え、いいんですか?!」
「もちろん。それじゃあ、またね」
そう言い残して、彼女は去っていった。
まさかもう特訓の約束を取り付けられてしまうとは。これは是が非でも調子を戻さなくてはならない。
「よし、寝るか」
睡眠こそ、最大の休息法。元々疲れていた晴登は、すぐに深い眠りに落ちるのだった。
*
その夜、何とか身体を動かせるまでには回復した晴登は、選手たちの宿泊施設、いわゆる選手村にやって来ていた。というのも、魔導祭の会場が山奥なもんだから、日帰りの手間を省くためにわざわざ作られたのだという。当然、晴登たち【日城中魔術部】も宿泊する。
「いや、結構凄いことじゃないですかこれ」
「そりゃ魔導祭は魔術師たちにとってのオリンピックみたいなもんだ。これくらいあって然るべきだろ」
「そういうもんなんですか……」
目の前に聳え立つ大きなホテル。そのあまりの立派さに、晴登は嘆息するしかない。
というかこんなに大きいのに、ここまで近づかないと存在すら認知できなかった。もしかすると、魔術で隠されていたのかもしれない。ロマンだ。
中に入ると、内装も外装と遜色ないものだった。そこらのビジネスホテルよりもよほど金がかかっている気がする。
案内された部屋も、大きなベッドが4台あり、洋風で広々としていた。
「俺たちは男子2部屋女子1部屋だ。この部屋は俺と三浦と暁で使う」
「じゃあ2年生で1部屋っすね。てか、俺たちまで泊まっていいんですか?」
「チームなんだから当たり前だろ。まぁこのホテルが小さかったら野宿だったけどな」
「「ひっ……!」」
終夜の脅しに2年生たちが悲鳴を上げる。とはいえ、実際には部屋を割り当てられているからそんなことにはならないが。
「ようやく私は女子1人から解放か〜。よろしくね、結月ちゃん!」
「はい! ……ハルトと相部屋じゃないのはちょっと残念ですけど」
「ちょっ、結月何言ってんの!?」
「「みーうーらー!!!!」」
「わぁぁ先輩待って! 待ってください! 違うんです!」
ふと零れた結月の言葉を、誰も聞き逃すことはなかった。結果、晴登は嫉妬に駆られた2年生方に追いかけられる始末だ。
そしてそれを見て、元凶である結月はクスクスと笑っている。全く、誰のせいだと思っているのか。そんな意地悪な所も彼女の魅力ではあるのだが。
「はいはい茶番はそこまでだ。明日から待ちに待った本戦なんだぞ。気を抜きすぎるな」
「「へ〜い」」
「という訳でミーティングをやるぞ。今日貰った資料によると、例年通り本戦は"戦闘"を4日間に渡ってトーナメント形式で行なう。負ければその時点で敗退だ。あと、戦闘の特別ルールは当日発表らしい」
「特別ルール?」
「戦闘するっつっても、特別なルールがある訳よ。そこまで奇を衒ったものじゃないが、一対一とは限らなかったりする」
「なるほど……」
終夜の説明によると、明日から行なわれる本戦の戦闘は、方式がランダムということのようだ。一対一に限らないということは、二対二や四対四もありえるという訳か。もしかすると、バトルロワイヤルの可能性もある。しかし、やはり去年の状況を知らないために予想がつかない。
「ま、そこは各自どうにかしてくれ。俺からすれば、本戦に出れるだけで嬉しいんだからな」
「そうね。まさか私たちの代で出れるとは思わなかったわ」
そう言って、終夜と緋翼は笑った。
万年予選落ちの【日城中魔術部】。そんな弱小チームが、ようやく日の目を見る時が来たのだ。喜ぶ気持ちはもちろんわかる。
そして彼らが本戦に出場できるのも、予選で1位をもぎ取った結月と伸太郎の手柄が大きい。ただその一方で、
「でも結月や暁君と違って、俺の順位はあまり……」
晴登としては、今回の予選結果をあまり好ましく思っていない。理由は単純、自分の実力で取った順位と言えないからだ。
もちろん競技中は、本戦出場のために仕方ないと割り切ってはいたが、やはり心の奥底では納得していなかったようである。
もし、結月と伸太郎の1位がなければ、確実に今年も予選落ちの流れだったろう。間一髪とはまさにこのことだ。
しかし、そんな暗い表情をする晴登に、終夜は声をかける。
「何言ってんだ。歳上の魔術師相手によく健闘した方だろ。猿飛さんの助けがあったとはいえ、お前の実力も充分に発揮してたはずだ」
「そうですかね……って、え? どうしてそれを……?」
ありきたりな慰めだと、そう思っていたところで、ふと違和感に気づく。そして、失念していたであろうことに思い当たり、羞恥心が込み上げてきた。
「ん? 不思議な話じゃないだろ。予選の状況は逐一モニタリングされてたんだから。ちなみに、お前が抱きかかえられてたとこもバッチリ映ってたぞ」
「あ〜〜〜!!!」
各地で行なった予選の様子を観客が見るにはその方法しかあるまい。晴登が参加した競走でも、きっとドローンか魔術的な何かで中継をされていたのだろう。
そして今回の競技で、最も人に見られたくなかったシーン。それが会場中に広まっていた事実を知り、晴登はベッドに布団を被って蹲る。夏だから暑かった。
「あ、それならボクも見てたよ、ハルト」
「結月も!? いや、あれは助けてもらっただけで、決して他意は……!」
恋人に別の女性を抱えられてる所を見られるなんて、恥ずかしい以上に罪悪感が大きかった。下手をすると、浮気と疑われてもおかしくない。
そう思って必死に弁明すると、結月はうんうんと頷いて、
「そうだね、わかってるよ。だからボクも抱きかかえていいかな?」
「何でそうなるの!?」
手を広げて、晴登へとにじり寄ってくる結月。なぜだろう、笑顔なのにとても怖い。目が笑っていない気がする。さすがに捕まるのはマズそうだ。
「ったく、そこの夫婦は置いといて話進めるぞ。まず本戦に出場するに当たって、選手4人ってのは絶対条件だ。だから俺が補欠の枠から出る必要がある。つまり……暁、代わってもらっていいか?」
そう話を進めて、終夜は伸太郎を振り返る。その表情は少し申し訳なさそうだった。
せっかく予選で活躍したのに本戦に出場させないなんて、終夜としても心苦しい決断なのだろう。
「……いいっすよ。予選はたまたま噛み合っただけっすから。こと戦闘において、俺は目眩ししかできませんし」
「悪いな、恩に着る。……よってメンツは俺と辻、W三浦の4人だ。正直予選よりハードになると思うが、頑張って欲しい」
「「はい!」」
しかし、意外と伸太郎はあっさりと終夜の話を聞き入れ、本戦のメンバーが決まったのだった。晴登もその一員というのはとても緊張するが、できる限り頑張っていきたい。今度は自分の力で。
「よし。じゃあ今日のミーティングはこれで終わりだ。解散!」
終夜のその言葉を合図に、女子や2年生は部屋を出て行った。そして、部屋には晴登と終夜、伸太郎の3人が残る。
そんな時、終夜が徐に口を開いた。
「三浦、暁」
「「はい?」」
「──ありがとな」
いつもとは比べ物にならないくらい、大人しく優しい声色だった。その表情も柔らかく、心から感謝しているように見える。
……お礼を言われたのであれば、こう返すしかないだろう。
「「どういたしまして」」
──いよいよ明日から、魔導祭本戦が始まる。
後書き
大体3週間ぶりでしょうか。その割には内容がうっすい気もしますが、繋ぎなのでそれはそれ。次回から本格的な本戦に入っていきます。
内容は前から練りに練ってはいますが、練りすぎて逆に無へと帰しそうなので、やっぱりいつものように練りながら書くことにします。ねるねるねるね(壊)
ということで今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では!
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