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レンズ越しのセイレーン

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Mission
Mission3 テミス
  (1) トリグラフ中央駅~マンションフレール302号室

 
前書き
 演じるって案外むずかしい 

 
「ふわ~。やっとトリグラフついた~」
「着いた~」
「ナァ~」

 4人分の列車運賃をクエストで稼いでからの移動だったので、帰り着いたトリグラフの街は夕焼け色に染まっていた。

「上りが運休になってなくて助かったね」
「ああ。テロ厳戒態勢で下り列車が停まってたからどうなるかと…」

 街道を歩いて帰る覚悟も実は女子に内緒で決めていたルドガーとジュードであった。


 列車テロの噂で持ちきりの住人を脇目に、ルドガーたちはマンションフレールを目指した。
 駅舎もアスコルド方面へ行く人々が足止めを食らって、普段よりさらに人口密度が高かったし、しばらくトリグラフの街はざわつきそうだ。

 チャージブル大通りを歩きながら何気なくポケットに手を入れると、かさ、と紙の感触がした。ルドガーは胸が重くなった。

 ユリウスからの手紙――クルスニクに産まれた者の宿命。カナンの地へ行く代償とやらは明記されていなかったが、骸殻の使用が肉体を害するのは漠然と理解していた。

(これからどうすればいいんだろう。兄さんは我関せずで通せって手紙に書いてたけど、俺だって変身できるんだから無関係じゃいられないかもしれないし、何より、力があるのに知らんぷりってのは人としてどうなんだ? 俺もこの血を使って兄さんを手伝うべきじゃないのか? そうすれば兄さんだって俺のこと子供扱いできなくなる。一人前扱いしてもらえる。兄さんに並べる)

「ルドガー、考え事?」
「わっ――何だ、ジュードか。脅かすなよ」
「ルドガーが勝手に驚いたんじゃない。気にしてるのはお兄さんのこと?」
「ん、まあ、一応」

 ちなみにジュードには手紙を読ませていない。あくまでルドガーが障りない範囲で説明しただけだ。いくら意気投合したとはいえ、知り合ったばかりの他人に懐を余す所なく晒すのはためらわれた。

「……あのユリウスさんは本当にユリウスさんだったのかな」
「……分からない」

 偽者ならばノヴァを殺して平然としていたことにも納得が行く。だが、本物ならば――骸殻を使い続ければルドガーもああなるという事実を突きつけられた気がして、気が重かった。




 普段より長く感じる道のりを経て、ルドガー一行はマンションフレールに到着した。
 ルドガーは開錠カードをカードリーダに読み込ませ、暗証番号を入れていく。

「ここがユリウスさんち?」
「俺んちだよ。といっても、居候だけど」

 やっと働き先が見つかって、せめて同居人くらいは名乗れるようになると密かに心躍らせたのが数日前。あれから何ヶ月も経ったような気さえする。

「知ってる! イソーローってニートのことでしょ?」

 危うく別の数字キーを押しかけた。

「エル、真実は時として人の心を抉る」
「お前の一言でさらに抉られたわ…」

 ルドガーはパネルに最後の数字を入力して、部屋のロックを解除した。





 ルドガー手製の夕飯を馳走になりながら、ユティたちはおのおのがストリボルグ号に乗っていた目的を打ち明け合った。


 まずはエル。謎の集団に襲撃された父が、最後に残した言葉が「トリグラフ中央駅10時発の列車に乗れ」とのものだった。そして、カナンの地を目指せと。列車で行ける聖地とはこれいかに。

 ジュードは元々列車にもアスコルド記念式典にも用はなく、式典を取材するはずだった友人の記者のドタキャンで代打をさせられたらしい。

 一番イタイのがルドガーだ。ルドガーはあの日から駅の食堂で働くはずだったが、アルクノアのテロを避けるため、やむをえず列車に乗って戦いに巻き込まれたのだ。おかげで勤め先はクビである。

「ルル、ルドガーってサチうすいよね」
「ナァ~」
「そもそもどっかの女の子が痴漢冤罪なんてマネしてなきゃ、事態はもっとスマートだったんデスケドね」

 ルドガーは頬杖を突いてあらぬほうを見やりながらも、特定の一人狙いの独り言を言った。

「エルってばヒドーイ。チカンの冤罪って借金の連帯保証と同じくらい、その人の人生と尊厳に関わる大問題なのにー」
「だ、だって、だってっ、エル、列車乗らなきゃいけなかったんだもんっ」

 どんどん涙目になっていくエルのほっぺをビシバシ指で突くユティ。

「そう言うユティは――」
「自然工場アスコルドの撮影」
「……だよな」

 目的とは全く関係ない、用意された回答を述べる。

「ってちょっと待て。お前、記念式典に行くのにスピアなんて危なっかしい物持ち歩いてたのか?」
「アレはワタシの一部だから。どんな時も一緒」
「式典の手荷物検査で絶対取り上げられたと思うぞ」

 しまった。確かに式典という場に武器の持ち込みはふさわしくない。ましてやこの時代はアルクノアのテロが横行している。一般人の武器携帯はあらぬ疑念を招く。
 設定に矛盾を来した。気づくか――ユティはレンズの向こうのルドガーとジュードを素早く観察する。

「その辺に気づかないのは、ユティらしいというか、何というか」

 ジュードが苦笑しつつフォローを入れた。ルドガーも肯いている。気づかれずにすんだ。


 直後、ノック音がして部屋の玄関ドアが開いた。

 
 

 
後書き
 ルドガーとオリ主の掛け合いは書いてて楽しいです。漫才みたいで。オリ主は基本誰にでもこんなノリです。こんなノリでなきゃやってられません(T_T)
 チカンの濡れ衣については、エルちゃん(*^_^*)? いずれちゃーんとルドガー君に謝ろうね?

1/8 加筆しました。 
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