SHUFFLE! ~The bonds of eternity~
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第一章 ~再会と出会い~
その十
「柳ちゃん、今帰り?」
「ええ、掃除当番だったので」
放課後、帰宅しようとしたところで柳哉は亜沙と遭遇していた。
「あれ? どうしたの、ボクのことそんなに見つめちゃって。もしかして惚れちゃった?」
「どこをどう解釈すればそういう結論に達するのか小一時間ほど問い詰めたいところですね」
別にそういう意味で見ていた訳ではない。
「まあ、昼の事もあったので」
「あー、あれはさっさと忘れちゃって。ボクもちょっと熱くなっちゃってて」
どうもあまり触れられたくないようだ。いくつか聞きたい事もあったがこの様子では聞けそうにない。とそこへ声が掛かった。
「亜沙先輩、柳哉さん、今お帰りですか?」
蒼い髪に小柄な体、ネリネだ。
「どうしたんだ?」
彼女は今日、掃除当番では無かったようだが。
「いえ、実は朝の件で……」
「ああ、呼び出しか。で、どうだったんだ?」
「はい、とりあえずは注意と、あと自重するようにと」
どうやらそこまで強くは言われていないようだ。
「それとあの、柳哉さん」
「ん?」
「今朝はありがとうございました。それと申し訳ありませんでした」
居住まいを正し、頭を下げるネリネ。
「別にそこまでかしこまらなくても……」
「大切なことですし、それに……」
朝はちゃんと言えませんでしたから、と笑う。
「リンちゃんと何かあったの?」
「今朝の騒動の時にちょっとお説教を。まあ俺はそんなに立派な人間じゃありませんけど」
「そんなことはないです。今まで気づいていなかったことに気づかせていただいたんですから」
亜沙の疑問に答えつつ苦笑いする柳哉。三人は校門に向けて歩き出す。
「おい聞いたか? 校門の所ですっげー美人の親子が誰か待ってるらしいぞ」
「まさかまた土見じゃないだろうな」
「稟ならもう帰ったはずだが」
なにやら噂話をしている二人組を見ながら言う柳哉。
「美人の親子ね……誰を待ってるのかな」
「……一応、心当たりはありますが」
苦笑気味の柳哉。ネリネが首を傾げている。そうこうするうちに校門前に着く。そこにいたのは肩にかかるくらいの紫の髪に黒い瞳を持ち、バンダナをした三十代後半くらいの女性と、同じく紫の髪にこちらは茶色の瞳を持ち、背中の中ほどまで伸ばした髪を蝶をあしらったバレッタで纏めた少女だ。女性の方は成熟した魅力を持ち、少女の方は落ち着いた清楚な雰囲気を持っており、ネリネや亜沙にも劣らない美少女だ。
「確かに、男子が騒ぐはずよね」
「あの人達はまさか……」
少女の姿を見たネリネは二人の正体に気づいたようだ。
「リンちゃん、知ってるの?」
「はい、女の子の方は柳哉さんの妹さんかと」
柳哉と初めて会った日に見せてもらった画像を思い出す。
「ということはその隣にいるのは」
「柳哉さんのお母様だと思います」
二人のそんな会話を聞きながら柳哉は言った。
「何やってんの。母さん、菫」
「兄さんこそ、美少女を二人も侍らせて何をしているんですか?」
「あら、柳哉。お帰り、と言うのもおかしいかしら」
聞けばどうやら、二人は帰り道で偶然会い、どうせだからと柳哉を迎えに行くことにしたようだ。
「柳哉の母で水守玲亜と言います。息子がお世話になると思うけどよろしくね」
「妹の菫と申します。兄がお世話になります」
「えと、柳ちゃんの先輩で時雨亜沙と言います」
「柳哉さんのクラスメイトでネリネと申します」
自己紹介を終えた四人。ネリネが魔界の王女だという事実に驚いたりといったやりとりが行われる中で、
(この人が……)
亜沙は玲亜の横顔を注視していた。自分の母とよく似た境遇にある人。この人の目に自分はどう映るのだろう。
(でも、これはボクが自分で決めた事なんだから)
軽く頭を振って浮かんだ考えを追い出し、話に加わる。彼女は気づいていなかった。その間、柳哉がずっと自分を見ていたことに。
* * * * * *
ネリネと亜沙の二人と別れ、帰路に着く三人。
「二人とも可愛かったわねえ。ねえ柳哉?」
「亜沙先輩はともかく、ネリネは稟の婚約者候補らしいぞ?」
「婚約者候補、ですか」
二人に説明する柳哉。説明が進むにつれ、二人の顔に驚きと一種の呆れが浮かんでくる。
「確かに稟君は昔から楓ちゃんや桜ちゃんにモテてたけど、まさか神界と魔界の王女様にまでとはねえ」
「天然ジゴロ、というやつでしょうか」
「本人にはそういう自覚は無いようだけどな」
「兄さんとは違って、ですか?」
「お前も言うようになったな……」
兄さんの妹ですから、と笑う菫。しかし、すぐに真顔に戻る。
「それよりも……」
「亜沙先輩のことか?」
「はい」
「うん、何かやけに真剣な目で見られてたわね」
どうやら亜沙が玲亜を注視していたことには三人共気づいていたようだ。
「菫はともかく母さんが気づくとはね」
「伊達にあなた達の母親はやってないわよ」
自慢げな玲亜。とりあえず無視する。照れくさいので。
「どうも魔法関係で何かあるみたいだ」
今朝の騒動と昼休みの出来事を話す。あれほどまでに魔法を嫌うとはよほどのことがあったのだろう。
「そういう訳だから、一応頭に入れといて」
「うん、了解」
「分かりました」
そう言う柳哉に頷く二人。柳哉にはある程度の予測がついているのかもしれないが、確証のない事は基本的には口にしない。二人は柳哉のそんな性格を熟知していた。
「で、夕食は何にする?」
話題を変える。
「んー、そうねえ」
「久しぶりに外食、というのもいいのでは?」
「ふむ、それもいいか」
「そうしましょうか」
そうして三人は夕暮れの町を歩いて行った。
後書き
これで第一章は終了です。
第二章に入る前に間章(人物設定)が入ります。
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