魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第291話「永遠の別れじゃない」
前書き
―――いつかまた、再会の時が来る
「……一体、何をしたの優輝君は……?」
飛んで行った光を見届けた後、司が呟く。
「本来、イリスは消滅する定めだった。そこを、優輝は無理矢理変えたのよ。人に転生させる事で、“領域”の消滅から免れさせたという訳よ」
「“領域”の根幹には、如何なる存在も干渉が難しいって言ってたよね?それを無理矢理何とかするって、そんな……」
「そう。普通は出来ないはず。それをやったという事は……」
優奈が司や緋雪の言葉に答えつつ、優輝を睨む。
その目には、どこか憐憫が混じっていた。
「……そう。だから、焦っていたのね」
「優奈ちゃん?」
イリスを倒してからの優輝の態度に、優奈はようやく合点が行った。
そんな納得の呟きは誰にも聞こえる事はなく、隣にいた司を疑問に思わせただけだった。
「さぁ、皆戻ろう。足止めに残った皆と合流しながらな」
優輝はそう言って帰路へと就く。
何がどうなったのか疑問に思う面々だが、ずっと留まる訳にもいかないので、一先ず優輝の言う通り皆も帰路に就く事にした。
「それじゃあ、イリスは俺たちと同じように人として転生する訳か」
「ああ。……ただ、記憶は失っているかもな。実際、僕の時がそうだったから」
「私達みたいな転生者とはまた違うもんね。規模も手法も」
歩を進めつつ、優輝は先ほどイリスに何をしたのか簡潔に説明していた。
「ユウキ・デュナミスッ!!」
「ッ!?」
その時、優輝へ向かって一人の女神が襲い掛かる。
一度“領域”が砕けようと、執念で戻ってきたレイアーだ。
あまりの突然さに、優奈以外は咄嗟に動く事が出来なかった。
「………」
「っ……!」
だが、その攻撃は優輝へは届かない。
優輝もそれがわかっていたかのように、その場から動きもしなかった。
「俺を忘れるな」
「ぐっ……ぁあっ!?」
攻撃を受け止めたのは、“死闘の性質”の神だ。
例え瀕死であろうと、物理的戦闘力ならば帝を超える。
その力を以って、レイアーを遠くへ投げ飛ばした。
「お前は……!」
「その様子だと、死闘を制してきたか。それでこそ、俺を乗り越えた人間達よ」
“死闘の性質”の神は、帝との死闘だけでなく、その後もレイアーと戦い続けていたため既に満身創痍だった。
それでもなお毅然と立っている。
「ここに残った皆は!?」
「生きているぞ。満身創痍ではあるがな」
「ッ……!」
アリシア達の安否が気になったのか、アリサが尋ねる。
その問いの答えを聞いた瞬間、フェイトが飛び出して一足先に合流しに行った。
「お前たちがイリスを倒した事で、洗脳も全て解けた。後は消化試合だ」
「その中でもレイアーは“可能性の性質”だから、優輝を一点狙い出来た訳ね……。何ともまぁ、彼女もイリスに負けず劣らずな執念ね」
吹き飛んだレイアーが再び理力による攻撃を繰り出してくる。
“死闘の性質”の神が理力の攻撃を弾くが、全てを捌き切れる訳ではない。
そこで、優奈が余波を食らわないように障壁を展開する。
「……終わりね」
「そうだな」
直後、光の柱がレイアーのいる場所に立ち昇る。
それを見て、優奈は戦闘態勢を解いた。
「今のは……」
「“光の性質”による攻撃よ。それも、イリスと同等の実力者による、ね」
先ほどの光の柱は、アリスによるものだ。
いくら優輝と同じ“性質”のレイアーとはいえ、不意打ちを食らえば無事では済まない。
「皆ー!」
「アリシアちゃん!」
戦闘が終わると同時に、アリシア達がフェイトと共に合流しにやって来た。
かなりボロボロ且つ、アリシアはフェイトに支えられている程だったが、無事に戦い抜いたようだった。
「……勝ったんやな。皆」
合流し、優輝達の様子を見てはやてが安心したように呟く。
直後、緊張の糸が切れたように、はやて達はその場に座り込んだ。
「皆さーん!」
「主様ー!」
戦いが終わったからか、遠くからユーリ達も合流してくる。
ミエラとルフィナがいたからか、こちらは比較的はやて達より軽傷だ。
「後は神の六人か」
「ここにいますよ」
優輝の呟きに答えるように、光が発生する。
その光が収まると、そこに祈梨達がいた。
同時に、アリスもおり、彼女が祈梨達を連れてきたようだ。
「さて、この度は私達に代わり、イリスを倒してくれた事を感謝します」
「……よく言う。前回はともかく、今回は時間さえあれば僕らがいなくとも解決は出来ただろう。準備もしていたみたいだしな」
アリスは感謝を示すようにお辞儀する。
しかし、優輝はどこか呆れたようにそう発言した。
「ええ。ですが、彼女の本心を受け入れさせる事は出来なかったでしょう。彼女が固執していた貴方と、共に戦った者達の正当な成果ですよ」
「それは……まぁ、そうだな」
実際、優輝達が何もしなくとも、イリスは最終的に倒されていた。
だが、行動を起こさなければそれまでの間に優輝達の世界は蹂躙されていただろう。
だからこそ、こうして“可能性”に賭けて突入したのだ。
「……しかし、今回の影響は局所的に見れば以前より遥かに大きいです」
「っ……!」
アリスのその言葉に、ユーリが僅かに反応を見せる。
「……どういう事?」
「神界からの干渉を受けた結果、貴方達の世界はあらゆる平行世界から独立した存在になってしまいました。その結果、時間においても現在以外に存在せず、例えば……」
「私のように、“現在”にあたる時間に干渉した存在でなければ、過去や未来は全て消失してしまう……と言った所でしょうか?」
アリスの言葉にユーリが続け、その返答にアリスは感心したように微笑む。
「ご明察です」
「いえ、グランツ博士の推測から私なりに考えただけです」
元々、祈梨から未来の可能性は全て切り捨てられた事は聞かされていた。
そこから考えれば、アリスの言った事ぐらいならば推察できる。
「平行世界からの独立、か……」
「漠然としか理解出来ないけど、どういう事なの?」
「平行世界については全員大体は分かるだろう?普段は決して交わらない世界だが、互いに影響し合ったりはするんだ」
優輝の言葉に、緋雪達のほとんどは疑問符を顔に浮かべる。
「例えば、ほとんど変わらない平行世界同士は所謂“隣り合っている”状態だ。互いに影響し合うと、その二つの平行世界はほとんど違いがない」
「……そこから独立したって事は、他の平行世界と全く違う道を歩むって事?」
「その通りだ」
緋雪の呟きを優輝は肯定する。
「じゃあ、これからの未来、俺たちの知っている所謂“原作”の流れは……」
「全く辿らない可能性もある」
「そういう事か……。いや、あのジェイル・スカリエッティが味方にいる時点で辿らないのは分かっていたが……」
転生者という介入者がいても、影響は避けられない。
詰まる所、“世界の修正力”がその平行世界からの影響なのだ。
「まぁ、平行世界云々はそこまで気にする必要はないだろう。……問題は、神界の介入に対する影響だろう」
「まだ何かあるの?」
「むしろ、こちらが本題だろう」
そう言って優輝はアリスを見る。
アリスも同じ考えだったのか、優輝の言葉に頷いて言葉を続ける。
「神界の影響によって、貴方達の世界における法則が崩壊しました」
「あっ……!」
「人にあるはずの寿命も消え、死という概念も崩壊。明らかに“世界”としてのシステムが成り立たなくなっています」
そう。その兆候はとっくに表れていた。
現世と幽世の境界の消失に加え、肉体の死が“死”に繋がらないなど。
神界の戦いにおいても、“領域”さえ無事なら決して倒れる事はなくなっていた。
……当然、その分法則も壊れていたのだ。
「どうすれば……」
「世界の法則が回復するまで、我々で代わりを務めるしかありません」
「“性質”はあらゆる世界における事象や概念、法則に通ずるからな。寿命、生死、その他様々な概念も何とか出来る」
だからこその“性質”だ。
一つの世界を運営する程度、その気になれば簡単に出来る。
「……結局、神界の管理下だな」
「最初からイリスに支配されるか、神界に保護されるかの二択だったわね」
「それは……」
いくら支配とは違うとはいえ、管理される事に抵抗を覚えたのだろう。
緋雪達はどこか納得いかなさそうな顔をしていた。
「まぁ、考え方を変えれば管理局が管理世界に認定するようなものだ」
「あー、それやったら納得……出来るんかなぁ?」
規模は違えど管理局と管理世界の関係と同じようなもの。
そう説明する優輝だが、はやての言う通り納得とは別物だ。
「行うのは本来のシステムの運営のみ。貴方達には本来の生活と何ら変わりません。派遣する神もその“性質”の神に限定します。安心してください」
それを聞いて今更安心出来る程、優輝達も単純ではない。
「……まぁ、そう簡単に信じませんよね」
「僕や優奈はともかく、緋雪達は神界の神達に詳しくない。そう簡単に信用しているんじゃ、ここで戦い抜けていないさ」
何より、最初の時点で洗脳されていた祈梨とソレラに騙されていた。
そのため、どうしても疑ってしまうのだ。
「では、システムを運営するのは彼女達に任せましょう」
「彼女達……?」
誰の事なのかと、視線を向ける。
そこには祈梨や天廻など、今回の戦いにおいて全面的に協力した神々だ。
「彼女達ならば、貴方達も信用出来るでしょう。各概念に対応する“性質”でなくとも、理力があればシステムの運営は可能ですし」
顔見知りであれば、多少は信用できるだろうというアリスの計らいだ。
それならば、と緋雪達もある程度納得はしたようだった。
「詳しい事は貴方達に任せます。此度の戦いで疲れたでしょうから、貴方達の世界の入り口まで送りましょう」
そういうや否や、優輝達はアリスによって転移する。
次の瞬間には、出入り口を守るクロノ達が見える位置まで来ていた。
「皆……!」
戦いが終わった事による歓喜と安堵が勝ったのだろう。
緋雪達はゆっくりと駆け出して行く。
「……わかっているのですか?」
そして優輝と優奈、祈梨達が後に続こうとした時、転移に同行していたアリスが言う。
「レイアーが執念で貴方を狙ったのは見えていました。あの時、貴方は平静を装っていましたが……既に、何も出来ない状態でしたね?」
「……さすがに、気づかれるか」
「やはり彼女達と私達では視えているモノが違いますから」
そう。優輝は既に限界だった。
レイアーを前に何も出来ず、ただ優奈か他の誰かが庇うのを待つしかなかった。
それほどまでに、今の優輝は無力になっている。
「イリスとの決着を着けた時点で、限界だったものね。だから、あの時焦っていたのでしょう?幸い、私とイリス以外は気づいていなかったけど」
「ああ。既に僕の“領域”はイリスと同じでボロボロだ。限界なんて、とっくに超えているさ。ここまで来たのも、ただの気合でしかない」
優輝の体から、淡い光の玉が浮き上がっていく。
“消滅光”と呼ばれる、消滅時に発生する光だ。
「彼女達にとって、貴方は重要な存在です。……伝えないのですか?」
「伝えるよ。それに、永遠の別れじゃない」
そう言って、優輝は前へと歩き出す。
アリスもそれを見て、これ以上はなにも言わなかった。
「ゆう……ッ!?優輝、その光は……?」
近づいてきた優輝に真っ先に駆け付けたのは、優輝の両親だ。
そして、すぐに消滅光に優香が気が付いた。
見た目は綺麗なモノだ。だが、嫌な予感しかしなかった。
だからこそ、恐る恐る優香は尋ねた。
「消える前に合流出来て良かった」
たった一言。
その一言で、それを聞いた優奈以外の全員が戦慄した。
「なん、で……?」
「かつての大戦もだけど、“可能性の性質”はその“性質”故に限界を超えて行使する事が出来る。……その代償がこれだ」
緋雪が絞り出すように出した言葉に、優輝は淡々と答える。
それは、かつての大戦でも起きた事。
限界を超えた“性質”を行使し続け、“領域”に大きな負荷が掛かっていた。
それだけならば、単に“領域”が砕ける、もしくは砕けやすくなるに留まるだろう。
だが、その先まで“性質”を行使すれば、こうして“領域”は消滅する。
「完全な神として在れば、砕けるだけに留まっただろうな。でも、僕は人間に戻った後も“性質”を行使し続けた。だから、とっくに限界を超えていたんだ」
「……なんで……なんで、言ってくれなかったの……!」
司が怒りと悲しみを織り交ぜたような表情で優輝を責める。
「言った所でどうにもならないさ。それに、言っていたらその事を気にして力を出し切る事も出来なかっただろう?」
消滅する結果を変える方法はあるにはある。
だが、それもまた代償が必要であり、救えるに向いている“性質”が必要だ。
そして、そのような事実を事前に知っていたら、確かに司達はそれを気にする。
全体を見て最善の過程を優輝は選んだに過ぎないのだ。
「ッ……てめぇ、ふざけんなよ!!なんで、なんでここまで来て……!そんな結末、誰も望んじゃいねぇだろうが!!てめぇも、それは分かってるだろうが!!」
だからこそ、帝がキレた。
せっかく大団円で終われそうになったのに。
ここまで来て、皆の中心であった優輝が消える。
そんな事実が、帝は許せなかった。
否、当然ながら帝だけでない。誰もがその事実を許せなかった。
「いう事は尤もだ。……だけど、誰もこれが“結末”とは言っていないぞ?」
「は……?」
帝に胸倉を掴まれたまま、優輝は答える。
「僕が選んだ“最善”は僕だけが望むモノじゃない。……皆にとっての“最善”だ。おかげで、あらゆる場面で綱渡りになったが……“掴んだ”」
「何を言って……」
「僕らが迎える“結末”はここじゃない。もっと先だ。そうだろう?優奈」
優輝の言葉によって、優奈へと視線が集中する。
注目された優奈は溜息を吐きつつ、優輝へと返答する。
「……よく言うわ。こんな賭けの連続なんて、どんな大博打よ」
「だからこそ、成し遂げた先のモノは大きい」
「うっさい。我ながら周りを振り回して……フォローはしないわよ」
憎まれ口を叩きながらも、優奈の顔に悲壮感はない。
「知ってたのか?この事を……」
「途中で気づいた、が正しいわね。……ただ、同じ立場なら私も考え付いただろうと思うと……やっぱり、私と優輝が元々一つだっただけあるわ」
優奈も優輝から聞かされていた訳じゃない。
だが、途中で優輝の状態に気づき、そこから何をする気なのかを理解したのだ。
それを説明するために、優奈は改めて皆に向き直る。
「消滅する結果を変える方法があるわ。条件は大まかに二つ。一つは代償を支払う程の力。もう一つは“結果”に干渉出来る“性質”である事」
「それって……」
前者はともかく、後者には心当たりがあった。
“可能性の性質”。それならば“結果”にも干渉出来る。
「でも、変えられる本人……今回の場合は優輝ね。優輝自身が“結果”を変える事は出来ない。飽くまで他の人が行う必要があるわ」
「そこで、優奈の出番って訳だ。やり方は見ていただろう?」
優奈もまた“可能性の性質”であり、条件を満たしている。
ここまでの道程を、優輝は“可能性の性質”と“道を示すもの”によって無理矢理辿ってきたのだ。
だからこその“賭けの連続”だった。
「お姉ちゃん……」
「優奈ちゃん……」
「……やってやるわよ。最高で、最善の“結末”を、掴もうじゃない」
理力が渦巻く。
だが、なけなしの理力では足りない。
「余った理力を貸してちょうだい!」
故に、足りない分は天廻達が供給する。
ここまで来てただ見ている訳もなく、天廻達は何も言わずに協力した。
「言っておくけど、これで上手く行くかは賭けよ!」
「百も承知だ」
「なら、受け取りなさい!」
―――“其は、可能性の道を示す導”
イリスにも使われた光が、今度は優輝を包み込む。
「かはっ、はぁー、はぁー……ッ!まったく、私だって代償がない訳じゃないんだから……!」
光が収まった瞬間、優奈は血を吐いてその場に蹲った。
「成功したの……?」
「一応ね……」
イリスの時と違い、優輝はまだそこにいる。
その事から、司は不安がって尋ねたが、確かに成功したと優奈は断言する。
「父さん、母さん」
消滅光はまだ収まっていない。
今ここで一度消えるという事実は変わっていない。
そのため、消える前に優輝は両親へと声を掛ける。
「神としての僕は残っても、父さんと母さんの息子である志導優輝はここで死ぬ。それは変えられない事実だ。……だから」
「それでも!お前は息子だ!」
「そうよ!それは、変わらないわ……!」
遮るような二人の言葉に、優輝は笑みを浮かべる。
「その言葉を聞けて良かった。そして、ありがとう。僕も父さんと母さんの子に生まれて良かった。二人にとっては親らしく出来ないと思った時もあっただろうけど、それでも二人は僕にとって親に変わりなかったよ」
“領域”が消えなくとも、志導優輝の命はここで終わる。
次に目を覚ました時には、二人とは血の繋がりがなくなってしまう。
……だけど、それでも“家族”だと、そう確信出来た。
「……せめて、二人とは言葉を交わしたかったからね。こうして、ここまで来れて良かった。後は……緋雪」
「お兄ちゃん。永遠の別れじゃないなら、さよならは言わないよ」
「……言うまでもなくなったな。緋雪も、強くなったものだ」
緋雪にとっては、転生など今更だ。
だから、別れの意識は持たない。
「司、奏」
「出来るだけ、早く帰ってきてよ。私の大好きな親友」
「また救うだけ救っていなくなるのは嫌よ。……だから、いつかまた恩を返させて」
「ああ。そのためにも、僕は帰ってくる」
覚悟は決まっている。永遠の別れではない。
不安はない訳ではないが、その想いから二人は再会を約束する。
「葵、それと椿……いるか?」
「“領域”が無事だったから、いるわよ」
“意志”を集めた矢を放った椿は、肉体を失っていた。
それでも“領域”は無事なため、幽霊のような透けた姿で存在していた。
「僕の式姫として共にいてくれてありがとう。何度も助けられよ」
「式姫として当然の事よ。……それより、早く帰ってきてよね」
「かやちゃんが寂しがっちゃうからねー。もちろん、あたしも。……だから、実は助からなかった、なんて止めてよね?」
「当然だ」
式姫として、時には家族として、共に過ごしてきた。
そのために思う所は色々あった。
それらを全てひっくるめて、二人は短く言葉を交わした。
「ルフィナ、ミエラ。悪いな、再会したばかりだと言うのに」
「いえ。一時と言えど再会できた。それだけで十分です」
「また会えるのを楽しみにしています。主よ」
最後に己の眷属たる二人に声を掛け、周囲を見渡す。
「皆の“可能性”しかと魅せてもらった!!僕は満足だ!本当に、本当にありがとう!!これから僕は再び人に転生する。いつかまた、再会の時が来る!故に、その時までしばしの別れだ!」
高らかに叫ぶ。
同時に消滅光が一際強く溢れ、光が優輝を包み込んだ。
「さよならは言わない。いつかまた、“可能性”の先で会おう!」
その言葉を最後に、優輝はその場から消滅した。
最後に残った光は天へと伸び、イリスと同じように転生していった。
「………」
「………」
永遠の別れでなくとも、一時の別れだ。
そのため、誰もが何も言いだせず、沈黙が続く。
「……時間がないからって、後の事は私に丸投げなのね」
ただ一人、優奈は呆れたように光が消えた上空を見ながらそういった。
「ほら、しんみりするのも分かるけど、まずは帰りましょう。いつまでも神界にいたらそこの出入り口が閉じれないでしょ」
手を叩いて優奈は全員に催促する。
「でも……」
「でもも何もないわ。これからどうしていくか細かい部分も決めていかなくちゃならないんだから、戦い終わってはい終わりとはいかないのよ」
何人かは名残惜しそうに渋るが、それを無理矢理押して神界から追い出していく。
そんな優奈の態度に、いつまでもしんみりしてられないと、一部の者達も帰っていき、最後に優奈と祈梨達。そしてずっと見ていたアリスだけとなった。
「では、貴女達が出た後は私が閉じておきます」
「頼むわ。神界の事は貴女に任せたわよ」
「はい。お互い、後始末を頑張りましょう」
アリスの言葉に、優奈は苦笑いする。
「しばらくは神としての力も使えないし、のんびりやっていくわ」
先ほどの代償で、優奈は理力を完全に失っていた。
再び戻るのは、人としての寿命を完全に終えてからだろう。
「次会う時は、もっとゆっくり話せるといいわね」
「私もです。貴女の……ユウキ・デュナミスの話には興味が尽きませんから」
その言葉を最後に、優奈達も元の世界へ帰って行った。
アリスはそれを見送り、約束通りに出入り口を閉じるのだった。
後書き
若干短いですけどここまで。
本来ならもっとしんみりする展開にする予定でしたが、いざ進めてみるとただ優輝が周りを振り回しただけになりました。
それでも一時退場なので、緋雪達は割と悲しんでいます。
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