Fate/WizarDragonknight
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散花絢爛
「あっははははは!」
その笑い声に、可奈美は反射的に千鳥を抜いた。
見滝原の街灯。その一角より現れた桜色を、可奈美は防御する。
「やっぱりやるね。……おねーさん……!」
「結芽ちゃん……!」
バングレイにより、可奈美の記憶より再現された刀使、燕結芽。彼女はそのまま、御刀にっかり青江の力を強めていく。
「やっとおねーさんと戦える。この時をずっと待ってたんだ」
「燕……結芽……ちゃん……」
かつて、十条姫和を失った時、敵として戦い、人知れずに病で斃れた刀使。彼女は可奈美を見て、キヒッと笑む。
「前は途中で邪魔が入ったからね! 今回はそうはいかないから!」
「っ……!」
彼女の切っ先が、可奈美の頬を掻っ切る。あとコンマ一秒でも遅かったら、顔に治ることのない傷がつくところだった。
「楽しもうよ、千鳥のおねーさん!」
ほんの一息に、三連続の斬撃を放ってくる結芽。その連撃を受けている最中、可奈美は自らのなかの気持ちの高ぶりを感じていた。
「ほら、どんどん行くよ!」
可奈美自身を上回る攻撃性能。かつて戦った時は見えなかった、天然理心流の極致。
「ほらほら、おねーさんも! 新陰流、もっと見せて!」
「……うん!」
その時点で、エンジェルの存在は可奈美の脳から消えた。
「はあっ!」
結芽の連撃を受け流し、可奈美は返しの一手を振るう。だが、結芽も見る目も追えない速度の連撃が、可奈美へ跳ね返る。背筋を反らしてそれを避け、にっかり青江を蹴り飛ばした可奈美は、結芽の体へ一太刀を浴びせる。
「うわあ~……なんちゃって」
結芽は余裕の表情で、可奈美へ剣を向ける。
そのまま、何度も何度も。
ほとんど二人だけの世界で、可奈美と結芽は打ち合いを続けていた。
可奈美の連撃は結芽が流し、結芽の三連突きは可奈美が弾く。
そのまま、可奈美と結芽は、打ち合いの火花で宇宙の星々を紡いでいく。夜の暗闇で光る閃光は、まさに星々の輝きだった。
「やっぱりすごい……! もっと……もっと見たい! この子の剣を!」
「見せてあげるよ! 私のすごいところ! だから、おねーさんも見せてよ!」
「いいよ……だったら、いくらでも見せてあげる! だから、結芽ちゃんも見せて!」
今、見滝原の町。避難が進んでいるこの地区は、二人だけの世界。
結芽の一挙手一投足と、自分の動きが繋がっているようだった。
彼女の動きを見て、パズルのピーズを嵌めるようにそれに応じるべき動きを勝手に体がしてしまう。彼女も同じように、可奈美の撃たれて返すスタイルの剣撃へ、最適解を出してくる。
「何て研ぎ澄まされた剣……! この剣、いつまでも受けていたい……! 結芽ちゃんに、いつまでも受けてほしい!」
「やっぱりおねーさん、最高!」
それから、結芽と再び宇宙を作り上げる。
何度も。何度も。
だが。
《gold》「我流 燕撃槍!」《/gold》
天空より、無数の黄色の流星が降り注ぐ。
「何!?」
結芽は驚いて、降り注ぐ流星群を打ち落としていく。だが、さらにその中から、桃色の輝きが彼女へ突撃していく。
「勇者キック!」
「友奈ちゃん!?」
結芽へ、まっすぐに蹴りを行う友奈。結芽は慌ててにっかり青江で防御し、受け流す。
「邪魔……しないで!」
結芽は着地した友奈へ斬りかかる。
だが、友奈は防御と同時に逆に殴り返した。
結芽はバックステップで躱し、友奈、そして可奈美の前に降り立った響へ怒鳴った。
「いいところだったのに……! どうして邪魔をするの!?」
「可奈美ちゃん、大丈夫? 助けに来たよ!」
友奈がそう言った。
だが、可奈美はそれ以上に、立ち合いに割り入られたことに腹が立っていた。
「友奈ちゃんに響ちゃん、退いて! あの子と決着付けなくちゃいけないの!」
「え? もしかして私達、お邪魔虫?」
「やっと戦える……! 結芽ちゃんと、決着つけられる!」
可奈美は響を押しのけながら前にでる。だが、友奈は可奈美の前に立つ。
「落ち着いて! 可奈美ちゃん、今状況分かってる? エンジェルが現れたんだよ!」
「エンジェル……?」
さっきまでそのために動いていたのに、可奈美は完全に忘れていた。
スマホにはリゼからの着信があったにも関わらず、可奈美はそれでも結芽と戦いたいと考えていた。
「可奈美ちゃん、今はそれどころじゃないでしょ!」
「でも!」
「エンジェルがいるっていうことは、バングレイもいるってことだよ! あの宇宙人が、響ちゃんを手に入れるためなら、街をどんどん壊していくことだって知ってるでしょ!」
「……!」
「可奈美ちゃん」
友奈に続いて、響も言う。
「ごめんね。私もできれば、あの子と可奈美ちゃんの手を繋いであげたいけど、今はみんなを守る方が優先だよ。あの子との戦いは、また今度にしてくれない?」
「響ちゃんまで……」
可奈美は歯を食いしばりながら結芽を見つめる。
結芽は「退いて! 私とおねーさんの決着の邪魔をしないで!」と訴えている。
可奈美は千鳥を握る腕を強くして。
「……分かった。早く、エンジェルとバングレイのところに行こう」
「うん!」
「オッス!」
友奈と響が並ぶ。
三体一になった。その状況に、結芽は怒った顔を鎮める。
「あ……そう。いいよ。三人で来るんだ。ケガしても知らないからね!」
結芽はにっかり青江を構え、駆け出してきた。
彼女へ、まずは響が前に出た。
「私、立花響! 貴女も、戦うんじゃなくて、一緒に皆を守るために戦おうよ!」
「ええ?」
響の言葉に、結芽は口を尖らせた。
「何で? それじゃあ、おねーさんたちに私のすごいところ見せられないじゃん」
「私達じゃなくて、他の皆を助けて、君のすごいところ見てもらおうよ!」
友奈も響に続く。結芽は頭の後ろで「ええ~?」と手を組む。
「でもなあ……じゃあさ!」
結芽がイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「三人でいいからさ、私を倒してみてよ! そうしたら、言うこと聞いてあげる!」
「「え?」」
響と友奈がきょとんとした。
だが、「うん、それがいいよね!」と一人で納得した結芽は止まらない。
「だからさ、私を楽しませてよ!」
そういって、結芽は走り出す。
可奈美たちの中で、友奈がそれに一番に反応した。
「勇者パンチ!」
桃色の光を纏った拳。
だが、それが結芽に届くことはない。
友奈が結芽の間合いに入ったとき。それは、彼女が結芽の反撃を許した瞬間。
目にもとまらぬ速さで、結芽は友奈の体を切り刻んでいく。
「うぐっ!」
傷だらけで地面を転がる友奈。だが、結芽は続けて、彼女の体を跨いで響へ攻め入る。
「ほらほら、どんどん行くよ!」
「くっ!」
響は結芽の剣をガングニールの腕でガード。その隙に、可奈美も剣を打ち込んだ。
だが、結芽は先読みし、可奈美の背後に回り込む。一拍の間の三回の突き技で、可奈美と響を地面に転がす。
「それ程度じゃあ、私は止められないよ!」
結芽はジャンプで三人から離れる。可奈美、響、友奈はそれぞれ立ち上がりながら次の結芽の動きに身構える。
結芽は「キヒッ」と声を上げ。
「少しだけ。本気出してあげる。びっくりしてくれるよね?」
彼女の雰囲気が変わった。
雪の中にたたずむ彼女の周りを、あたかも蝶が舞う幻覚を、可奈美は感じた。
そして。
「胡蝶迅雷」
その動きは、直線的。だが、可奈美、響、友奈のカウンターは受け付けない。
同じ直線に並んでいた友奈のパンチをかわし、響の蹴りを流し、可奈美の千鳥を切り払う。
すでに、結芽の姿は三人の背後にいた。
「キヒッ」
結芽の笑い声。それに振り向いた可奈美達は、
「うっ!」
「がっ!」
「ぐあっ!」
自らのダメージに気付き、倒れた。
「あれれ? おねーさん達、弱すぎ~!」
結芽は振り返り、にっかり青江を振りながら言った。
「そんなんじゃ、私を味方にできないよ?」
「ま、まだまだっ!」
友奈が自らに発破をかけて起きあがる。
「うおりゃああああああ!」
友奈は回転蹴りを放った。だが、全てを先読みした結芽は、むしろしゃがんで友奈の足を払い、がら空きになった彼女の腹へ唐竹割。
「がっ!」
友奈は悲鳴とともに、その場で気絶した。
「友奈ちゃん!」
「甘いよ」
駆けつけた響はさらに結芽の連撃を喰らう。
「響ちゃん!」
結芽の剣を受けようと立ちはだかる可奈美だが、彼女の猛攻を防ぎきることはできない。結芽の一撃で、響とともに転がってしまった。
「こうなったら……! うおおおおおおおおおおおお!」
追い詰められた響が叫ぶ。すると、その体より雷光の輝きが天へ伸びていった。
雪雲を雷雲に書き換える雷は、やがて響の体を甲冑に作り変えていく。
サンダーベルセルク。オーパーツの力が、彼女の全身に宿っていた。
「へえ……面白いじゃん」
響の新しい姿に、結芽は不適な笑みを浮かべる。
「千鳥のおねーさん以外にもこんなにすごい人がいたんだ! ねえ、見せてよ!」
結芽はその刃先を可奈美から響に変更する。
向かってきたにっかり青江に対し、響は背中に付けられたイナズマケンで防御する。
珠鋼の剣と雷の剣のぶつかりは、ビリビリと乾燥した空気に電気を走らせていく。
「ほらほら、もっともっと!」
結芽は笑顔で、響の剣を受ける。
だが、オーパーツの力を得たとはいえ、響は剣を手慣れてはいない。徐々に結芽の方が優勢になっていく。
「響ちゃん!」
可奈美も響に加勢する。
「おおっ! おねーさんも来る? それって、二人がかりじゃないと私を倒せないってことだよね!? 私って、すっごく強いってことだよね!」
「うん、そうだよ結芽ちゃん! 多分、私がこれまで戦ってきた刀使の中で、すごく強いよ!」
もし、彼女と比肩できる剣の使い手がいるとすれば、可奈美が知る中では十条姫和かアカメくらいだろうと可奈美は思った。
「じゃあ、これで決着付けようか!」
結芽は大きく踏み込む。
大技が来る、と可奈美が思った時。すでに結芽は、二発の突きを放っていた。
それはそれぞれ、防御が遅れた可奈美と響の体に突き刺さる。
「うわっ!」
「うっ!」
ダメージを受けた可奈美たち。その間に、結芽は飛び上がり、近くの建物の壁に密着する。
「これで、終わり!」
結芽はそこから反発。可奈美と響へ一気にトドメの突きを放った。
だが、それに合わせて、響はイナズマケンを振り上げ。
可奈美もまた、写シの色を深紅に染め上げた。
「散花絢爛!」
「太阿之剣!」
「我流! 超雷電大剣!」
三つの剣が、雪景色を光に溶け込ませていく。
やがて、可奈美が視界を取り戻したとき。
「まだ……まだ……!」
生身に戻っていた可奈美と響の前には、体が粒子状に消滅しようとしている結芽がいた。
「まだ、私は終わってない!」
「結芽ちゃん……!」
もう、消滅は間違いない。
バングレイの悪戯によって記憶より呼び戻された死者は、今再びこの世から消滅しようとしている。
だがその刹那、結芽は可奈美の襟首をつかんだ。
「消えたくない……! 消えたくない! 何にもいらないから、私は皆に覚えてほしい……! 私が強いところ、おねーさんは覚えているんだよね!」
「結芽ちゃん! 私は!」
だが、結芽の体は可奈美の返答を待ってくれなかった。
すでに結芽の体は、粉々になって消滅。光となって、雪の中に溶けていった。
「……私が結芽ちゃんを覚えていたからこそ、今こうして記憶から呼び戻されたんだよ」
その答えは、雪だけ。
「私は、絶対に忘れないよ。初めて戦った時も、今回も。結芽ちゃんは、誰よりもすごい刀使だよ」
それ以外、彼女への弔いを見つけられなかった。
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