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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第290話「イリスの本心」

 
前書き
―――“神だから”……そんな風に、縛られる必要なんてなかった 

 




















「(………私は……)」

 薄れゆく意識の中、イリスはふと思い出す。
 なぜ、自分はこのような事をしでかしたのか。
 最初に行動を起こそうと思った理由は何だったのか。

「(……私は、神として間違っていた……のでしょうか……?)」

 神界における神は、その“性質”に沿った生き方をする事が多い。
 戦闘に関する“性質”ならば、戦闘を好むように性格にも影響する。
 だからこそ、イリスは“闇の性質”らしく、“闇”を撒き散らしていた。

「(“性質”に縛られて……でも、それ以外の生き方を私は―――)」















「―――本当に?」

「え……?」

 その時、薄れていた意識がはっきりとする。
 否、これは目を覚ましたとは程遠い、
 言うなれば、精神世界。
 そこにイリスはいた。

「本当に、“性質”に沿った生き方以外を、知らないのですか?」

 周囲は“闇”のように真っ暗で、その中でイリスの姿が浮き上がるように在った。
 目の前には、イリスに瓜二つ……否、まさに“もう一人のイリス”がいた。

「どう、して……?」

「元々消える定めでしたが……彼のおかげで生き永らえていたんですよ」

 そのイリスは、本来なら消え去っていた“領域”の欠片のイリスだ。
 優輝によって今まで優輝の中に残っており、優輝がイリスへトドメを刺す際に、イリスの中へと送り込まれたのだ。

「………」

「……先の問いに戻りましょう。本当に“性質”に沿った生き方以外を、貴女は知らないのですか?」

「それ、は……」

 先ほどまでなら、認めないと否定していただろう。
 だが、打ち負かされた今では、否定しようとする事すら出来なかった。

「知らないはずがありません。貴女は、確かに理解していた。あの時の私の言葉も、“性質”に縛られない生き方も、全部」

「………」

 今までの行動を、イリスは振り返る。
 思えば、“性質”には関係ない行動を取っていた。

「わかるはずです。貴女は私であり、私は貴女なのだから」

「……はい」

 最初は、“性質”による行動だった。
 “闇”を振りまき、目につく神や“天使”を洗脳した。
 そうして神界を混乱に陥れ、自身の対となる神とその味方についた神々と戦った。
 そして、最後にはユウキによって封印された。

「彼に執着したのも、また“性質”から外れた行動です」

「……そうですね」

 その時に、ユウキに魅せられた。
 あらゆる“可能性”を。
 どんなに勝ち目が薄くとも、それを掴み取る“意志”を。
 イリスは、そんなユウキの姿に強く惹かれた。
 だから、封印されてからずっと執着していた。

「その時点で、貴女は“性質”に縛られない生き方が出来たんですよ」

「っ……」

 正論だ。まったくもって正論過ぎた。
 イリス自身、それを自覚していたが故に、何も言えない。

「ただ人のように恋する。誰かを愛する。……その事を貴女は“たったそれだけ”と言ったようですが……私にとっては、むしろ貴女に向けた言葉ですね」

「それは、どういう……」

「貴女は、それがどういった感情か明確に自覚する前に、彼に強く執着して今回の事を引き起こしたのでしょう?」

 そう。どちらのイリスも根本は変わらない。
 欠片のイリスは恋したが故に優輝を助ける行動を起こした。
 対し、イリスもユウキに対する感情に突き動かされ、執念のままに行動した。
 一つの“想い”で行動を起こした事に、なんら変わりはない。

「彼に対する執着が過ぎた故に、神界を巻き込んだんです。……それに比べれば、彼を手助けした私の動機程度……ねぇ?」

「ぅ……」

 封印の中でも、イリスは意識があった。
 ユウキに魅せられたが故に、どんなに絶体絶命であろうとも足掻き、そして逆転しようとする“可能性”を見ようと躍起になって行った。
 その結果が、今回の神界での戦いだ。
 それと比べれば、欠片のイリスが手助けした事ぐらい、大した事はないだろう。

「さて、ここまで話しましたが……貴女は、彼の事をどう思っているのですか?」

「……それ、は……」

 “どう思っているのだろう?”。そうイリスはふと引っ掛かった。
 ここまで、ユウキに対して異様なまでに執着していた。
 その根源たる“想い”は一体どんなモノだったのだろうかと。
 今まで考えようとも思わなかったがために、すぐに答えを出せなかった。

「(愛しい?憎い?憧れ?嫌悪?……愛憎が入り乱れ、て―――)」

 ぐちゃぐちゃと、自分で自分の感情が分からなくなる。
 しかし、だからこそ執着していたのだと、どこか納得していた。

「私は貴女で、貴女は私です。……どう思っているかなんて、答えはわかり切っているでしょう?」

「―――あ」

 ユウキについて考える度、心が締め付けられた。
 何度も悩まされた。行動を理解しようとした。もっと見ていたいと思った。
 それらをひっくるめれば……答えは自ずと出てくる。

「……そう、そうでした、ね。私も、ずっと……」

 “恋している”。
 その先を言わずとも、どちらのイリスもわかっていた。

「……だから、同じ私でも貴女の存在が許せなかった。だって、同じ“領域”と“性質”だとしても、恋敵なんですから……」

「欠片の私を別人と捉えていたから、そう思ったんですよ。私からすれば、元々は一つでしたから、あまり気にしていませんでしたが」

 欠片のイリスは、本体のイリスを“理解を拒んだ場合の自分”と捉え、それもまた自分自身だと思っていた。
 対し、本体のイリスは欠片の方を“自分ではなくなった誰か”と捉えた。
 その違いが、許す許さないの境界線だったのだ。

「貴女が自覚した所で、もう一つの悩みを解決しましょうか」

「もう一つ……あ……」

「そう。(イリス)は神として間違っているのか、です」

 イリスが吐露した最初の独白。
 イリスが神としての生き方しか知らなかったが故の悩みだ。

「そもそも、知識の前提が違ったのです。貴女は……というか、私もつい先日まで知らなかったのですが、神界における“神”は便宜上の呼称に過ぎません」

「それは……“天使”と同じように?」

「はい。“性質”を持ち、その概念などを機能させるための機構。それが“神”としての私達です。そこに人格などは加味しません」

 欠片のイリスも、優輝の中にいなければ知らなかった事だ。
 優輝の知識をいくつか知ったからこそ、欠片のイリスも“答え”を出せた。

「そして、神界における私達は、他世界での人間と立場は同じです。傍から“性質”を見れば、それは確かに“神”に思えるでしょう。ですが、神界では普通です」

「それは……確かに」

 特に呼称する言葉がなかったがために、神と名乗っていただけなのだ。
 神界に生きる生命という意味では、人間と何も変わりない。

「つまり……“神”としては、間違っていません。ですが、神界に生きる生命としては、些か自分を縛りすぎ、という事ですね」

「……ふふ、なんですか、それ」

「ぶっちゃけ、貴女は確かに“闇の性質”らしくあった。むしろ、らしくあり過ぎたんですよ。もっと自由に生きて良かったのです」

 “闇”というのは、どうしてもマイナスのイメージが付属する。
 そのため、“闇の性質”の神は支配や悪に傾倒しがちだ。
 それらを律するという役割と思って善神であり続ける神もいるが、基本は悪神だ。
 イリスもその例に漏れずに“闇”を振りまいていた。

「普通の、それこそ人間のように自由に生きて、恋して、それでも良かったんです」

「っ………」

 気が付けば、イリスは涙を流していた。
 表面上は平静でも、“性質”に縛られていた事は負担だったのだ。
 欠片のイリスも、自分を慰めるようにイリスを抱いた。

「“神だから”……そんな風に、縛られる必要なんてなかった」

「はい。……私達は、もっと自由で在れます」

 “ストン”と、腑に落ちる。
 自分と、もう一人の自分。お互いの言葉が、染み渡るように心を落ち着ける。

「……そろそろ時間ですね」

「え……?」

 その時、欠片のイリスの体が淡く光り、薄くなり始める。

「消滅光……どうして……?」

「当然です。私は貴女の“領域”の欠片。貴女の“領域”の中であるここに居続ければ、こうして一つに戻ろうとするのは決まっていた事です」

 “領域”は元々一つで、その“領域”が欠けていた状態だ。
 その破片が見つかったのなら、欠けた部分を埋めようとするのも当然だ。

「こうして貴女に気づいてもらえたなら、抵抗する理由はありません。彼らのように別の存在として分かたれたならともかく、私達は元々一つ。こう在るべきです」

「………」

 欠片のイリスは、再び一つに統合される事に抵抗はない。
 否、本体のイリスもそれは同じだ。
 優輝と優奈の二人とは違い、イリスは完全な同一存在。
 元に戻るだけなのだから、何も悔やむ事はなかった。

「ふふ、覚悟だけはしてくださいね。私と貴女で、彼への想いは膨れ上がりますよ?」

「えっ、それは……!?」

 最後に爆弾発言だけ残し、欠片のイリスは元のイリスへと還元されていった。
 そして、本体のイリスは言葉の意味を頭より早く、感情で理解した。

「ッ……!」

 噴水のように、優輝への想いが溢れかえる。
 元々本心では好いていた相手だ。
 そこに加え、欠片のイリスが抱いていた純粋な恋心が加わる。

「は、ぁ……!」

 “好き”という単語が頭の中で繰り返される。
 動物で例えるならば、まるで発情したように顔を上気させていた。

「さ、最後の最後に、なんてモノを残していくんですか……!」

 人間らしい恋とはいえ、その身は人を超越した存在だ。
 何とか溢れる感情を抑え、今はいないもう一人の自分に憤った。







「でも、嫌じゃないでしょう?」

「ッ―――!」

 ふと、自分しか存在出来ないはずの空間に声が響く。
 この空間に存在出来るのは、イリスかイリス自身が許した相手だけだ。

「……貴女は……」

「またもや、おいしい所は彼に持っていかれましたね」

 唯一、例外として対となる神は干渉出来る。
 アリス・アレティ。イリスの対となる“光の性質”の神がそこにいた。

「直接会うのはこれが初めてですね、イリス・エラトマ。前回も今回も、終ぞ直接見える事はありませんでしたし」

「……い、いつから見てたんですか」

 イリスの問いに、アリスはわざとらしく首を傾げ考えこみ……

「“領域”の欠片の方の貴女が話しかけた時から、でしょうか?」

「ほぼ最初からじゃないですかっ!」

 顔を真っ赤にしてイリスはアリスに激昂する。
 自分の本心や恥ずかしい所を全て見られていたのだ。
 
「っ………はぁ、もういいです。それで、何の用ですか?」

「おや、あっさりと流すのですね」

「掘り返さないでください!」

 恥ずかしいからこそ、さっさと本題に移りたいのだと、イリスは言外に示す。
 アリスもそれを理解して“分かりましたよ”と肩を竦めた。

「しばしの別れの挨拶を、と思いまして」

「―――――」

 アリスから放たれた言葉に、イリスは絶句する。

「……気づいていたんですか」

「封印されたのと、“領域”が一度砕かれたのでは大きく違いますからね。貴女は自らの“領域”を酷使し過ぎた。加え、最後の戦闘においては、限界を超えて力を行使し続けていた。……その代償は大きいですよ」

 イリスの“領域”は一度も砕けた事はない。
 だが、今までの戦闘で多くの罅が入っている。
 そこで限界を超えた力の行使を行ったため、“領域”に不具合が生じた。
 優輝と違い、限界突破の“可能性”は掴んでも代償を回避する“可能性”までは掴む事が出来なかったのだ。

「その結果―――」

「みなまで言わなくてもわかっています。……消える、のでしょう?」

 神界において、神が本当に“死ぬ”という事は滅多にない。
 だが、あり得ない訳ではない。
 かつてのユウキがそうだったように、“領域”が消滅する事もある。

「……私は神として狂っていた。ですから、この状態になるまで“性質”を酷使し続けられた。でなければ、“領域”の消失とまではいかなかったでしょうね」

「そうですね、愛に狂っていましたからね」

「………」

 真面目なのか、茶化しているのか、アリスの言葉にイリスはそっぽを向く。
 顔が若干赤いのは、やはり他人に言われるのは恥ずかしいのだろう。

「対となる貴女が消失するのは、少し寂しいモノがありますが……まぁ、これも人間でいう運命のようなものです」

「……そうですね」

「最後に……自分の本心に気づけて良かったですね。イリス」

 その言葉を最後に、アリスはイリスの“領域”から去って行った。

「……本当に、その通りですね……」

 アリスに言われた事を確かめるように、イリスは呟く。
 その顔は、どこか晴れやかなものになっていた。













「た、倒したの……?」

 仰向けに倒れたまま動かないイリスを見て、なのはは恐る恐る呟く。

「……“闇”は収まっている。でも、“領域”は砕け切っていない」

「じゃあ……」

「いや、もう追撃の必要はない」

 “領域”が砕けていないという事は、まだ倒し切れていないという事だ。
 しかし、優輝はもう大丈夫だと皆を制する。

「(……やはり、“領域”を酷使していたか)」

 元々神だったからこそ、優輝には視えていた。
 今のイリスがどんな状況なのか。

「それで、どうするつもりなの?」

 当然、半身とも言える優奈もそれはわかっている。
 その上でどうするつもりなのかを、優輝に問う。

「出たとこ勝負だ」

「……は?」

 はぐらかしたのか、本気なのか。
 どっちであろうと、優奈はその言葉に呆れた。

「お兄ちゃん!」

 そんな優輝達の下へ、少し離れていた緋雪達も合流する。
 見れば、フェイトやアリサも追いついてきたのか合流していた。

「イリスは……」

「まだ生きている。それに、もう目を覚ましているんだろう?」

 倒れているイリスに、優輝はそう声を掛けた。
 同時に、その言葉を聞いて優輝と優奈以外の全員が戦闘態勢を取る。

「……そんな、構えなくてもいいですよ」

「随分と憑き物が落ちたような顔つきになったな」

「少し、“領域”の内でもう一人の私と話しましたから」

 倒れたままの体勢で、イリスは優輝と会話する。

「今度はちゃんと受け入れたか」

「あそこまで打ちのめされたら、嫌でも受け入れますよ」

「それは重畳。今後は、人間らしい感情で世界を巻き込まないようにな」

 先ほどまでの戦いは何だったのかと言わんばかりに、落ち着いた会話だ。
 その様子に、緋雪達もどこか茫然としていた。

「……いつから、気づいていましたか?」

「僕に対する感情にか?」

「はい」

「……お前、あれで気づかれないと思っていたのか?」

 優輝の呆れたような言葉に、イリスは“ふいっ”と顔を逸らす。
 思い返せばかなりあからさまだったのが自分でもわかったからだ。

「まぁ、確信したのは僕を洗脳した時だ。あの時のお前は本心を少し曝け出していたからな。それまでは、別の感情が入り混じっていたから、半信半疑だった」

「……思えば、あれも少し恥ずかしいですね……」

 洗脳する際に優輝に行った事を思い出し、イリスは赤面する。
 それを見て、緋雪や司などが密かに色めき立つ。

「優輝君、一体何が……」

「あー、司、聞くのは後ね?」

 思わず尋ねる司だが、話の流れを切らないように優奈がそれを制する。

「本当に、さっきまでとはまるで別人だな……」

「……単に、神として在ろうとするのを止めただけですよ」

 帝の呟きにも、イリスは律儀に答える。
 先ほどまでの狂気的な面影はもうない。
 今のイリスは、非常に穏やかだった。

「それで、貴方達は私をどうしますか?どのような形であれ、それは私への罰であり、贖罪となります。特に被害を受けた世界の住人である貴方達には、その権利があります」

「………どうするの?お兄ちゃん」

 イリスに戦う意志はもうないとはいえ、何かしらの結末は必要だ。
 それをどうするべきか、最終的に優輝に委ねようと視線が集まる。

「どうもしない、と言うと少し語弊があるが……」

「……なるほど、気づいていましたか」

 力を抜くように目を瞑るイリス。
 その言葉がどういう意味なのか、今度はイリスに視線が集まった。

「お察しの通り、私の“領域”は既に限界を迎えています。一度も“領域”が砕けなかった事が却って仇となったのでしょう」

「お前の“領域”は消えてなくなる。砕けるのとは違う、完全な消失だ。……神界における“死”でもあるな」

 周囲がざわつく。
 トドメを刺すまでもなく消え去るというのは、最早罰を与えると言った話どころではなくなるからだ。

「……イリス、お前はどうしたい?」

「どうもしませんよ。この結果は私が招いた事です。大人しく受け入れて―――」

「そういう事を言っているんじゃない」

 それは飽くまで結果でしかないと、優輝はイリスの言葉を遮る。

「お前がどうしたいか聞いているんだ」

「どうしたい、なんて……今更、私にそんな……」

「お前の望みはなんだ!?イリス!」

 言い渋るイリスに、なおも優輝は問う。

「(……焦ってる?)」

 その時、近くにいた優奈が優輝を見て気づく。
 優輝が焦っているのだ。ここまで来て、何かに急かされるように。

「………、………」

「なんだ?」

「貴方と、ずっと一緒にいたい。そう言ったんですよ……!」

 顔を真っ赤にして、イリスは吐き出すように告白する。

「なんですか!ここに来て辱めが目的ですか……!」

 皆が見ている前で告白させられたのだ。
 イリスが羞恥に染まるのも無理はない。

「貴方への想いを自覚したのですから、貴方と共にいたいに決まってるじゃないですか……!ですけど、それはもう無理なんです……!」

「……このままであれば、な」

 優輝はそう言って、イリスに掌を向ける。

「今この場における代表として、僕が告げる。……イリス、お前への罰として、神界から追放とする。今一度人として転生し、自らの行いを顧みよ」

「ッ……!?」

 “可能性の性質”による力場が優輝とイリスを覆う。
 否、“性質”だけではない。優輝の持つ別の“ナニカ”をも消費している。

「優輝!?」

「お兄ちゃん、何を……!?」

 光のようなものが二人の下から吹き出る。
 明らかに何かしようとしているのは確実だ。
 だからこそ、優奈含め全員が驚愕する。

「貴方は……何をするつもりですか……!?」

「“領域”が消滅しようと、神が生き残る方法はある。僕がその生き証人だ」

「っ、まさか私を……!?」

 人として転生させる事で、イリスを延命させる。
 ……それだけならば、イリスも優奈も慌てはしない。

「止めなさい優輝!それ以上……!」

「おいおい、そんな止める程か……?」

「帝は一旦黙ってて!」

 驚きはしたものの、イリスと優奈以外は慌てていない。
 二人にしかまだ気づけていないのだ。

「……覚悟の上だ」

「ッ……!」

 その言葉に、イリスも優奈もそれ以上は止める事が出来なかった。
 それだけの覚悟が、たった一言に籠められていたからだ。

「緋雪。“導王”は、なぜそう呼ばれるようになったと思う?」

「え……?それは……人々を導いて国を造ったから?」

 唐突な問いに緋雪は戸惑いながらも答える。
 その答えは、二人がムートとシュネーだった時から大々的に知られていたモノだ。

「確かにその一面もある。だが、その本質は導王の持つレアスキルにあった」

 “可能性の性質”による光に、新たな力が注がれる。

「“道を示すもの(ケーニヒ・ガイダンス)”……」

「その通りだ」

 今まで、存在はわかっていたが、効果が抽象的にしか分からなかったレアスキル。
 それによる“力”が光に注がれたのだ。

「普段であれば、自身及び周囲に答えや道筋を示す抽象的な力を発揮するが……その力を極限まで高めれば、それを実体化させられる」

 まるで神話にある神の奇跡のように、優輝とイリスが光に照らされていく。
 その間にも、優輝の“力”は高まっていく。

「運命や因果すら捻じ曲げて人々を導く事が出来るレアスキル。それを持つからこそ、“導王”と呼ばれるようになったんだ」

「……今回は、それだけじゃないんでしょう?」

「当然だ」

 今更導王の所以を知った所で、そこまで重要ではない。
 “その先”こそが本命だとばかりに、優奈の問いに優輝は笑う。

「そこに“可能性の性質”を加えれば、神界の神にすら作用させられる」

「っ、まさか、その力で私を……!?」

「その通り。お前の“運命”を捻じ曲げる!」

 極限まで高まったその力が、解放された。
 光が降り注ぎ、イリスを包み込む。

「貴方は、本当にいつも……!」

「しばしの別れだ。積もる話は、その時にな……!」

   ―――“其は、可能性の道を示す導(フュールング・メロン・デュナミス)

 イリスを包み込んだ光は、そのまま飛び上がりどこかへ消えていった。















「……だから、“しばしの別れの挨拶を”と言ったんですよ。私は」

 遠く、未だに暴れる悪神達を抑える戦場で、アリスは呟く。
 まるで、こうなる事がわかっていたかのように。



















 
 

 
後書き
其は、可能性の道を示す導(フュールング・メロン・デュナミス)…“μέλλον(メロン)”は未来のギリシャ語。導王のレアスキルと“可能性の性質”を掛け合わせる事で、神界の神に対してすら、その結末を捻じ曲げる事が可能。


なんというか責任問題等を全力投球でどっかに投げ飛ばした感じの決着。
ちょっと投げやりですが、これでイリス戦は完全に終わりです。最後にアリスが再登場しましたが、あれは単に再会できるのにイリスは最期の別れのように言っていたため、ああいった言い方をしました。優輝達以外の神々は脇役でしかないため、何か企みがあっても本編には関わりません。 
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