魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第288話「人と神」
前書き
イリス戦の続きからです。
ちなみに、おそらく300話に届かずに完結すると思われます。
「優奈ちゃん!」
優輝達とイリスが戦っている中、優奈の下へ司が辿り着く。
「……よくあの中をやって来れたわね、司」
「脇目も振らずに、だったからね」
“祈り”を利用して気配遮断をした事で、他の戦いに巻き込まれる事なく、ここまでやってくる事が出来たのだ。
「状況は?」
「戦場が隔離されるのは知っているわね?私は中へ通すためにここにいるわ。それで、中の様子だけど……今の所、劣勢ね」
「……そっか……」
優奈も詳細までは分からない。
それでも、大まかな状況は漏れ出てくる力の波動から察する事は出来た。
「行ってきなさい。多分、貴女が最後のピースになるわ」
「……うん!」
―――“可能性の導き”
穴が開けられ、司は中へと入って行った。
「ッ……!」
一方で、優輝達は確かに劣勢を強いられていた。
戦闘の最中で成長を続けるイリスに、全員が攻めあぐねていた。
「くっ……!」
“闇”による不定形の武器を振るいつつ、“闇”の触手で攻撃する。
既に、極光などを用いた力押しの殲滅はあまり使ってこなくなった。
それをする余裕がない程度には消耗しているのだが、使い方が的確になっていた。
「おおッ!!」
「ふッ!」
「通りませんよ!」
つまり、いざ使う時は回避も防御も難しくなっている。
武器と触手を抜けて攻撃を仕掛けた帝と緋雪が、極光に呑まれた。
「はぁっ!!」
防御すら射貫く遠距離攻撃も命中はしない。
戦闘技術を得たイリスは、優輝や奏のように最小限の動きでそれを避ける。
そもそも、帝や緋雪レベルの強い攻撃でなければ、ほとんどが防がれている。
「『このままじゃジリ貧だ!攻略法は一つ、どうにかしてイリスの“闇”を削げ!でなければ、防御は貫けない!』」
優輝が念話を飛ばし、そう伝達する。
戦闘をしつつも、全員がその言葉に耳を傾ける。
「『これまで防御を貫いたのも、イリスの想定通りだ!……あいつ、この最中で回避の練習すらやっていた!』」
優輝や葵などが当てられなかった攻撃も、イリスが誘導したものだった。
厳密には、突破してくる事を想定して、確実に避けられるようにしていたのだ。
「『“闇”を削ぐために……緋雪!頼むぞ!』」
「『了解!』」
“闇”を削ぐ方法はいくつか存在する。
一つは、司などが使う浄化や光によって祓う事。
もう一つは、優輝が“固有領域”をぶつけたように、理力で無理矢理打ち消す事。
そして、今から行う緋雪による“破壊の瞳”で破壊する事だ。
「『僕と奏、葵で武器を請け負う!帝!触手は頼んだ!』」
「任せなぁッ!!」
そこかしこから発生する触手を、帝が片っ端から殴ってへし折る。
未だに物理的戦闘力なら最強の帝だ。これぐらいならば一人で事足りる。
「『神夜。お前が隙を作り出せ。方法は任せる』」
「『……わかった』」
直後、優輝、奏、葵が駆けだす。
同時に帝が拳圧を飛ばし、触手を弾く。
「はぁっ!」
「何をするかは、読んでいますよ!」
優輝達が不定形の武器を弾く……かと思われた。
だが、武器の矛先は神夜と緋雪に向けられた。
「ッッ!!」
「っ……!?」
「それも、想定通りだ……!」
“意志”と魔法と霊術を掛け合わせる事で、転移を成立させる。
向かう先は、神夜の前。
優輝は神夜を狙う事を想定し、いつでも庇えるように準備していた。
そのおかげで、神夜へ向かう矛先を辛うじて逸らす事に成功した。
「ぜぁっ!!」
そして、すかさず神夜が“意志”を極光として放った。
帝が触手を弾き、奏と葵が極光の通り道を確保する。
「ッ―――!」
イリスの目の前で閃光が弾ける。
神夜の“意志”が、イリスの障壁を砕いたのだ。
さらに、衝撃波が生じた事で、僅かにイリスは仰け反る。
「ここッ!!」
―――“破綻せよ、理よ”
そして、その隙を緋雪は逃さなかった。
神夜と違い、緋雪が打つ一手は僅かに後だ。
だからこそ、不定形の武器が差し向けられても一撃目は避ける余裕があった。
尤も、追撃は躱せずに、現在は武器に貫かれた状態だが。
「っづ!?」
“闇”が弾けると共に、イリスが呻く。
「削った!!」
「今だ!」
触手の勢いが衰え、不定形の武器も脆くなる。
その隙を優輝達は逃さない。
優輝が魔法と霊術で触手を牽制し、葵が大量のレイピアを生成して武器を抑える。
そして、奏と帝が即座に仕掛けた。
「差し込め!」
「ええ!」
イリスも負けじと障壁を再展開し、全方位に弾幕を展開する。
帝と奏はそれを至近距離で避けながら攻撃を繰り出す。
威力の高い帝の連撃を軸に、奏が差し込むように斬撃を叩き込む。
「おおッ!」
「ッ、ナイス!」
一方で、神夜が“意志”を斬撃として飛ばし、触手を一気に薙ぎ払う。
これにより、優輝の手が空く。
そのまま優輝は跳躍し、弾幕を躱しつつ一本の槍を創造する。
「射貫け!」
―――“Gáe Bolg”
槍が一筋の閃光となる。
「くっ!」
“意志”も籠められ、見るからに貫通力に特化している。
そのため、イリスは障壁で受け止めずに不定形の武器で対抗した。
“闇”を圧縮した武器をさらに圧縮、集束させ、矛先同士がぶつかり合う。
「吹き飛びなさい!」
「ッ……!」
同時に、帝の攻撃を多重障壁で受け止め、即座に障壁を変質。
司が使う拒絶の“祈り”のように、吹き飛ばすエネルギーとなる。
魔法でいうバリアバーストの完全上位互換のソレに、帝は吹き飛ばされる。
「くっ……!」
奏が食らいつくも、その反撃方法を得たイリスに攻めあぐねる。
攻撃の溜めをする余裕もないため、防御も貫けない。
「はぁあああっ!!」
そこを、緋雪が補う。
遠距離からの“破壊の瞳”でもいいのだが、イリスも対策していた。
“闇”を用いて、物理的ではなく“破壊の瞳”特化の防御が展開されていた。
これがある限り、緋雪の“破壊の瞳”は通らない。
その分イリスも“闇”を割かなければならないが、攻撃手段が限られるのは痛い。
「っ……!(通らない!)」
イリスは特別武闘派ではない。
単純な斬り合いであれば、力押しの多い緋雪や帝にすら技術で劣るだろう。
だが、障壁を用いればその限りではない。
戦闘技術が向上した今ならば、防御を集中させる事で的確に攻撃を防ぐ。
故に、緋雪や帝の攻撃ですら簡単には通らない。
「(埒が明かないか。なら……!)」
膠着状態になる前に、優輝が流れを変える。
触手を神夜に任せ、自らも切り込んだ。
「ふッ……!!」
理力は使えなくなっても、“意志”がある。
その“意志”によって、優輝はイリスの障壁をドリルのように削る。
「貴方らしからぬやり方ですね……!」
またもや障壁が変質する。
先ほど帝を吹き飛ばしたモノだろう。
奏と緋雪も葵が抑えきれなかった武器の攻撃で退けられ、援護は望めない。
「いいや、いつも通りだ」
だが、優輝には導王流がある。
不可視の衝撃だろうと、方向性のある攻撃である限り、導王流は適用出来る。
「ぐっ!?」
衝撃によって優輝の右肩が吹き飛ぶ。
しかし、優輝はその反動を利用して体を捻り、蹴りから“意志”の斬撃を放つ。
障壁は変質させたがために、そこに防がれるモノはない。
イリスは辛うじて直撃を避けたものの、優輝と同じく右肩が切り裂かれる。
「ッッ!!」
「くっ……!」
直後、イリスは“闇”を爆発させる。
一度間合いを離し、体勢を立て直すつもりだ。
「ッ―――!」
無論、それを黙って待っている優輝達ではない。
間合いを取るための咄嗟の行動であれば、他の行動は意識外だ。
つまり、触手や武器も一瞬動かない。
そこを狙い、全員で一斉攻撃を仕掛けた。
「がっ!?」
イリスにダメージを与えるには、強い“意志”が必須。
そして、それをぶつけるには物理攻撃が最も効率的だ。
そのための一斉攻撃だったが、イリスは即座に対応した。
まず、不定形の武器で薙ぎ払い、避け切れなかった帝と葵を弾き飛ばす。
「このっ……!」
さらに“闇”の触手を足元から振るい、対処させる事で緋雪の攻撃を封じられる。
「っ……!」
これ以上攻撃は阻止出来ないのか、帝の拳は障壁の多重展開で受け止められた。
「くっ……!」
その上での優輝と奏の挟撃だったが、それも当たらない。
不定形の武器が変形し、二人の攻撃を受け止めたのだ。
かなり変形させたため、その気になれば二人共突破は出来る。
だが、一瞬受け止めただけで、イリスに反撃の隙を与えた。
「ッ、退け!!」
真っ先に察知したのは優輝だ。
優輝の叫びと共に、肉薄したままだった三人が飛び退く。
同時に、イリスから“闇”の波動が生じ、衝撃波となって全員を襲った。
「ぐ、ぅ……!」
余波が直撃した前衛三人は僅かに苦しむが、すぐに復帰する。
直撃していれば、洗脳されないにしても精神をかき乱されていただろう。
「引き付けての洗脳……“領域”が認識出来なかったら、一発アウトだったな……!イリスの奴、搦め手まで使うか……!」
“闇”による洗脳。それを、敢えて懐まで誘い込んで放ったのだ。
その力は、以前神界に突入した時のそれより、かなり強力だ。
直撃していれば、優輝以外の二人は危なかっただろう。
「だが!」
「っづ……!?」
“闇”の波動に、“意志”の極光が三つ突き刺さる。
先に後退していた神夜達によるものだ。
「これでさらに“闇”は削った!」
直接攻撃を当てなくてもいい。
まずは厄介な“闇”を消耗させる。
その作戦はまだ続いていた。
そもそも、一人では勝てない強さを持つのがイリスだ。
弱体化の手段があれば、使わない手はない。
「っ……」
徐々に優輝達が押していく。
いくら戦闘技術を得たと言っても、イリスは白兵戦向きではない。
そのため、何度も肉薄を許してしまう。
そして、その度に“闇”を削られ、消耗していく。
「ッ……離れなさい!!」
痺れを切らし、イリスは“闇”をそのまま衝撃波として放出する。
単純な力として放出したからか、回避も防御も出来ずに全員が吹き飛ばされた。
「はぁあああっ!!」
即座に体勢を立て直し、全員で“意志”による遠距離攻撃を放つ。
それによって、放出した“闇”をさらに削る算段だ。
「(あり得ない。順調過ぎる)」
だが、それはおかしいと優輝は心の中で断じる。
見れば、ミエラの経験から奏もどこかおかしいと感じているようだ。
「っ―――!」
直後、風が吹き荒れるように、“闇”がイリスへ集まっていく。
「どこから……いや!」
“闇”の出所を探ろうとして、すぐにそれを見つける。
「……私も、“闇”の回復手段は持っていますよ?」
「……だろうな……!」
それはフィールドそのものだった。
最初に満たした“闇”や、戦場を隔絶する“意志”の結界から“闇”を得たのだ。
それによって、戦力差は大きく開いてしまった。
「ッ、避けろ!!」
優輝が叫ぶ。
直後、“闇”がうねり全員を薙ぎ払った。
素早く反応出来た優輝達は避けられたが、そうではない神夜と葵は被弾してしまう。
「がはっ!?」
「ぁぐっ……!」
「二人共!」
「余所見するな緋雪!!」
その事に緋雪が反応してしまい、そこをイリスに狙われた。
「ッッ!!」
振るわれる“闇”の鉄槌に、緋雪は大剣で抵抗する。
しかし、緋雪の力を以ってしても、ギリギリ耐えられる程度だった。
当然、“闇”は一撃だけでは終わらない。
防いだ所を薙ぎ払われ、先の二人と同じように吹き飛ばされる。
「ちぃッ!」
「無理はするなよ!」
咄嗟に帝が前に出る。
帝であれば、多少はイリスの攻撃とも殴り合える。
その間に優輝と奏で“闇”を削らなければならないが……
「(一手遅いか!)」
戦えるとはいえ、抑えられる訳ではない。
帝を狙ったもの以外の攻撃が二人に迫り、その対処に追われる。
「(このままだと帝もやられる。その前に手を……)」
導王流とガードスキルをそれぞれ使う事で、直撃は避けている。
それでも、時間の問題だ。
帝が一度でも吹き飛ばされれば、戦況は変わる。
その前に手を打つ必要があった。
「ッ、この程度では意味ないか……!」
“意志”を圧縮し、槍として回避と同時に“闇”に突き刺す。
しかし、それでは蚊に刺された程度でしかないだろう。
「(緋雪達は……ダメか!)」
一度吹き飛ばされた緋雪達は、その上からさらに“闇”を叩きつけられていた。
洗脳の効果はないようだが、それでも身動きは出来ないようだった。
「(となると……)」
帝も防御の上からのダメージが蓄積してきた。
もう間もなく直撃を食らうだろう。
「討ち祓え、極光!!」
―――“Sacré lueur de sétoiles”
そこへ、“祈り”の極光が叩き込まれた。
「なっ……!?」
完全な意識外からの攻撃に、イリスも驚愕する。
直接のダメージはなかったものの、防御に使った“闇”がほとんど消し飛んだ。
「いいタイミングだ。司!」
「……全力、だったんだけどね……」
放ったのは当然司だった。
しかし、当の司は不意打ち且つ全力で放ったにも関わらずダメージがなかった事に少しばかり悔しさを滲ませていた。
「“闇”を削れただけ儲けものだ。まずは体勢を立て直すぞ」
「わかった!」
―――“Prière sanctuaire”
“祈り”の聖域が展開され、迫りくる“闇”を受け止める。
「この……なんて間が悪い!」
「私としては、危なかった所だけどね!」
ここに来て、“祈り”という“闇”に対して相性の良い力を持つ司が来た。
これによって、再び優輝達が有利になるかと思われた。
「ッ……!?」
だが、プリエール・グレーヌがあってなお、イリスが優勢だった。
“祈り”の聖域の上から“闇”が圧し掛かり司に圧力を掛けてくる。
「僕ら全員で出来る限りの隙を作る。……司、プリエール・グレーヌを使い倒すつもりで叩き込め。“闇”を削ればその分、こちらが有利になる」
「優輝君……わかった!」
司を支えるように優輝が肩を掴み、どうすべきか伝える。
プリエール・グレーヌもそうすべきだと言わんばかりに、小さく瞬いた。
「―――行くぞ!!」
優輝の号令と共に、まず帝と奏が飛び出す。
回避性能においては二人がこの中でトップクラスだ。
続いて、緋雪と葵が飛び出し、最後に優輝と神夜が出る。
「っ……!」
同時に、司が聖域を解除し、残った“祈り”で極光を放ち、牽制とする。
「おおおおおッ!!」
「呑まれなさい!」
正面からイリスは“闇”で呑み込もうと極光を放ってくる。
帝はその極光に真っ向から立ち向かい、“意志”の極光で凌ぐ。
「くっ……!」
その間に奏が余波を躱しつつ肉薄を試みるが、途中で不定形の武器が迫る。
防ぐ事が出来ない鋭さなため、回避に専念するが、躱し切れない。
「はぁああああッ!!」
そこで、防ぐ事が可能な緋雪が割って入る。
さらに葵がレイピアを生成し、牽制とする。
「一斉掃射!!」
「ああッ!!」
そして、優輝と神夜がそれぞれ霊力や魔力、そして“意志”による弾幕を放つ。
一発一発を砲撃魔法のように威力を高める事で、イリスに障壁を使わせた。
「人から天へ、天から神へ、我らの祈りは無限に続き、夢幻に届く!」
司が詠唱し、プリエール・グレーヌが輝く。
まさに全ての力を使い果たさんとばかりに、その輝きは強くなる。
「想いを束ね、祈りを束ねる!撃ち貫け!!」
そして、輝きは一つに集束し、巨大な魔法陣を展開する。
「くっ……!」
「させない!!」
イリスが転移で回避しようとする。
だが、遅い。最初から動き続ければ、その行動を読まれる事はなかった。
「転移が……!?」
「全員の“意志”を集中させれば、転移を防ぐだけなら可能だ!」
防御及び牽制を捨て、優輝達は一斉に“意志”による力をイリスに差し向けた。
六人の“意志”で出来たのは、それでも回避行動の阻止だけだ。
当然、無防備になった六人は、そのままイリスの攻撃に呑まれる。
……尤も、既に詰めの手は準備完了だった。
「“夢幻に届け、超克の祈り”!!」
“祈り”の極光が、全力を超えて司から放たれる。
先ほどの不意打ちよりもより強力なため、イリスの“闇”を真っ向から祓う。
「ッ、ぁああああああああああああああああああああああッ!!!」
“意志”をさらに叩き込み、司の極光がイリスの“闇”を呑み込んだ。
「ッ……まだです!!」
「煌めけ流星!!」
―――“étoile filante”
散らばった“闇”が司を襲う。
だが、司も負けじと最後の力を振り絞り、大量の魔力弾で相殺した。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
合計、僅か三回の攻撃。
されど、三回の内後半二回は限界まで“祈り”を籠めていた。
プリエール・グレーヌも力を使い果たし、輝きを失う程に。
「っ……!」
それと引き換えに、イリスの“闇”を一気に祓った。
そう思った瞬間に、イリスが転移と共に司に肉薄してきた。
咄嗟の事に司は何とか防御を間に合わせるも、防ぎきれない。
「ふッ!!」
「ッ……!」
そこへ、優輝が代わりに受けた。
導王流で攻撃を受け流し、カウンターを叩き込む。
そのカウンターは障壁で受け止められ、イリスも転移で逃げたが、何とか凌いだ。
「ありがとう」
「こっちこそ。司が来なければジリ貧だった」
周囲一帯は、戦闘開始時とは全く違う状態だった。
あれほど“闇”に満たされたフィールドは、今やそんな面影もない。
戦場を隔絶するのは完全に“意志”のみとなり、外部からの干渉も最初よりかなり簡単になっているだろう。
「戦場の“闇”を自身に集約させた。……それだけの力を、イリスはまだ持っている。大半は司が祓ってくれたけど、今も全員で掛からなきゃ敵わないだろう」
代わりに、イリスはどこかオーラを纏っている。
足元には“闇”が蠢き、優輝が放った牽制攻撃を一蹴していた。
「……それと、重要な点がもう一つ」
「優輝君?」
「お兄ちゃん?」
言葉を続ける優輝に、司と緋雪は思わず振り向いた。
イリスを見る優輝の目が、敵を見る目とは違ったからだ。
「……イリスは、ただ倒すだけじゃダメだ」
「どういう―――」
その言葉の意味を問おうとする司だったが、それは叶わなかった。
鞭のように“闇”が振るわれ、散開したからだ。
「―――なぜ」
「っ……!」
加え、イリスの様子がおかしかった。
聞こえてきた声と、その表情を見た帝が思わず戦慄する。
「なぜ、なぜ、なぜなぜなぜ……!」
「っづ、こいつはぁ……!?」
“闇”の触手の動きが、今までと変わる。
まるで剣や腕を振るうかのように、的確だった。
さらに威力も馬鹿にならず、帝ですら防御の上から若干押される程だ。
「なぜ、人間がこれほどの……!神に食らいつくと、本気で……!」
「な、なに……?」
目の前にある現実が認められないと、イリスは喘ぐ。
「人と、神界における神。そこになんの違いがある?」
「っ……何もかもが違うでしょう!」
寿命、力、精神性。確かにあらゆるモノが違うだろう。
特に、神界における神は“性質”という生まれ以っての役割もある。
イリスの言う事も決して間違いではない。
「ああ、そうだな。ほとんどが違う。……だが、共通している事もある」
心もある。感情もある。そして、意志を持つ。
それらは神にも共通し、尚且つ知性ある生命にとっての最大の武器だ。
「生命には“無限の可能性”がある。そこに人や神など関係ない。全身全霊で、限界を超えてなお追い求める“意志”があれば、こうして神にも届く」
「それは……!」
「“可能性”は僕ら“可能性の性質”の特権じゃない。……いや、あらゆる“性質”がその神の特権ではない。枠組みを超えてなお力を発揮する姿、お前も知らないはずがあるまい」
「ッ……!」
イリスは否定できない。
なぜなら、執着する相手であるユウキがその枠組みを超えた力を持つからだ。
「今一度問おう。お前はもう一人のお前が言った事に、納得したか?」
「ッッ―――!!」
そして、同時にそれはもう一人の自分が言った事を認めるという事だ。
“闇”でありながら光を示した自身の欠片に、イリスは確かに魅せられた。
以前の大戦で、ユウキに魅せられたのと同じように。
「人であろうと、神であろうと、その在り方に縛られる必要はない。イリス、お前も“闇”に縛られる必要はないんだよ」
「なに、を……!」
自らの矛盾点を突かれる。
アイデンティティを失うような感覚に、イリスは動揺を隠せない。
「……理解は出来ても、葛藤するか。なら、もう一度魅せるしかないな」
優輝が構え直す。
同時に、二人の会話を聞いていた緋雪達も構える。
イリスも慌てたように構え直し、空気が張り詰める。
「人と神。その戦いの先にこそ、お前が求める可能性はある!故に、刮目しろ!これが、お前を“性質”の縛りから解放する“可能性”だ!!」
魔力が、霊力が、理力が、そして“意志”が爆ぜる。
本当の最後の戦いが、ここに始まった。
後書き
Gáe Bolg…速度、貫通力特化の魔法。緋雪のグングニルより威力は低いが貫通力は上。なお、構えはFateの投げボルクに近いが、Fateとは一応無関係。
Prière sanctuaire…“祈りの聖域”。“祈り”を用いた聖域を作り出し、闇や悪と言ったモノの干渉を防ぐ。“闇”に対しての防御力は凄まじいが、単純な物理攻撃にはそこまで強くない。尤も、最低限丈夫と言える防御力はある。
イリスは“闇”の消耗に加え、精神的にかなり揺さぶられています。しかし、その上で優輝達の総合力を上回る強さを持ちます。
尤も、優輝達が……と言うより、優輝が目指す結末はただ倒すだけではありません。やり方によってはただ倒すよりも難しくも簡単にもなったりします。
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