戦国異伝供書

「殿はな」
「実に素晴らしい方」
　拳が応えた。
「お父が言われた以上に」
「そうだよな、まさに大器だな」
「うむ、豪放磊落でいて頭がよく切れて」
「学識もかなりおありでな」
「人を見る目も持っておられ寛容であられる」
「ああした方こそな」
　まさにというのだ。
「天下人だな」
「全く以て」
「僕達にも笑顔でよく話し掛けてくれるしね」　
　獣も言ってきた。
「素晴らしい方だよ」
「そうだよな」
「本当に優れた方ならね」
「どんな奴でも重く用いられるんだな」
「そうだよね」
「あんまりにも器が大きくて怖い位だよ」
　毬は信長についてこう言った。
「逆に言えばね」
「あんな方がおられるのかってな」
「うん、逆にね」
「それはあるな、わしにも」
　煉獄は毬の言葉に考える顔になって述べた。
「あまりにも凄くてな、逆に邪魔に思う者すらな」
「いるかも知れないかな」
「そうも思うな」
「そういえばお父が言っておられましたね」
　命が言ってきた。
「闇がどうと」
「それだよな」
「お父は随分気にしておられる様ですが」
「何なんだろうな」
　煉獄は水を飲みつつ首を傾げさせた。
「その闇ってのは」
「そこが気になりますね」
「どうもな」
「他の大名家じゃないの？いや」
　萌は自分が言った言葉を収めた。
「それはね」
「違うよな」
「だって天下の他の大名家はね」
「それぞれ色があるな」
「主な家はね」
「武田だと赤、上杉は黒とかな」
「そうなっているからね」
「だからな」
　それでというのだ。
「他の家はな」
「違うね」
「ああ、闇じゃないな」
「そうだよね」
「では何か」　
　鏡も首を傾げさせた。
「闇とは」
「それだな」
「わかりません」
「わかる奴はここにいるか」
　煉獄は眉を顰めさせてこうも言った。
「果たしてな」
「いたらね」
　萌がその煉獄に眉を顰めさせて話した。
「もう最初からね」
「ここでこうしてか」
「話してないよ」
　こう言うのだった。
「そもそもね」
「それもそうだな」
「だからね」
　萌はさらに言った。
「その闇が何かはね」
「これからのことか」
「お父だってわかっていないし」
「わかったら言ってくるか」
「私達のところに来てね」
　そのうえでというのだ。