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歪んだ世界の中で

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第十話 思わぬ、嬉しい転校生その十五

「実はね」
「そうなの」
「運動ならね」
 それはだ。どうかというのだ。
「もうしてるし」
「泳いで。そしてよね」
「走ってるからね」
「運動部には入らないの」
「そのつもりだよ」
「じゃあ他の部活は?」
 今度は文科系だった。そちらはどうかというのだ。
「入るの?」
「文科系もいいよ」 
 それもだ。希望はいいとしたのだ。
「友井君は写真部だけれど」
「そこにも入らないの」
「部活よりもね」
 どうかとだ。千春を見てだ。そして言ったのである。
「千春ちゃんと一緒にいたいから」
「千春と一緒にいたいから」
「だから部活はいいよ」
 それはいいというのだ。
「だから一緒にいよう」
「そうだね。じゃあ今日もね」
「泳ぐ?どうする?」
「そうね。プールに行こう」
 千春は今日も泳ごうとだ。希望に言ったのだった。
「それじゃあね」
「そうだね。泳ごう」
「後。泳いだ後お家に帰ったら」
「走ろうと思ってるよ。ただね」
「ただ?」
「学校がはじまって。自由になる時間が減ったから」
 それでだというのだ。
「朝走ろうと思ってるんだ」
「朝になの」
「そう。毎朝ね」
 そうしようというのだ。これからはだ。
「走るよ」
「わかったわ。それじゃあね」
「放課後は千春ちゃんと一緒だよ」
 そしてだった。千春だけではなく。
「友井君ともね」
「あの人ともなのね」
「毎朝一緒に通学してね。学校でもね」
 一緒にいるというのだ。千春と希望は二人で話していた。
 そしてだった。共にだった。
 二人で話してだ。それからプールに行ってだ。この日も二人で泳いだのだ。二人のやることは秋でも同じだった。そしてそれは、だった。
 希望は一人になっても同じだった。家に帰り走ってそれから風呂に入りだ。夕食の後で勉強をしようとしたのだ。
 しかしそれでもだ。両親はだ。その彼に対してだ。
「全く。何やってんだ」
「やっても無駄よ、そんなの」
「御前みたいな馬鹿は勉強しても無駄なんだよ」
「そうよ。どうせ留年するんじゃない」
 こうだ。リビングで酒を飲みながらだ。二階の自分の部屋にあがろうとする息子に言ったのである。そこには何の愛情もない。ただ罵りだけがあった。
 そのうえでだ。二人はだ。今度はだった。
 互いに睨み合いだ。二人で言い合いをはじめたのだった。その言い合いの内容は。
「おい、俺はクイズ番組を観るんだよ」
「私が報道番組を観るのよ」
 こうだ。チャンネルの取り合いをはじめたのだ。
「俺は仕事帰りで疲れてるんだぞ。だから俺に譲れ」
「私だって家事ばかりして疲れてるのよ」
「何言ってんだ、稼いでるのは俺だぞ」
「家を切り盛りしてるのは私よ」
「御前いつも昼寝してるだろ」
「あんただって家事全然しないじゃない」
 夫婦喧嘩に発展していった。下らない発展である。
「あのな、家長に対して何だよその言い方」
「そっちこそ。偉そうにしないでよ」
 醜い言い合いになる。しかしだ。
 希望はその二人から顔を背けてだ。部屋に戻りだ。
 それからだ。こう呟いたのだった。
「もういいよ。中間テストで結果を出したら」
 どうするかというのだ。
「こんな家、もう出て行くから」
 親と別れるつもりだった。このことを決意してだ。彼は二階に上がって勉強をはじめたのだ。希望も親達には愛情を抱いていなかった。それは別の相手に対して向けていた。


第十話   完


                  2012・3・14 
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