歪んだ世界の中で
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第十話 思わぬ、嬉しい転校生その三
「ダッフルコートにそれにトレンチコートに」
「トレンチコートっていうとあの」
「そうです。サラリーマンの人がよく着ていますね」
「おじさんとかがね」
「あれも軍服が元になっているんです」
「そうだったんだ。あれも」
そのトレンチコートについては希望も知っていた。あの襟を立てることができて胸元がやや開いていてだ。ベルトまで着いているあの長いコートだ。
それも軍服が元だと聞いてだ。希望は意外といった顔で言ったのである。
「そうだったんだね」
「そうだったんですよ。第一次世界大戦で」
「あの教科書にも出ている」
「あの戦争は塹壕。穴を掘ってそこに篭もる戦いでして」
それでだったというのだ。
「その中に雨が入ってきたら濡れますよね」
「そうだね。それに穴だから」
「雨が溜まりますね」
「だよね。塹壕は聞いたことがあるけれど」
希望にしてもだ。それのことは聞いていたのだ。
だがそれでも雨が溜まることは考えていなかった。塹壕のことは名前しか認識していなかったからだ。
だが聞いてみてだ。こう言ったのだった。
「雨水が溜まって濡れて」
「ですからそれを防ぐ為にです」
「そうだね。コートを着たんだね」
「それがのトレンチコートだったんですよ」
「そうだったんだ。軍服だったんだ」
「そうです」
そうだったとだ。真人は希望に話す。
「他にもフロックコートもですし」
「何か軍服が元になっている服って多いね」
「はい、多いです」
実際にそうだと。また話す真人だった。
「ですから軍隊を否定することもです」
「できないんだね」
「はい、そうです」
「よく。学校の先生は軍隊を否定するけれど」
「しかしその先生もブレザーやフロックコートを着ていればです」
「このことを否定できないんだね」
「そうなります」
真人は笑顔で希望に話す。そしてだ。
その話をしてだ。真人はこんなことも話したのだった。
「それで、ですが」
「それでとは?」
「軍隊のことを知ることもです」
「勉強なんだね」
「そうなります」
「成程ね。制服もそうだから」
希望は真人の言葉を理解した。そしてだ。
自分のその緑の制服も見てだ。また言ったのだった。
「軍隊のことも勉強したら」
「歴史でも軍隊の出ることは多いですから」
このことも言ったのだった。
「勉強は色々な視点から見て勉強するとです」
「余計にいいんだね」
「そうです。ですから」
「うん。服とかそうしたところでもね」
「勉強しましょう」
「そうするよ。これからは」
また新しい勉強の仕方を知った希望だった。真人に言われて。
そしてだ。そんな話をしているうちにだ。
学校に着いた。するとだ。
その希望を見てだ。多くの者が囁いたのだった。
「おい、あれ遠井か?」
「痩せたよな」
「ああ、しかも引き締まってきていないか?」
「そうだよな」
こうだ。それぞれ言ったのである。
「それに友井も怪我したって聞いたけれどな」
「平気で登校してきてるな」
「怪我は普通だったのかよ」
「どうなんだろうな」
こう話すのだった。そしてだ。
また希望を見てだ。彼等は話すのだった。
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