歪んだ世界の中で
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第九話 決意を述べてその四
「何でも好きなの言って。幾つでもね」
「幾つもいらないよ」
千春はそのにこりとした笑顔で希望に返した。
「一つでいいよ」
「一つでいいんだね」
「希望の心がそこにあるから」
「僕の心があるから」
「そう。沢山いらないの」
そうだというのだ。多くはいらないというのだ。
「一つに。希望の心があるから」
「それでなんだ」
「そう。だから一つでいいの」
「それなら。何がいいかな」
その一つの何がいいかとだ。希望は千春にあらためて尋ねた。
「それだとね」
「ううんと。それだとね」
どうかとだ。千春はそのUFOキャッチャーの中を見た。
ガラスのケースのその中に多くのぬいぐるみがある。その中にだ。
木のものがあった。人間に模していて目と黒い口がありだ。
木が髪の毛になり枝が両手になっていた。そして根が足になっていた。
その太く短い木の緑と茶色のぬいぐるみを見てだ。千春は希望に言った。
「これお願い」
「この木のぬいぐるみだね」
「うん、これでいいよ」
こう笑顔で言うのだった。
「このぬいぐるみをお願い」
「わかったよ。じゃあね」
そのぬいぐるみをだ。希望も見てだった。
そしてそのうえでだ。UFOキャッチャーのハンドを操作してその木のぬいぐるみに向けた。その動きを見ながらだ。希望は笑顔で言ったのである。
「待っててね。すぐにね」
「捕ってくれるのね」
「そうするよ。けれどね」
「けれど?」
「落ち着いて」
微笑んでだ。千春は希望にこの言葉を送った。
「そうして。落ち着いてね」
「落ち着いて捕ればいいんだね」
「そう。焦ったらかえって駄目だから」
それ故にだと。希望に微笑んで告げたのである。
「落ち着いてね。リラックスしてね」
「気持ちを柔らかくしてだね」
「そうしていけばいいから」
「捕れるんだね」
「そう。だから落ち着いてリラックスして」
「わかったよ。実はかなり緊張してたけれど」
実際に顔が強張っていた。そうなっていたのだ。しかしだ。千春のその言葉を受けてだ。
希望は笑顔になりだ。こう言ったのだった。
「かなり。気が楽になったよ」
「じゃあ。頑張ってね」
「うん。リラックスしてね」
そのうえでだと。希望は笑顔で言えた。
「頑張るよ」
「そうしてね」
こうしたやり取りをしてだ。そのうえでだ。
実際にかなりリラックスしてだ。希望はそのハンドを操ってだ。
木のぬいぐるみを取った。そしてそれを手に入れてだ。千春に手渡したのだった。
「はい、これだよね」
「うん、有り難う」
満面の笑みでだ。千春はそのぬいぐるみを受け取った。そしてだ。
その笑みでだ。千春は希望にこうも言った。
「木、大好きだから」
「そういえば千春ちゃんって草木好きだよね」
「お花も大好きだよ」
「そうだよね。とてもね」
「千春のお友達だから」
だからだというのだ。
「それで大好きなの。だから有り難う」
「そうなの。それじゃあね」
「うん。千春にとって最高の贈りものだよ」
「そこまで喜んでくれると嬉しいよ」
希望にとってもだ。千春に喜んでもらえるとだった。
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