歪んだ世界の中で
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第八話 友情もその十一
この日はアイスを食べて別れていつも通り走りシャワーも浴びて勉強もしてだ。翌朝だ。
庭で朝顔を見た。その彼にだ。母が家の中から言ってきた。
「どういう風の吹き回しよ」
「吹き回しって?」
希望はその母の方を見ずにだ。背中越しに尋ね返した。
「急に朝早く起きる様になって」
「友井君のところに行くからね」
「ああ、あんたのたった一人のお友達の」
「そうだよ。彼のところにね」
「じゃあ行けば?」
本当にだ。素っ気無い言葉だった。
「それで適当にやればいいのよ」
「うん。じゃあ行って来るよ」
「あとね。毎日遊んでるけれど」
我が子が夜に勉強していることもだ。全く気付かない言葉だった。
「いいわね。留年したらね」
「学校辞めろっていうんだね」
「三年の学費でも出してあげてるのに」
「四年もっていうと」
「そんなの出すつもりないから」
だからだというのだ。
「学校辞めて働きなさいよ」
「わかってるよ。留年はしないよ」
「口だけは立派ね」
「けれどさ。成績あがったら」
「ええ。あんたの言うことは何でも聞いてあげるわよ」
我が子を完全に馬鹿にしてだ。そのうえでの言葉だった。
「何でもね」
「じゃあね。忘れないからね」
「どうだか。じゃあ今日もなのね」
「友井君のところに行って来るから」
「精々好きにしなさい」
母のそうした言葉を聞き流してからだ。希望はその母のいる我が家を後にした。一旦出ればもう門限までだ。帰る気は毛頭なかった。母の顔も見たくなかった。
そうして真人の家に入ってだ。そのうえでだった。
この日は二人で二学期の予習をした。その休憩時間にだ。希望は真人にだ。昨日のいアイスクリームとだ。あの連中の話をしたのだった。
その話を聞いてだ。真人は優しい笑顔でだ。希望に氷が入った麦茶を出しながらこう言ったのだった。
「それでいいと思いますよ」
「恨むんじゃなくてだね」
「幸せになることがです」
「その方がいいよね」
「はい。遠井君は彼等を許せないですよね」
「絶対にね」
麦茶を一礼してから受け取りながらだ。希望は真人に答えた。
「あの二人だけはね」
「そうですね。それならです」
「あいつ等以上に」
「幸せになればいいんです」
笑顔でだ。真人は希望に話す。
そして彼も麦茶を飲みながらだ。そして言うのだった。
「彼等よりも」
「そうだね。そしてだね」
「遠井君を馬鹿にして。嘲った人達よりも」
「彼等よりもだね」
「幸せになればいいんです。今幸せですよね」
「うん、とてもね」
その冷たい美味な麦茶を飲みながらだ。希望は満面の笑みで答える。
「幸せだよ。だからね」
「今以上にですね」
「幸せになるよ」
こう言えた。真人に。
「もっともっとね」
「そうなって下さい。そんな遠井君を見ていると」
「友井君もなんだ」
「幸せになれます。一緒にいても」
「そうなんだ」
「そうです。では今はですね」
机の上、先程まで扇風機にあたりながら勉強していたそこを見た。そこには教科書やノート、それに筆記用具が置かれたままだ。そういったものを見ながらだ。
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