歪んだ世界の中で
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第八話 友情もその九
「そうだったんだ」
「ううん。それは千春はわからなかったけれど」
「あれっ、そうなの」
「だって。最初から笑顔でいられてるから」
それでだ。わからなかったというのだ。
「そういうのはね」
「そうだったんだ。最初からだったから」
「そうなの。けれど希望は」
「うん、わかったよ」
笑顔にまたなれてだ。それでだった。
「このことがね」
「そのわかるってことも幸せだよね」
千春はそのこともだ。幸せだと言った。
「幸せがわかることも」
「そうだね。幸せだとわかることもね」
「幸せってわからないと幸せを知ることってできないから」
「だから」
「うん。そうだね」
希望は千春のその言葉にも頷いた。
「その通りだね」
「そうだよ。それじゃあ今はね」
「一緒に泳ごうか」
「幸せなままで泳ごう」
そうしようと言ってだ。希望はだ。
プールの中で泳ぎ続ける。千春と共に。そうして幸せを感じていた。
その帰りにだ。二人で歩いているとだ。ふとだ。
車道、四車線のそれの向かい側の歩道にだ。あの二人を見た。
かつて彼を告白にけしかけてあっさりと切り捨てた二人を見てだ。希望は。
顔を顰めさせてだ。そして言うのだった、
「あの二人は」
「知ってるのね」
「一緒のクラスにいるんだ」
クラスメイトとはだ。絶対に言わなかった。
「それでね。僕にね」
「酷いことしたのね」
「あいつ等は絶対に許さないよ」
声に恨みを込めて言った。
「例え何があってもね」
「そんなに酷いことされたのね」
「前に話したよね。ふられて」
「その時に希望をけしかけたのが」
「あの二人だったんだ。それであっさりと僕を切り捨ててくれたから」
能天気にだ。何か食べて歩いて談笑している二人を見ながらだ。希望は千春に言う。
彼は今立ち止まって彼等を見ている。千春はその横にいる。そのうえで彼女に話しているのだ。
「そこからとても辛かったから」
「だからなの」
「あの連中だけは絶対に許さないよ」
言葉にだ。今度は憎しみが篭もってきていた。
「本当にね」
「そうなの。けれどね」
「けれど?」
「恨みがあるのならね」
それならばだとだ。千春はその希望に対して言った。
「その相手よりもね」
「あいつ等よりも?」
「幸せになればいいんだよ」
千春の今の提案はこうしたものだった。
「そうすればいいんだよ」
「幸せになればいいって?」
「そう。そうなればいいんだよ」
こう希望に話すのだった。
「そうすればね」
「そうなのかな」
「復讐とかしたいの?」
「いや、別に」
怨んでいてもだ。攻撃的ではない希望にはそうした考えはなかった。それでだ。彼は千春に対してその考えは静かにだがはっきりと否定して答えた。
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