歪んだ世界の中で
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第八話 友情もその五
「前以上に」
「そうなのね。よかったね」
「うん。とてもね」
「じゃあね。今以上に」
「今以上に?」
「嬉しく。楽しくなろう」
千春は泳ぐのを中断してだ。そのうえでだ。
プールの上に立った。そしてそこから希望に言う。希望もそれに応えて泳ぎを止めてそれから千春と向かい合ってだ。そしてこう言ったのだった。
「そうだね。後は」
「後は?」
「一緒にいるこの時を」
その時をだというのだ。一緒にいるその時をだというのだ。
「その時間自体を」
「それ自体をなの」
「充実させよう。今自体をね」
「そうよね。今はね」
「一緒にいるだけじゃなくて」
その共にいる時をだ。さらにだというのだ。
「そうしようね」
こんな話をしてだ。二人はこれまで以上にだ。二人でいるその時の間を楽しく過ごそうとしていた。そしてその中でだ。希望はさらなる充実を感じていた。
だからだ。家に帰ってもだ。母親に言われてもだった。
「そうなんだ」
「そうなんだって」
「勉強はしてるから」
母に勉強しろと言われてもだ。これまでは嫌な顔になった。だが今はだ。
あっさりと受け流してだ。こう言っただけだった。
「ちゃんとね」
「嘘でしょ」
「嘘だと思うならいいよ」
それでだとだ。素っ気無く返すだけだった。
「それでね。ただね」
「ただって何よ」
「結果出したらどうするのかな」
母の、眉を顰めさせたその顔を見てだ
そしてだ。こう問うたのである。
「その場合は」
「あんたが?そんなこと出来る筈ないじゃない」
「お母さんはそう思うんだ」
「そうよ。何やっても駄目なのに」
「口先だけだっていうんだね」
「そうよ。違うの?」
「だったらそう思っていいよ」
ここでもだ。こう返す希望だった。
「お母さんがそう思いたいんならね。それでね」
「それでって何よ」
「本当に。僕がどうにかできたら」
どうかというのだ。彼が勉強で結果を出したならばと。
「お母さんはどうしてくれるのかな」
「そうね。有り得ないけれどね」
その可能性を完全に否定したうえでだ。母は息子に適当なことを言った。
「その時はあんたの言うこと何でも聞いてあげるわよ」
「何でもなんだね」
「ええ、何でもね」
息子を馬鹿にする顔で見ながらだ。母は告げた。
「聞いてあげるわよ」
「その言葉忘れないでね」
「お母さん嘘は言わないわよ」
完全にだ。希望の言葉を信じていない言葉だった。
「何があってもね」
「そうだね。それじゃあ」
「何もできない人間に限ってそう言うのよ」
「けれど言った言葉は忘れないでね」
「忘れないわよ。何かできればね」
完全に否定する言葉でだ。息子に約束した。しかしだった。
希望はその言葉を忘れなかった。確かに聞いたのだった。
そしてそのうえでだ。千春と会ってプールの帰りにだ。こう彼女に言ったのだった。
「あのさ。またさ」
「またって?」
「また千春ちゃんのところに行っていいかな」
こう千春に尋ねたのである。
「明日にでもね」
「明日になの」
「うん。明日にね」
「千春のお家に」
「行っていいかな」
また問う希望だった。
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