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Fate/WizarDragonknight

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___私達も、きっとそう思ってた。今はただ悲しかったということしか覚えてない。自分の涙の意味がわからないの! 嫌だよ! 怖いよ! きっと友奈ちゃんも私のことを忘れてしまう!___



「……」

 どうして今更、あの時のことを思い出してしまうのだろう。
 雑魚寝のアパートで、友奈は額に手の甲を当てていた。
 学校があれば遅刻確定の時間帯。アルバイトがお休みだからと言って、ここまで寝てしまうとは思わなかった。生前の仲間たちが見たら、果たしてどんな顔をするのだろうか。

「へっくし!」

 友奈はくしゃみをした。
 もうすぐでクリスマスだというのに、予算の都合上布団は讃州中学の制服一枚のみ。サーヴァントの体のおかげで体調不良とは無縁だが、これは何とかならないものかとひそかに思っていた。

「お? おはよう友奈ちゃん」

 その声に振り向いてみると、同居人の城戸真司(きどしんじ)が厨房で何やら作っていた。ほんの1Kの部屋。玄関から入ればすぐにリビングルームのこの部屋では、どこで何をしていてもすぐに目に入る。
 真司は窓際に置いてある小さな机に、作った料理を乗せた。

「へへ、丁度朝飯ができたところなんだ。一緒に食おうぜ」

 ニコニコしながら真司は、焼き立ての餃子を机に置く。眠い目をこすった友奈は、その餃子を見て目を輝かせた。

「うわぁ! すごい! やっぱり真司さんの餃子はすごい!」
「へへっ。だろだろ?」

 真司は得意げに笑った。数日前に購入した小型冷蔵庫から牛乳を取り出し、友奈と自分の分をそれぞれのコップに入れた。

「何か、うなされてたみたいだけど、悪い夢でも見てたのか?」
「え? う~ん……」

 友奈は頭を掻く。

「生きていた時のなんだけどね。えっと……あれ?」

 それは間違いなかったが、どのシーンなのか具体的な指定ができない。

「樹ちゃん? (ふう)先輩だっけ? それとも夏凛(かりん)ちゃんだったかな? 東郷(とうごう)さんだったっけ……?」
「どんな夢だったんだ?」
「どんなって……」

 四国で勇者をやっていた時の記憶なのだろうが、細かいエピソードが分からない。

「多分……勇者部をやってた時のだと思うよ」
「ああ、勇者部かあ」

 真司は感心したように頷いた。

「いやあ、すごいなあ。そんなふうに人助けを勇んでやるって、中々いないよ。俺なんか中学の時なにやってたかな?」

 真司は口を曲げる。

「あれ? 俺何やってたっけ? ……ねえ友奈ちゃん。俺って中学の時何やってたっけ?」
「ええ? 私に分かるわけないよ。あ、餃子おいしい!」

 外はカリカリ。中はほくほく。そんな最高の餃子を味わいながら、友奈は真司が「あれ?」と悩む真司を眺めていた。

「真司さん、今日はバイトだっけ?」

 顔を洗い、歯を磨き、讃州中学の制服に着替えた友奈が尋ねた。この世界に来ておおよそ一か月。真司との共同生活にも慣れてきたが、いまだに持っている服装はこれと気に入って買った一着だけだ。

「えっと……」

 真司はいつもの水色のダウンジャケットに着替えながらスケジュール帳を開く。
 友奈は真司に駆け寄り、言った。

「ねえ、もし今日開いていたら、どこかに行かない? 私も今日はバイトないからさ」
「ああ、いいぜ。今クリスマスシーズンだしな。きっと旨いもんが安く……安く……」

 スケジュール帳の十二月のページを見た真司が固まった。

「真司さん?」
「うわ! やべえ!」

 真司は思わず転がり、そのままドタドタと着替え始める。

「今日シフト入ってた!」

 真司はそのまま慌ただしく部屋を出ていった。
 そのまま行こうとしていた真司は、最後に顔を出す。

「ごめん! また今度、なんか埋め合わせするからさ」
「うん! それより、はやく行ってきた方がいいんじゃない?」
「サンキュー! 行ってきます!」

 改めて、真司は大慌てで出ていった。



 折角の休みに、することがない。
 もう一着である水色のジャージに着替えて、友奈は見滝原公園を走っていた。
 十二月も中頃。吐く息も白く、見滝原公園の湖には人影も前よりもまばらになっていた。
 それでも人はいるもので、時々「こんにちはー!」とあいさつを交わす機会はあった。
 おばあちゃんと「こんにちは」を交換し、そのまま見滝原公園の林道のランニングを続ける。
 すでに低下した気温で、友奈の吐く息は真っ白になっていた。友奈の動きに連れて、白い水蒸気があふれる。

「……ふぅ」

 何週間も使っているペットボトルで水分補給をして汗を拭い、一気に吐き出す。

「ぷはぁ~……」

 友奈は大声でたまった空気を押し出した。冬の増えた新鮮な空気が肺を循環していく。

「くう~、やっぱり体に沁みる!」

 友奈はキャップを閉め、もう一度走り出そうとしたその時。

「誰かああああああ! 引ったくりよおおおおおおおお!」

 公園の静寂を、そんな悲鳴が斬り裂いた。
 振り向くと、先ほど挨拶を交わしたおばあちゃんの悲鳴。見れば彼女の手荷物が黒マスクの男に奪われていた。
 それを見た瞬間、友奈の足は先に動き出していた。
 引ったくりの前に仁王立ち、腰を落とす。

「どけこのガキ!」

 あろうことか、引ったくりは懐からナイフを取り出した。
 振り上げ、友奈のこめかみに向かってきた刃物。だが友奈は、その手首を掴み、そのまま背を向ける。

「とりゃあああああ!」

 背負い投げという技で、引ったくりを地面に落とした。

「ぐはっ!」

 目を回す引ったくりを見下ろして、友奈は荷物を掴み上げる。

「こういう悪いことは、しちゃ駄目だよ」

 友奈はおばあちゃんに手荷物を渡す。
 おばあちゃんは友奈に感謝を述べて、そのまま去っていった。
 友奈はそのままランニングを続けようかというとき。低い気温が体を貫く。

「へっくし!」

 友奈は体を震わせる。そして、その寒さの原因にも納得した。

「雪……」

 香川にいた時も何度か見たことがある、白い結晶。友奈の手に乗っては、体温によって溶けていく。

「何か久しぶりだな……雪なんて……」

 白い息を吐きながら、友奈は両手を広げる。
 やがて雪は、どんどん景色を白くしていく。見滝原公園の森は、緑と白が共存する美しい森となっていった。

「美しい森……」

 脳内に浮かんだフレーズを思わず口にする友奈。
 近くではしゃぐ子供の姿も目に入る。その時、ふいに友奈の脳裏にサーヴァント、バーサーカーの姿もフラッシュバックした。

「……」

 友奈は口を結び、しばらく子供たちを見つめる。姉と弟の兄弟らしく、互いに湖の近くを走り回っている。
 友奈は何となく彼らに背を向け、元来たコースの方を走り出した。
 もうどれだけ走ったか分からない。何も考えなくなったころ、不意に声が聞こえた。

「お? 友奈じゃないか」

 振り返れば雪の中、友奈と同じ方向へジョギングをしているリゼの姿があった。

「リゼちゃん。おはよう」
「ああ。おはよう。トレーニングか?」

 雪が降り始めたのにも関わらず、リゼは長袖の薄着を着ていた。肩だしで紫の縞々の服で、見るだけでも寒そうだった。

「トレーニングというか、日課だよ。それよりリゼちゃん、その恰好、寒くないの?」
「ああ、これか?」

 上着がなければこの寒さは無理だと言いたくなる服装を見下ろしたリゼは、ニッコリと笑顔で答えた。

「寒さに対する耐性は、戦場においては武器になる! お前も鍛えておいて、損はないぞ!」
「一体どこの戦場に行くつもりなの!?」

 友奈の声をスルーし、リゼは先の道(本来は友奈がスタートした地点)を指さす。

「さあ来い友奈! 一緒に、戦場の勇者を目指すのだ!」
「私そもそも勇者部だよ!?」

 友奈は悲鳴を上げながら、リゼのマラソンに付いて行った。

「うおおおおおおおおおおおお!」

 大声で走り続けるリゼの後ろ姿。それを追いかける友奈は、その姿に親友の姿を重ねていた。

「……」

 先ほどまでのリゼにツッコミを入れていた友奈の表情は、一瞬で無表情となる。
 ツインテールを揺らすリゼの後ろ姿が、だんだんロングヘアーのリボンを付けた色白の少女のものと重なる。

(そういえば……東郷さんも、足が治ったら、こんな風にトレーニングしてたのかな……?)

 少し視線を落とす友奈。そのせいで、立ち止まったリゼと正面衝突してしまった。

「うわっ!」
「なっ!?」

 バランスを崩し、倒れる両者。友奈は立ち上がり、思わず悲鳴を上げた。

「り、リゼちゃん! ごめんね、大丈夫?」
「あ、ああ……大丈夫だ……」

 リゼが目を回し名がら、サムズアップをした。 
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