歪んだ世界の中で
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第八話 友情もその二
真人は笑顔でだ。希望にこう答えたのだった。
「楽しいですね」
「僕だけでもいいんだね」
「前にもお話したじゃないですから。遠井君は友達ですから」
「だから」
「寂しい筈がないです」
二人一緒ならだというのだ。こう希望に告げてだ。それからだった。
希望と二人でだ。家に帰った。そうしてだ。
家のリビングで二人でだ。菓子の山を前にしてだ。それを囲んでだ。
カルピスチューハイで乾杯してからだ。そして言ったのだった。
「じゃあ今から」
「飲もうか」
「お酒なんて久し振りですよ」
「入院してると飲めないからね」
「そうなんですよね。こんなのはとても」
笑顔で希望に応えながらだ。真人はコップの中のそのチューハイを飲んでいく。白く甘いそれは酒ではなくジュースに近い味だった。それを飲みながらだ。
そのうえでだ。彼は言うのだった。
「飲めないですから」
「そうだよね。とてもね」
「そうなんです。ですから今は」
「美味しい?」
「しみますね」
そこまでだというのだ。
「この味は最高です」
「ううん、お酒って確かに暫く飲まないと」
「無性に飲みたくもなりますよね」
「そうだね。実は僕ね」
「僕が入院している間も飲まれてましたよね」
「うん、飲んでたよ」
実は希望は酒好きだ。結構いける方だ。
「一人でね」
「御一人ですか」
「千春ちゃん。いつも飲んでるね」
「その人とは一緒にはですか」
「ええと。千春ちゃん飲めるのかな」
真人の言葉に応えながらだ。そのうえでだ。
希望は首を捻ってだ。こう言ったのだった。
「お茶やコーヒーは好きみたいだけれど」
「お酒はですか」
「いつもプールとか海とかで」
デートする場所は多くがそうした場所だからだというのだ。
「山も登って」
「身体を動かすからですね」
「お酒は飲まないね。二人だと」
「だからですか」
「うん、千春ちゃんといるとね」
飲まないというのだ。飲める状況の場所にはいないというのだ。
希望のその言葉を聞いてだ。真人はというと。
チューハイを手に少し考えてからだ。こう言ったのだった。
「一度飲まれるのもいいと思いますが」
「千春ちゃんと一緒に?」
「そうした機会があればですか」
「そうなんだ。そうした時に」
「はい、どうでしょうか」
こう提案するのだった。
「悪くないと思いますが」
「そうだね。けれど」
「けれど?」
「僕一緒に飲むのって友井君だけだから」
唯一の友人、まさに無二の親友のだ。彼だけだというのだ。
「だから。他の人と飲むのは」
「怖いですか」
「怖いね」
実際にそうだと答える希望だった。
「そう思うと」
「そうですか。ですが」
「今怖いって思っていてもだよね」
「何もはじまらないですよね」
「そうだよね」
こう言ってだった。希望はだ。
少しだけ決心した顔になってだ。真人に言ったのだった。
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