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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第284話「集いし“意志”」

 
前書き
閑話ではないけど閑話のような回です。
 

 












 ―――“闇”。

「ッ……!!」

 “闇”と言う単語を聞いて、イメージするのはゲームなどの魔界などだろう。
 そういったおどろおどろしい空間や、それに類するモノが想像しやすい。
 だが、ここはそれ以上に“闇”に満たされている。

「ふッ……!!」

 暗闇を切り抜けるように、理力を迸らせる。
 何も見えない道を切り拓き、優輝は駆ける。

〈マスター……!〉

「リヒト!お前は防護服の維持に専念しろ!他は自分でやる!」

〈は、はい!〉

 戦闘が始まった途端、イリスは戦闘フィールドを全壊させた。
 全てを“闇”で満たし、完全に有利な状況を作り出したのだ。
 優輝にそれを止めるつもりも、術もなかった。
 元々イリスが有利な状況を作り出すのは想定済みだった。

「はぁッ!」

 飛んでくる理力の弾幕や極光を、優輝は受け流す。
 優輝にとってイリスにダメージを与える手段は限られている。
 周囲一帯が全て“闇”で包まれる以上、遠距離攻撃はほぼ全て通じない。
 故に、通じる程の遠距離攻撃か、肉薄しての攻撃しかない。
 その状況に持っていけるか否か、それが今の戦闘の本質だ。

「最初から全力です。一切手は緩めません」

「ッ―――!!」

   ―――“κομήτης σκοτάδι(コミティス・スコタディ)

 “闇”の空間に、“闇”の星が墜ちる。
 直後、“闇”の中をより深き“闇”の爆発が塗り潰した。



















「っ………!」

 その余波による力の鳴動は、遠くにいる緋雪にも届いていた。

「今のは……イリス?」

 分霊相手とはいえ、緋雪は何度もイリスの力を味わった。
 そのため、その力の鳴動がイリスによるモノだと即座に理解する。

「……お兄ちゃん」

 未だに体力は回復しきっていない。
 それでも急ぐべきだと、緋雪は歩みを早める。

「(道中、誰にも遭遇しない。皆が足止めしているから、だよね)」

 ここまでの道中で、緋雪は一切敵と遭遇していない。
 元々ほとんど敵がいない場所まで潜り込んでいるのもあるが、追いかけてくる敵すらいないという事は、皆の足止めも上手く行っているのだと考えられる。

「(でも、道が長い。それに先に進んだ皆にも出会わない)」

 物理的な距離は神界ではあまり意味をなさない。
 だとしても、イリスまでの道のりは長く感じられた。
 それだけ、イリスが自身の戦いに介入させたくないのだ。

「“意志”一つで戦場は分断出来る……なら、その分断を破れるくらいの“意志”で辿り着こうとしなきゃいけないんだろうね」

 戦場が分断された結果、誰にも遭遇しない。
 そう考えた緋雪は、一度進み方を変える事にした。











「はぁ……はぁ……はぁ……」

 一方、神界の入り口。
 クロノ達が防衛しているその場所で、全員が満身創痍になっていた。

「数こそ減ったが……あれだな、ここまで長期戦となると精神的にくるな」

「攻め込んだ皆の方に行っていると見ていいよね」

 デバイスを支えにクロノが疲れたように呟く。
 ユーノも座り込んで息を整える。

「……しかし、まずいな」

「……だね」

 いくら主力級の神が来ないとはいえ、常に苦戦する戦いだ。
 それが連続しており、クロノ達の“意志”もかなり消耗している。

「元より短期決戦狙い。長期戦では我らが不利よ。……承知していたとはいえ、ちと厳しいと思わざるをえんな」

 ディアーチェも同感なようで、苦虫を嚙み潰したように呟く。

「……次、来ますよ」

 シュテルの言葉と共に、全員が構える。
 だが、その動きは僅かに緩慢だ。
 それが敵の先制攻撃を許してしまう。

「ちぃっ、回避を―――」







「“サンダーレイジ”!」

 ディアーチェの言葉を遮るように、背後から魔法が飛ぶ。
 その魔法によって、飛んできた理力の極光が僅かに弱まる。

「シッ!!」

 僅かに弱まったその瞬間に、誰かが前に飛び出す。
 そのまま、居合斬りの要領で刀を振り抜き、極光を切り裂いて見せた。

「待たせたね。ここからはあたし達も戦うよ」

 やって来たのは、地球に残っていた者達だ。
 リニスの魔法、とこよの一撃により敵の攻撃を相殺したのだ。
 さらに、紫陽が結界を張る事で多少なりとも防御を固めた。

「アルフ!」

「ああ、わかってる……よッ!!」

 追撃を、アルフが飛び出して相殺する。
 “意志”と共に拳と防御魔法を繰り出し、極光を逸らす。
 盾などで行う“パリィ”を拳と防御魔法で再現したのだ。

「ザフィーラ!まだ行けるよなぁっ!」

「ッ……無論!」

 使い魔と守護獣。
 どちらも主を守る存在故に、アルフの言葉でザフィーラが再起する。
 盾となれる二人の“意志”がある限り、攻撃はまともに通る事はない。

「……捉えたわ」

 そして、椿が反撃の一矢を繰り出す。
 神力を込めた矢が、神界を突き進む。
 遠くから攻撃を放ち続けていた神へまっすぐ向かい、理力の障壁に突き刺さる。

「特級の神力を込めた矢よ。だから、“こっちに来なさい”」

 放った矢には、椿以外の神々の神力と“意志”が籠められている。
 その矢から“言霊”を放つ事で、強制的に神を引き寄せた。

「アミティエ!キリエ!」

「了解です!」

「了解よ~」

 神が引き寄せられた瞬間、プレシアの号令と共にフローリアン姉妹が仕掛ける。
 魔力の弾丸と舞うような二人の斬撃が障壁を削る。

「どきなさい」

「「ッッ!」」

 直後、プレシアの言葉と共に二人は飛び退く。
 さらに置き土産にバインドを仕掛け……そこに雷が落ちた。

「くっ……!」

「どんな“性質”かは知らないけど、終わりだよ」

   ―――“森羅断空斬”

 フローリアン姉妹の連携と、プレシアの魔法。
 それによって障壁は割れた。
 同時に、とこよが仕掛け……一太刀の下、“領域”を両断した。

「“天使”で数を揃えようと無駄さね。本体さえ叩けばこの通り……ってな」

 紫陽が念入りに霊術で“領域”を砕き、神を消滅させる。
 追いつき、アルフ達に足止めされていた“天使”もそれに続いて消えていった。

「態勢を立て直しな!まだ倒れる時間じゃあないよ!」

「っ……地球は、僕らの世界はいいのか……?」

「そっちが片付いたからここにいるんだよ。いいから、無理せず下がりな」

 元の世界にいたイリスの勢力は全滅した。
 つまり、この出入り口さえ押さえればもう脅かされる事はないのだ。
 だからこそ、紫陽や椿達もこちらへ来ていた。

「出来れば、突入した奴らの手助けをしたい所だがね……」

「下手の突入して、ここを手薄にする訳にもいかないからね」

 元々、地球に残ったのは神界では完全なコンディションを発揮できないからだ。
 “意志”次第で何とかなるが、裏を返せば常に“意志”を消耗する。
 入口でさえ紫陽やとこよなどは本来より若干力を落としている。
 地球との結びつきが強いからこそ、突入できずにいた。

「だからせめてここを―――」

 “守る”。
 そう言おうとした瞬間、突風のような衝撃波が全員を襲った。

「これは……!」

「……“闇”の気配。おそらく、イリスだね」

 入口にさえ“闇”の気配と共に余波が届く。
 その事に全員が戦慄する。
 そして、その余波が届くという事は……

「始まったか」

「ここからは、勝つ事を祈るしか出来ないね」

 優輝とイリスの戦いが始まった。
 そう理解した紫陽ととこよは神界の奥を見ながら呟いた。

「……ちっ、歯痒いな。我ともあろう者が、何も出来ぬとはな」

「……ダメですね。主との念話も通じません」

「こっちも同じよ。葵とも、優輝とも繋がらない」

 ディアーチェが悔しそうに舌打ちし、アインスと椿は念話を試みる。
 椿に至っては伝心も試したが、どちらも繋がる事はなかった。

「結局出来るのは皆が帰ってくる場所の確保……だね」

「……いえ、私達に出来る事は、まだあるわ」

 とこよの言葉を、椿が否定する。
 見れば、椿は何かを思いついたように神界の奥を見ていた。

「伝心も念話も通じない。でも、式姫としての契約や葵とのデバイスとしての繋がりはちゃんとある。……だから、そこを辿れば―――」

 そこまで言った瞬間、アルフとザフィーラが障壁を張る。
 次の神が“天使”と共に攻撃してきたのだ。

「ぐっ……!?」

「この重圧……重力関係の“性質”か!」

 初撃を防いだ直後、全員に途轍もない重圧がかかる。
 本来なら立ち上がれないどころか自重だけで潰れる程の重圧に拘束される。

「ふん……!のこのこと現れたのは愚策よな!」

 追撃のために神と“天使”は転移で接近してきた。
 そこへ、ディアーチェが率先して魔法を放つ。
 他の魔導師勢も同じく魔法を放ち……神が繰り出した黒い球に全て吸い込まれた。

「っ、重力を利用して攻撃を引き寄せてる……!」

「なるほど、生半可な遠距離攻撃じゃ全部吸い込まれる訳か」

 ユーノが言った通り、黒い球はブラックホールのような性質を持っていた。
 それによってあらゆる攻撃はそれに吸い込まれるが……

   ―――“森羅断空斬”

「“意志”さえあれば、文字通りなんだって斬れるよ」

 あらゆるモノを切り裂く斬撃によって、その球は霧散した。

「なっ……!?」

「さすがに慣れたぜぇッ!!」

「ふッ!!」

 その際の動揺を、誰も見逃さない。
 近くにいた者が“天使”を抑え、シグナムやヴィータなどの残りで神を叩く。
 “意志”を伴ったあらゆる攻撃を仕掛け、障壁ごと一気に“領域”を削る。

「人を、生命を嘗めるんじゃあないよ」

 紫陽の呟きと共に、神は驚愕の表情のまま消え去っていく。
 既に、入り口にやってくる神は大した強さを持たない。
 帝や緋雪が相手ならば、正面から打ち砕ける程、他の神に比べて弱いだろう。

「……それで、何か策はあるのかい?椿」

「ええ。上手く行く保証はない……いえ、私達の“意志”次第だけどね」

 改めて、紫陽が尋ねる。
 同時に、人員を整理して椿の話を聞く者以外で防衛に当たらせる。
 これで再び神が襲ってきても、話が途切れる事はない。

「聞かせな」

「優輝との契約、それと葵とのデバイスとしての繋がりから、漠然とだけど二人の位置がわかるわ。この世界において方角も曖昧だから、厳密に“位置がわかる”とは言えないのだけどね……」

「つまり、椿なら辿り着けると?」

「いえ、それだけだと意味がないわ。私だけだと無謀だし、かと言ってここを手薄にも出来ないもの」

 優輝と葵の位置が漠然とは言えわかるのはかなりのアドバンテージだ。
 だが、そこに向かうだけではさっきまでの話と同じだ。
 だから、発想を変える。

「……二人の下へ向かうのは、私達自身じゃないわ。……攻撃よ」

「っ……なるほど、ね」

 つまり、“援護射撃”だ。
 その場から動かずに戦闘の手助けをするには確かに打って付けだ。

「当然ながら、距離等を考えれば無茶だね」

「でも、この神界ならその常識を覆せる」

「……はは、よくわかってるじゃないか」

 昔であれば、椿は絶対このような発想をしなかっただろう。
 だからこそ、紫陽は椿がその提案をした事に笑みを零す。

「あんたも、主の影響を受けているね」

「優輝の……?……確かに、そうかもね」

 二人の会話を背景に、再び神は襲い掛かってきた。
 それでも、他の皆に任せて紫陽は椿に策を聞く。

「とにかく、私達に出来るのは支援攻撃ね。それも、生半可な“意志”じゃ届かない。司が“祈り”を集めた時のように、より多くの“意志”を集める必要があるわ」

「……そいつは、また……」

 椿の話を聞いて、紫陽はある一点が気にかかった。
 それは椿も理解しており、言わなくてもいいとばかりに首を振る。

「わかってる。これが机上の空論という事ぐらい。司があれほどの一撃を放てたのは、集めたのが“祈り”且つ、司が天巫女だったから。だけど、“意志”の場合は別」

「その通りだ。この場合の“意志”は目に見えない力だけじゃない。言霊も、想いも、それどころか霊力や魔力、全ての力が集束する事になる」

 要は、その攻撃を集めるための“器”がないのだ。
 “意志”という領域外の力があるため、当然普通の媒体では耐えられない。
 かと言って、司のように誰かを“器”にするとしても……

「これは、あたしやとこよ……いや、神ですら不可能に近い。出来る可能性があるとすれば、それは各神話の頂点とも言える存在達ぐらいだろう」

「それでもイチかバチかの賭け、という事ね」

 飽くまで“可能性がある”だけだ。その可能性もごく僅かしかない。
 優輝がいない今、そのごく僅かな可能性を意図的に掴む事は出来ない。

「でも、それでも私がやるわ」

「なっ……!?」

「優輝と葵の居場所を感知できるのは私だけ。なら、そこへ正確に攻撃を向けるには、私が射手になるしかないわ」

「それは、そうだけど……!」

 あまりにも無茶が過ぎる。
 別に、無理をしてまで援護射撃をする必要はないのだ。
 しかし、椿の決意した瞳に、紫陽はそれを言う事が出来なかった。

「何と言われようと、私はやるわよ」

「……わかった。なぜそこまで、とは聞かないよ」

 椿は優輝の事を好いている。
 だからこそ、傍にいたいし、傍で共に戦いたい。
 だが、発揮できるコンディションの問題で地球に待機する事になった。
 理屈ではわかってはいたが、それでも諦めきれなかったのだ。
 故に、優輝の助けになるために無茶を通してでも射手になろうとした。

「“器”が耐えれないなら、耐えれるように私も“意志”を堅めればいいだけよ」

 その決意は、その“意志”は、これ以上なく堅い。
 誰になんと言われようと曲げない覚悟。

「……わかった。そこまで言うのなら、あたしからも皆に伝える」

 だからだろう。
 渋々とだが、紫陽もそれで納得した。
 そして、直後に防衛の戦闘も一段落ついたようだった。

「それで、どうするの?」

「全員……とまではいかないけど、皆の“意志”を集めるわ」

「要は皆の力を一点に集束。それを椿が矢として放つって事だ」

「なるほどね」

 聞いてきたとこよは深くは聞かなかった。
 自身も無茶をしてきた人生だった事もあるが、話を既に聞いた紫陽が渋々ながら納得していたからだ。

「それ……大丈夫なの?」

 そのため、代わりに優香が心配して椿に尋ねていた。

「当然、無理する事になるわ。でも、出来るのは私だけなの」

「……無理をしてでも、優輝のために何かしたいのね」

「っ……よくわかってるじゃない」

 自身の想いを優香に見抜かれ、椿は僅かに狼狽える。

「わかったわ」

「……いいのか?」

「同じ立場だったら、私達もそうするでしょう?」

「……そうだな」

 隣に立っていた光輝も、優香の言葉に納得する。
 対する椿は、二人にあっさり納得された事に少し気恥ずかしさを覚えていた。

「手筈としては、我らよりも地球にいる者達に協力させる方が効率的だな」

「そうだね。でも、手が空いてるなら私達も協力しないとね」

「みなまで言わなくとも、全員理解しておろう」

 見渡せば、全員が力強い瞳をしていた。
 それを見て、ディアーチェと話していたとこよは椿に笑みを向ける。

「……まったく、皆してこんな子供みたいな策に乗っかるとはね」

 椿は、そんな皆に呆れたようにそう言う。
 しかし、言葉とは裏腹に椿も不敵な笑みを浮かべていた。

「上等よ、優輝の助けになれるよう、私達の“意志”を届けましょう」

 かくして、優輝を支援する一矢の準備が始まった。



















「ッ……三人とも、無事!?」

 神界の奥。イリスがいる場所に近い場所に、優奈達はいた。
 つい先ほど襲ってきた“闇”の余波を、優奈が理力で防いでいた。

「大丈夫!それよりも、今のは……」

「イリスの仕業よ!これは、相当近いわね……それに……」

 “闇”が迸り、それを優奈が理力の刃で弾く。

「まったく……イリスの奴、ここまで邪魔をさせたくないのね」

「これは……!?」

「この先で戦っているのよ。そして、イリスはその邪魔をさせたくないって訳」

 歩を進めた先には、見渡す限りの“闇”が広がっていた。
 先ほどの攻撃は、その“闇”から放たれたのだ。

「神界では戦う者同士の“意志”によって戦場が隔離されるわ。邪魔を入れたくない“意志”が強ければ強い程、他者は戦場に干渉できない。つまり……」

「迎撃してくる程、“意志”が強い訳か……」

「そういう事……ッ!」

 再び“闇”が迸り、今度は散り散りになって避ける。

「構えなさい!イリスが実際に操っている訳じゃないけど、自動で私達を狙ってくるわ!避けるなり、防ぐなりして対処しなさい!」

「ッ!威力はそこまでか……!」

「速さも避けられる程度だ」

「飽くまで“邪魔されたくない”って“意志”が形になってるだけだね」

 全快とまではいかないが、葵達も回復している。
 そのため、各自で“闇”を対処する。

「攻撃自体はそうでも、実際突入するのは骨が折れるわよ」

「ふッ!!」

 優奈がそういうと、帝が試しに気の一撃を飛ばす。
 しかし、あっさりと“闇”の壁に阻まれた。

「……結構力を入れて、これか」

「言ったでしょう。全力で攻撃しても、単純な威力じゃ絶対突破出来ないわ」

「でも、同威力の“意志”なら?」

「試してみる?」

 葵の言葉に優奈はそう返す。
 そこで、神夜が“意志”の剣を叩きつけた。
 圧縮した“意志”による一撃なだけあり、“闇”を切り裂く。

「なるほど、ね」

「それだけ邪魔されたくないのよ」

 だが、切り裂いた部分はすぐに塞がってしまった。
 タイミングさえ合えば、誰か一人は通れるだろう。
 しかし、自動迎撃を避けつつでは少しばかり面倒だ。

「……多分、こういう事も含めて優輝は私を私のままにしておいたのね」

「……どういう事?」

 ぼそりと呟いた優奈の言葉を、葵が拾う。
 
「ここに来てまで隠す必要はないわね。元々、私と優輝は一つの存在。私という存在を優輝に還元すれば優輝は本当の意味で全盛期を取り戻せるのよ」

「還元……って事は、優奈は―――」

「消えるわ。存在そのものがね」

「ッ―――!」

 優奈が好きな帝にとって、それは認めがたかった。
 思いのまま言葉を口にしようとして……

「でも、それをしなかった。だよね?」

 その前に、葵が遮った。
 おかげで帝は何とか冷静を取り戻す。

「ええ。同時に、私は自分で何もかも責任を取ろうとしていた事も自覚したわ」

「じゃあ……」

「私と優輝だけで……ユウキ・デュナミスだけで戦わない。貴女達と共に戦うわ。……だから、そんな悩まなくてもいいのよ、帝」

 困ったように笑みを浮かべながら、優奈は帝に言う。
 葵と神夜の視線が帝に集まり、帝は気まずそうに視線を逸らした。

「力を合わせれば、もっと“可能性”が見れる。……そのためにも、貴女達を絶対にこの先へ届けるわ」

「―――待って。話が切り替わったのはいいけど、ここに残るつもり?」

 理力を構えだした優奈を、葵が慌てて止める。

「それが最も確実だもの。最善の“可能性”に“導く”。それが出来るのはこの中では私だけだから。それに、この壁に対して相性もいいからね」

「だからって―――」

 葵の言葉を遮るように、“闇”が迸る。
 だが、帝がそれを片手で弾き、優奈に詰め寄った。

「ッ、そんな自己犠牲、認められるかよ!!そんなの、そんなのやられる側はちっとも嬉しくねぇんだよ!」

「帝……」

 好きだからこそ、帝は許せなかった。
 思い返せば、優輝と一つだった頃から、なんでも一人で背負っていた。
 それを、帝は止めたくて、優奈の肩を掴んだ。

「馬鹿ね」

 対する優奈の返答は、呆れたようなデコピンだった。

「自己犠牲になんて、ならないわよ。それに、後から他の皆も来るわ。私は自己犠牲のために残るんじゃなくて、皆の道を示すために残るの」

「………」

「犠牲を出さないための適材適所、という訳よ」

「……そうか」

 そう言って笑う優奈に、儚さなどはなかった。
 それを見て、帝も自己犠牲のつもりではないと納得できた。

「なら、ここは任せるぞ」

「ええ。任せなさい」

 自動迎撃の“闇”が理力に弾かれる。
 優奈が構えた理力ががドーム状に広がり、直後に収縮していく。

「合図を出したら飛び込みなさい」

 そう指示を出し、集束した理力が“切り替わる”。
 プラズマを迸らせ、金色を内包した白い光球となる。

「ッッ!!」

   ―――“可能性の導き(フュールング・デュナミス)

 一筋の閃光が、“闇”の壁に穴を開ける。
 さらに貫通した閃光は膨れ上がり、穴を広げた状態で固定した。

「今よ!」

 優奈が理力をコントロールする事で、開けた穴の修復を阻止し続ける。
 その間に、葵達を先に進めるつもりなのだ。

「行くよ!」

「っ、おう!」

 葵が率先して穴を通り、神夜がそれに続く。
 帝もそれに続き、一度優奈を振り返る。

「……人の“可能性”、見せてきなさい」

「―――ああ」

 短く言葉を交わし、帝も先へ進む。
 それとほぼ同時に穴は閉じ、迎撃の“闇”が優奈を襲った。

「今更、その程度で私は倒れないわよ」

 理力の閃光が迸り、“闇”を消し飛ばす。
 直後に転移し、優奈は大きく距離を取った。

「次にここに来るのは誰かしらね」

 一人残った優奈は、イリスの“闇”を警戒しつつも次の来客を待つ。
 その目は誰も負ける事なくここに来るのを確信している目だった。

「ああ言った手前、絶対に自己犠牲はしないようにしないとね」

 降り注ぐ“闇”の攻撃を、理力の剣で逸らす。
 その気になれば迎撃の範囲外まで逃げれるが、優奈はそれをしない。
 外で戦い続けるだけでも、イリスの余力を削ぐ事に繋がるからだ。

「それに、我ながらもう自己犠牲は御免被るもの」

 かつての戦いで、ユウキ・デュナミスは自己犠牲と引き換えにイリスを封印した。
 あの時は手放せない大切な存在がいなかったためにそれも良しとしていた。
 だが、今は違う。
 優輝も優奈も、大切な存在が多く出来た。
 それを守るためにも、悲しませないためにも、自己犠牲だけはしない。

「さぁ、飽きるまで踊り続けましょうか」

 “可能性”を見届ける。
 そのために、優奈はイリスの“闇”と戦い続ける。



















 
 

 
後書き
κομήτης σκοτάδι(コミティス・スコタディ)…“彗星”と“闇”のギリシャ語。彗星のように“闇”を落とし、大爆発を起こす技。シンプル且つ広範囲高威力。なお、イリスはこれを通常攻撃かの如く連発する。

可能性の導き(フュールング・デュナミス)…“導き”のドイツ語と“可能性”を意味するギリシャの言葉。攻撃技ではなく、仲間を導くための技。あらゆる敵の妨害を突破し、目的の場所及び段階まで“導く”事が出来る。導王流と“可能性の性質”の合わせ技。


神界の戦いにおける戦場の隔離は、戦っている者によっていろいろ違いがあります。
今回の場合、イリスがいるので、隔離する結界のようなものが“闇”として存在していました。他の神だと、普通に結界みたいなものだったりします。 
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