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戦国異伝供書

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第百二十七話 橙から灰色へその四

「だからな」
「今のうちにですか」
「左様、だからな」
 それでというのだ。
「今のうちに得度をしてな」
「そうしてですか」
「そなたに全て授けたい、よいか」
「わかりました」
 そしてとだ、顕如も頷いてだった。
 父から得度を受け彼の知っているものを全て授けられた、父の証如はその中で彼に対して弱い声で言った。
「お主には九条家にな」
「父上と同じ様にですな」
「うむ」
 そのやつれた顔で答えた。
「養子に入ってもらう」
「そちらのこともですか」
「してもらう」
「それも急いで」
「また言うが拙僧の命は長くない」 
 父は息子にまたこのことを話した。
「だからな」
「このことも急いでなのですか」
「うむ」
 それ故にというのだ。
「そのことも九条家にお話してな」
「行いますか」
「その様にする」
「そうですか、では」
「そしてな」
 父は息子にさらに話した。
「拙僧が世を去った後であるが」
「それからのことですか」
「うむ、母上にお話しておく」
「お祖母様にですか」
「うむ、そなたの後見人をな」
 その仕事をというのだ。
「お願いする」
「父上の後は」
「そなたにとって祖母になるな」
「はい、お祖母様がですか」
「後見人になって頂いてな」
「私いえ拙僧をですか」
「まだ幼いが」
 それでもというのだ。
「この本願寺の跡を継いでもな」
「大丈夫な様にですか」
「しておく」
 このことも話すのだった。
「だから拙僧が世を去ってもな」
「心配はないのですか」
「左様、何も憂うことなくな」
「ことを行えというのですか」
「拙僧が世を去っても悲しむことはない」
 こうも言うのだった。
「よいな」
「ですが」
「それはわかるがな」
 自分がいなくなり悲しい気持ちになることはというのだ。
「しかし悲しむことはない、お主には祖母殿がおられるからな」
「だからですか」
「一切悲しむことはない、そなたは祖母殿に助けてもらってな」
「ことを進め」
「家のこともな」
 こちらのこともというのだ。
「案ずることはない、婚姻のこともな」
「そちらもですか」
「今のうちに話を進めておくからな」
「そちらもですか」
「左様」 
 我が子に対して答えた。
「そうする、お主が心配することはない。だが」
「はい、今は戦国の世でです」
 顕如は父に確かな声で答えた。
「ですから」
「拙僧が出来ることは全てしておくが」
「それでもですな」
「お主は学ぶべきことは全て学びな」
「そしてですな」
「そのうえで寺と何よりもな」
「門徒達を」
 顕如は再び自分から言った。 
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