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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
  第一節 救出 第二話(通算82話)

 
前書き
(前話のあらすじ)
メズーンの母は死んだ。
それはエマに人質の救出を決心させた。
主義や主張ではなく己の誇りのために。
アレキサンドリアに潜む人の闇に、君は刻の涙を見る――。 

 
 エマの作戦はいたってシンプルなものだ。エマが《アーガマ》のパイロットを連れ《ガンダム》で帰投、《アレキサンドリア》艦内の人質を確保、人質とともに《ガンダム》で脱出する。予想される人質は五名。辛うじてMS二機で連れ帰ることができる人数だ。

 だが、作戦とはシンプルだから成功するわけではない。失敗しないための努力――主に情報の収集と適切な人選、目的の明確化、そして手順と命令の徹底が重要であることは明らかだ。

 シャアの組んだオーダーはエマが《01》、カミーユが《03》に搭乗だ。メズーンを《03》へ搭乗させ《02》を含めた三機で帰投したいとエマは主張したのだが、今のメズーンには無理というハサンの判断に、エマが折れた。ブレックスが《02》の持ち出しを許可しなかったということもある。

 表向き、エマを信用したとしても相手がバスクでは、不確定要素が多すぎるからということだったが、ブレックスにはスポンサー――アナハイム・エレクトロニクス社への配慮がある。万が一にも《ガンダム》を全機失う訳にはいかないというのが本音だ。

 今後の作戦や立案におけるスポンサーの発言力を抑えるためにも、ここは機体を引き渡す必要があると考えていたからだ。エゥーゴはアナハイム・エレクトロニクス社や月経連の傭兵ではない。重力に魂を囚われた者たちの私兵たるティターンズを討つのに、自らが死の商人らの言いなりに成り下がる訳にはいかないのだ。ブレックスは今後、アナハイム・エレクトロニクス社の影響力を削ぐためにも、別のスポンサーとも密接に結び付いておかねばならないと考えていた。

 つまり、この作戦の意義は立案者と策定者とで微妙にことなっている。が、それはそれぞれの立場を加味すれば、共同作戦を行う大前提になるといえた。

 作戦の目的は、敵の追撃を振り切るためだ。この追加作戦は、本来の作戦を遂行するために不可欠だった。さらに言えば、人質を見捨てたという汚名を着ないためでもある。

 情報はエマと《ガンダム》からの得たものもあり、かなり詳細に判明している。

 カミーユが選ばれたのは《ガンダム》との相性を買われてのことである。新しいMSに大はしゃぎのアストナージが《ガンダム》をバラして、あっという間に解析し、シミュレータのプログラムを完成したお陰である。流石に数に劣る旧型の《ジムⅡ》で最新型の《クゥエル》を相手にはできない。《ガンダム》を使い倒せるだけ使おうというのがヘンケンの思惑だった。そんな指示がなくとも、カミーユとランバンは争うようにしてシミュレータを奪い合っていただろう。

「カミーユ・ビダン少尉!」

 エマがカミーユを呼んだ。作戦前のブリーフィングは既に済んでいる。あとは二人の呼吸を合わせるだけだ。だから、カミーユに動揺があれば作戦は上手くいかない。そのためにも確認しておかなければならないと感じていた。

「なんです? エマ中尉」

 カミーユは月生まれで半分地球育ちだが、本人はスペースノイドのつもりである。ティターンズに好意的になれる理由がなかった。そう言う気配が濃厚に漂っており、エマは最初、人選に抗議をした。だが、返事は簡単で「ならば作戦を諦めるのだな」というものだった。あの赤い彗星のごときクワトロ大尉は、さらりとそう言ってのけた。

 エマからすれば、自分に――いや、ティターンズに対する悪感情は後回しにして欲しかった。だが、そんなことを言っても始まらない。年下の少尉に掻き乱されて作戦を失敗しないためにも、相手は新米なのだからと、自分に言い聞かせた。

「不服でしょうけど、作戦中は私の指示に従って。いいわね?」
「いいも悪いもないんでしょ……なんで人殺しのティターンズなんかと組まなきゃならないんだ」

 カミーユは臆することなくいい放った。私は違うと言ったところで、カミーユの反感が和らぐ訳ではない。そして、撃ったジェリドが悪いのではなく、命令を下したバスクに全責任があることを説明しても同じだ。民間人であるメズーンの母親を自分の仲間――ティターンズが殺したたことは事実なのだから。それでも――

 エマは足掻きたかった。このまま何もせず《アレキサンドリア》に帰投することはできなかった。少しでもいいから汚名返上の機会が欲しかった。

「文句でも愚痴でも抗議でも、何を言っても構わない。後で全部聞いてあげる。でも、今は私に従って」

 静かに、だがはっきりと、釘を指す。レコアからカミーユの命令違反に気を付けるように言われていたからだ。今回の作戦で命令を無視されては元も子もない。

「違反したら躊躇わない。いいわね?」

 何をとは敢えて口にしなかった。口にもしたくないことだ。

「解ってますよ!そんなことを言うなら、人質を救出できなかった時、ボクが貴女を撃ちますよっ!?」

 これが若さなのだろうか。たった二つしか違わないというのに、エマからは既に失われた熱さだった。それは大人になるということなのかも知れないが、同時に人を傷つけまいとする心の距離とも言える。若さはそういう互いのプライバシーともいうべき領域を軽く飛び越えてくる。

――だから、ジオンが生まれた?

 それも思考の硬直なのだろうか。宇宙では人の認識力が拡大してニュータイプになり、人の革新が始まるという。それは地球の重力に魂を引かれた者からすれば、若者の無遠慮さに似ているのかもしれないと、エマは思った。 
 

 
後書き
ティタロアでは、アナハイム・エレクトロニクスは原作ほどの力は持っていません。これはジオニック社やツィマット社がジオン共和国に存在していると考えているからです。 
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