戦姫絶唱シンフォギアGX~騎士と学士と伴装者~
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第0楽章~無題~
第0節「キャロルのバースデー2021」
前書き
結局ギリギリ遅刻しちまった!!
ですが何とか夜が開ける前に、キャロルちゃんの誕生日を祝うことができます。
読者の皆さん、お待たせしました!エミヒロ、初のキャロル供給です!
そして伴装者GX。本編開始はもう少し先ですが、ページの公開を始めました!GXからは別枠です。よろしくお願いします!!
それでは、どうぞ!
「では、私からは今焼き終えたばかりのパイを送ろう」
そう言って、黒い髪に赤いコートの男は窯から取り出したパイをテーブルへと移した。
「中には桃と無花果を入れておいた。桃は東洋の縁起物、無花果は私が尊敬する哲学者に肖ろうと思ってね」
「へぇ、そんなにめでたいものなのかい?」
無精髭に眼鏡の男は、自分の知らない知識へと興味を向け、耳を傾ける。
「ああ。君の娘の無病息災と、賢い子に育つよう願いを込めたつもりだよ」
「やれやれ。縁起だの願いだの、と。つくづくそういうものにこだわるね、人間というものは」
赤コートの男の言葉を遮るように、もう1人の……藍髪に白い帽子とコートを着た男は、呆れたような顔を見せた。
「□□□、少しは言い方を……」
「分かっているさ。無粋なんだろう、こういうのは。取り消しておくよ、すまなかったとね」
「相変わらず、君はリアリストだなぁ」
咎めるように帽子の男を見る赤コート。
反対に眼鏡の男は、特に気にする様子もなく笑っていた。
「だから、渡させてもらうよ。僕からもね」
帽子の男が懐から取り出したのは、中に金属で出来た何かがずっしり入った麻袋だった。
「それ、まさか……」
「実用性重視なのさ、僕はね。額は控えめにしておいたよ、怪しまれるからね」
「結社の資金を横領するの、やめてくれないか!?」
「局長だよ、僕は。特にないだろう、問題は」
「大アリだよ。いくら詰めたのか正直に報告してもらおうか」
「支援金さ、我らが友への。錬金術師だろう、彼も、端くれとはいえね」
「あまり喧嘩はよしてくれないか?あの子が起きてしまうだろ?」
「「あ……すまない」」
袋の中身を巡り言い争っていた二人は、思わず顔を見合わせると、声を潜めた。
「それじゃあ、私達はこの辺でお暇させて頂くよ」
「また来るよ、近いうちにね」
「でも……本当に良いのかい?」
眼鏡の男は、友人達へと問いかける。
男からの問いに、戸口をくぐろうとしていた彼らは振り返り、それに応じた。
「本当なら私も同席させてもらいたいが、年に一度のめでたい日なんだ。父娘水入らずで楽しむといい」
「顔が見たいさ、僕だって、君の娘のね。でも忙しくてね、局長という立場は」
赤いコートの男は端正な顔に微笑みを浮かべ、白い帽子の男は肩を竦める。
「それじゃあ、あの子に私達の分まで伝えてくれ。おめでとう、ってね」
眼鏡の男に礼を言われた2人は、手を振る代わりにコートを翻し、家を出ていった。
「来年こそは、二人にも同席してもらいたいな……」
無精髭で眼鏡の男……イザーク・マールス・ディーンハイムはそう呟くと、友人達からの贈り物を戸棚に仕舞った。
ff
翌朝、イザークは娘を連れて山を登っていた。
「パパ、何処へ向かってるの?」
「秘密だよ。言っちゃったら、プレゼントにならないだろう?」
娘を連れての山登り。目的地を知らされていない娘は、頭に疑問符を浮かべながらも、素直に付いてきている。
昔は途中で疲れてはおんぶをねだって来たのに、今では汗を拭きながらも自分の足で一歩、また一歩と歩いている。
娘の成長を実感し、イザークは嬉しくなった。
「ねえ、パパ。まだ着かないの?」
「もうすぐだよ。そら、見えてきた」
山を登り、小高い丘を越えて、そしてようやく見えてきたのは……
燦々と、暖かな陽光に照らされた高原だった。
丘から眼下に見下ろす湖は、涼しい風に水面を揺らしながら、太陽をキラキラと反射していた。
「わぁ……キレイ……!」
「喜んでくれたみたいだね」
「うん!すっごく綺麗!山の向こうに、こんな場所があったなんて……!」
イザークは辺りを見回し、目を輝かせる娘を優しく見守る。
「パパのお気に入りの場所さ。いい薬草も生えてるし、何より心が落ち着くんだ」
「風が気持ちいい……このままここでお昼寝したくなっちゃうよ」
「ここはね、昔、ママと出会った場所でもあるんだ」
「パパとママが?その話、聞かせて!」
「もちろん。じゃあ、座ろうか」
興味津々、といった顔の娘の頭を撫でながら、イザークは草むらに腰掛ける。
娘もその隣に、ちょこんと腰を下ろした。
「パパはね、昔から探検するのが大好きだった。それは知っているだろう?」
「うん。パパのパパや、パパのおじいちゃんにいっぱい怒られたんだよね」
「ハハハ、そうそう。嫌な事があったらここに来て、ただぼんやりと空を眺めたりしてたんだ」
「それでそれで?」
「ある日、いつもの様に昼寝でもしようとここに来たら……先客がいたんだ。とても綺麗な人だった。森の妖精か何かだと、見違えたくらいにね」
「それが……ママだったの?」
「そう。それが、ママとの出会いだったんだ」
それから、イザークは娘に語り聞かせる。
最愛の妻と出逢い、たわいも無い話を交わして笑い合い、当たり前の恋をした事を。
普通に結婚して、普通の暮らしをして……母の顔を知らない娘へと、優しかった母親の人となりを。
「そっか……。ママは、本当に優しかったんだね」
「うん……。こんなパパの事を、心の底から愛してくれたんだ。勿論、キャロルの事もね」
キャロル。そう呼ばれたイザークの娘は、暫く湖の畔を見つめる。
その目に映っているものを、イザークも静かに見つめていた。
「よし!!わたし、決めたわ!!」
やがて、キャロルは勢いよく立ち上がった。
「どっ、どうしたんだいキャロル?」
突然立ち上がった娘に、イザークは驚き目をぱちくりさせる。
「わたし、絶対ママより綺麗なレディになる!」
「へ?」
「ママより綺麗な人になって、パパみたいな優しい人と結婚する!それが今日から、わたしの目標!!」
「えっ?……えぇぇぇぇッ!?」
娘の宣言に、思わずイザークは間の抜けた声を出してしまう。
「キャロル、そういうのはまだ早いんじゃないか!?」
「え?そうかな?」
「第一、相手は見つかっているのかい?まさか、パパの知らないうちに!?」
「そんなわけないよ~。これから見つけるの。優しくて、かっこよくて、それから~……お料理出来る人だといいな」
「うぐっ……パパだって、頑張ってるんだけどなぁ……」
遠回しに料理下手を突っつかれ、少しだけ肩を落とすイザーク。
頼りない父の肩に、キャロルはそっと頭を預ける。
「ふふふ……でも、わたしと結婚する人も家事が出来たら、その分だけわたしも楽できるもん。そしたら、もっとパパと一緒に居られるでしょ?」
「キャロル……」
「だから……パパ。パパは、わたしを置いて行かないでよね……」
キャロルの方へと顔を向けるイザーク。
小さな頭を自分の肩に預ける娘の顔は、何処か寂しそうだった。
亡き母との思い出の場所で、母との想い出を語る。
それを娘へのプレゼントに選んだのは、”予感“があったから。
いつ来るのかは分からない。そうなる前に、せめて伝えておきたかったのだ。
最愛の娘に、最愛の妻の愛を。
「大丈夫だよ。パパは、いつでもキャロルと一緒だ」
「うん……」
だから父は、娘に誓う。
離Nァれていtぇも……Zぅttォ……Issyoダとo……
「……夢、か」
少女は玉座で目を覚まし、頬杖から顔を上げる。
見渡せば、周囲には幾つもの巨大な歯車。
そして玉座の後ろには、パイプオルガンのような建造物が天井へと向かい伸びていた。
「お目覚めですか、マスター」
声のする方を見上げると、黄色い衣装に身を包んだ人形が、少女を見下ろしていた。
「何やら、夢を見ておられたようですが……」
「いや、気にするな。特に異常はない」
「……そうですか。マスターがそう仰られるのなら」
そう言って人形は、玉座から一歩下がった。
(そうだ……オレにはもう、何も残ってはいない。あるのは忌まわしき想い出と、パパからの命題を完遂するという目的だけだッ!!それ以外の物など……オレには要らぬッ!!)
フラッシュバックする炎の記憶。
怒号と、涙と、焼けていく父の姿。
少女の心を塗り潰すのは、黒く、深く、暗い激情。
300年を費やした計画の日は、着々と近付いて来ていた。
そして──
「キャロル……」
忌城の陰より、少女を見つめる小さな影が一つ。
少女と瓜二つの外見をした写し身は、少女が眠っている時に呟いた言葉を知っている。
『消えないで……消えないで……』
玉座に響き、闇へと吸い込まれていった小さな哭き声を……彼女だけが聞いていた。
3月3日。
日本では桃の節句とも呼ばれるその日は奇しくも、ただの村娘である事を棄てた少女が、この世に生まれ落ちた日であった。
後書き
キャロルちゃん、お誕生日おめでとう!!
重いし暗いオチになっちゃったけど、絶対ハッピーエンドに導いてみせる……!
GX編の正規タイトルは、後日発表致します。
それでは本編開始をお楽しみに!!
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