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アーノルド

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第二章

「そして今は日本に暮らしているさ、縁があってな」
「そうなんですね」
「ニューヨークで生まれてですか」
「今は日本におられるんですか」
「そうだ、名前はジェームス=コシュシコというんだ」
 自分の名前のことも話した。
「宜しくな」
「コシュシコっていいますと」
 日本人の若者の一人が彼の名前を聞いて言った。
「スラブ系ですか」
「ああ、リトアニア系だよ」
「アメリカにはリトアニア系の人も多いですね」
「何しろ人口の三分の一が移住したからな」
 アメリカにというのだ。
「わしも祖父さんがそれでアメリカに移住してな」
「ニューヨークで、ですか」
「生まれて育ったんだ」
「そうだったんですね」
「そのニューヨークにいた人間が言う」 
 コシュシコは冷奴を食べながら言った。
「あのチームは駄目だ」
「どうして駄目なんですか?」
「野茂を受け入れてくれたのに」
「どうしてですか?」
「あのチームは最初ニューヨークに本拠地があったんだ」
 このことを冷奴の薬味の生姜を齧りながら苦い顔で言った、苦い顔になったのは生姜を齧ってのことではない。
「それがな」
「ロスに移転したんですか」
「そうだったんですね」
「あのチーム最初はニューヨークに本拠地があったんですね」
「そうだったんですね」
「昔はワシントンにもあったけれどな」
 アメリカの首都であるそこにというのだ。
「セネタースな」
「そういえばワシントン本拠地のチームってないですね」
「昔はあったんですね」
「そうだったんですね」
「ああ、そしてドジャースはな」
 またこのチームの話をした。
「ニューヨークにあったんだよ」
「そうだったんですね」
「ですがそれが、ですが」
「ロスの方に移ったんですね」
「そうなんですね」
「そうだよ、あの時のオーナーは忘れられない奴だ」
 コシュシコは忌々し気に言った。
「ニューヨークを裏切ったんだからな」
「それでロスに行った」
「だからですか」
「ニューヨークの人にしてみれば」
「あのオーナーはアーノルドだ」
 この名前をこれまでで最も忌々し気な顔で言った、日本酒を飲むがその飲み方は明らかな煽りであった。
「ベネディクト=アーノルドみたいな奴だ」
「誰ですかそれ」
「アーノルドって誰ですか?」
「昔近鉄にアーノルドっていう助っ人いましたけれど」
「違いますよね」
「違う、あのアーノルドじゃない」
 コシュシコもそれは否定した。
「あのアーノルドはクリス=アーノルドだろ」
「はい、セカンドでしたね」
「近鉄の連覇の時の選手でしたね」
「口髭生やしてましたよ」
「わしが今言ったアーノルドは裏切者のアーノルドだ」
 流ちょうな日本語で話した。 
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