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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第282話「決定的な差」

 
前書き
決着着かなかった帝達Sideの続きです。
 

 












 竜巻のように、力の奔流が渦巻く。
 その中心には帝と“死闘の性質”の神がいた。
 拳と蹴りを際限なく何度も繰り出し、その衝撃波が力場となって渦巻いている。

「ぜぁっ!!」

「ずぁッ!!」

 渾身の蹴りを放ち、躱される。
 その体勢から、反撃の蹴りが繰り出され、これもまた躱す。

「「ッッ!!」」

 体を捻った勢いを生かし、手刀を振る。
 腕同士がぶつかり合い、またもや衝撃波を生み出す。

「ッ……!」

「ふッ!」

「ガッ……!?」

 空いた手で殴ろうとするが、同じく空いた手で防がれる。
 直後、帝は顎に膝蹴りを食らい、仰け反った。

「ッ、おおッ!!」

「ごッ……!?」

 だが、帝もタダではやられない。
 仰け反る体を捻り、反転。
 上へと足を()()()()()、神の顎を蹴り上げる。

「ッ、らららららららららららららららららららぁッ!!」

「はぁぁあああああああああああああああッ!!」

 上下互い違いの構図で、帝と神は殴り合う。
 蹴りを拳で防ぎ、拳を蹴りで防ぐ。
 まともに受ければそれだけでダメージを受ける。
 そのために、一撃一撃を逸らし、直撃を避けて防ぐ。
 正面からではなく、斜めに防御する事で衝撃を逃がし、受け流していく。
 
「ッ、シッ、ふっ、はぁっ!!」

「甘い!」

 蹴りを絡めとるように防ぎ、同時に拳、蹴り、回し蹴りを連続で放つ。
 しかし、それは悉く防がれ、回避される。

「まだまだッ!!」

 神から反撃が繰り出されるが、こちらも全て捌く。
 互いにギリギリの所で防御ないし回避を成功させる。
 だが、そんな綱渡りが長続きするはずもない。

「がッ!?」

「そこだッ!!」

「ぐっ、が、ァああっ!?」

 直撃ではないが、蹴りを受けて仰け反る。
 直後、連撃が帝に叩き込まれ、吹き飛ばされる。

「ッッ……嘗めんな!!」

「ぐぉッ!?」

 回り込まれ、追撃される……その寸前で帝は奮起する。
 カウンターのように蹴りが神に叩き込まれ、一撃、二撃と直撃させる。

「だァあああああああッ!!」

「おおおおおおおおおッ!!」

 そこからは、先ほどの焼き増しだ。
 拳と蹴りをぶつけ合い、何度もその衝撃波を撒き散らす。

「(千日手だ!それは、向こうもわかっているはず!)」

 激闘の中、思考は常に加速する。
 そんな加速の中で、このままでは決着が着かないと察する。

「(ならッ!)」

「むッ……!?」

 反撃に拳や蹴りではなく、タックルを繰り出す。
 何撃か攻撃を貰うが、それを意に介さず一気に押し出す。

「ッ、ぁ!」

「っ……!そう来るか……!!」

 タックルによって体勢が崩れ、押し出された勢いで神は空中に投げ出される。
 同時に、静止した帝と距離が離れ、そこで神は何をするつもりなのか理解した。

「だだだだだだだだだだだだだだだだだッ!!」

「くッ……おおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 理力の弾を連打する。
 一撃一撃に強い“意志”が籠められ、食らえばひとたまりもないだろう。
 そして、その速度と密度も凄まじい。
 地力の高い神の身体能力を以てしても避け切れない程だ。
 故に、神も回避しきれないと理解した瞬間、撃ち合いに応じた。

「ッッ……!!」

 いくつもの弾がぶつかり、スパークさせる。
 爆発と稲妻を迸らせ、帝と神の間を煙幕で見えなくする。
 軌道が隠れる分、さらに避けづらくなっていく。

「っらぁッ!!」

「ふんッ!!」

 弾としてだけでなく、斬撃としても理力を飛ばす。
 “意志”と“意志”がぶつかり合い、弾幕の撃ち合いはさらに激しくなる。

「ッ……ぉおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 これでは肉弾戦と同じ千日手だ。
 尤も、帝はそうなる事を読んでおり、即座に動きを変える。
 弾幕に身を投げ、体を捻って回転を始める。
 さらに、腕に“意志”を込め、まるでコマのように回りながら弾幕を放つ。
 本来なら目を回す行為だが、神界においてそんな常識は通用しない。

「ほう……ッ!」

 凄まじい速度の回転は、何も弾幕をばら撒くためではない。
 回転の勢いを利用し、弾幕を弾くためでもある。
 これによって、神の弾幕を突破しながら、攻撃を繰り出す事を成立させた。

「ならば……むんッ!!」

「ぐッ……!?」

 このまま弾幕を撃ち続けても無意味と神も悟る。
 そして、すぐさま帝の動きに対処して見せた。
 不退転の如く構え、回転を受け止めたのだ。
 その過程で弾幕に被弾し、回転の影響でダメージもあった。
 だが、その上で止められたからこそ、帝は隙を晒した。

「しまっ……!?」

「っつぇええいッ!!」

 両腕を掴まれ、気合と共に蹴りが叩き込まれた。
 振りほどくにはあまりにも時間が足りず、蹴りの勢いで腕が引き千切られた。

「っづ……まだだッ!!」

 “意志”を以って、千切れた両腕を再生させる。
 そして、追撃に飛んできた極光を弾き、蹴りで肉薄からの拳を防ぐ。

「おおおおおおおおッ!!」

「なん……のぉッ!!」

 直後、脚を掴まれ、振り回される。
 帝も負けじと、振り回されながら至近距離で理力の極光を放つ。

「っっ……!」

「ふーっ、ふーっ……!」

 互いに体勢を立て直し、仕切り直しとばかりに対峙する。

「は、はは……!」

「くくく……!」

 改めて向き直ると、二人は笑いを漏らす。

「「(―――愉しいッ!!)」」

 それは、ギリギリの闘い故に。
 自らが望んでいたモノ/憧れていたモノであるがために、興奮を隠しきれずにいた。

「「ッッ!!」」

 理力が稲妻として迸り、同時に二人は拳をぶつけ合う。
 先に帝が追撃を仕掛け、しかしその拳を逸らされる。

「がッ……!?」

 直後、反撃の拳を顔面に食らう。

「ぐッ!?」

 だが、負けじと帝は仰け反った反動で殴り返す。
 それを皮切りに、拳と蹴りの応酬が始まる。

「どうしたァ!口元が笑っているぞ!」

「てめぇこそ、口角が上がってんぞ!!」

 何度も拳と蹴りが体に当たり、二人はボロボロだ。
 それでも、口元から血を流しながらも笑っていた。

「当然だ!愉しいからなぁッ!!」

「奇遇だな、俺もだぁッ!!」

 まさに戦闘狂と言わんばかりに殴り合う。
 衝撃波と血を撒き散らし、何度も殴り殴られる。

「俺が、俺たちが勝つ!!」

「出来るものならやってみろッ!!」

 拳を受け止められ、また逆に受け止める。
 蹴りが避けられ、こちらもまた避ける。

「ッ……さっきのお返しだ!!」

「ぐっ……!?」

 体を反らし、紙一重で拳を避ける。
 そしてその腕を掴み、体を蹴り飛ばす事で片腕を引き千切る。

「ははッ!!」

「ぐッ……!?」

 再生と同時に神は腕を振るう。
 再生時に発せられる純粋な理力が斬撃となって帝を襲った。
 咄嗟に帝はガードをするが、防げたのは“斬られる”という事象だけだった。
 威力そのものは防ぎきれず、打撃となって帝を撃ち貫いた。
 ガードした場所を中心に、潰されたような衝撃が帝の体を駆け巡った。

「ッなくそッ!!」

「ぐぅッ……!?」

 追撃の肉薄に対し、防御態勢から反撃に出る。
 カウンターばりの至近距離における極光の直撃。
 咄嗟の反撃なため、威力は出なかったがそれでもダメージは通った。

「ッらぁあああっ!!」

「おおおおおおおッ!!」

 死闘は続く。どちらかの“意志”が挫けるまで。
 それまで、二人は何度も拳と蹴りによる衝撃波を迸らせ続けた。













「シッ!」

「はぁッ!!」

 一方、優奈達もあと一歩がなかなか踏み出せずにいた。
 既に“死闘の性質”の“天使”は全滅させた。
 だが、優奈と同じ“可能性の性質”の“天使”が残っているのだ。
 その二人を倒すための一歩がかなり遠い。

「そこッ!!」

「甘い!」

「う、おッ!?」

 葵の繰り出すレイピアがギリギリで当たらない。
 そのまま反撃がきっちりと決まり、葵は吹き飛ばされる。
 神夜も攻防戦で競り勝てずに吹き飛ばされていた。

「くっ……!」

「ッ……!」

 唯一、優奈だけは反撃が直撃せずに戦えていた。
 同じ“性質”故に、何をしてくるか大体がわかるからだ。

「五人だろうと、二人だろうと関係ない……本当に、同じ“性質”ながら厄介ね」

 自由自在に変形できる理力の弾を二つ携え、“天使”二人は戦う。
 優奈も同じように理力の弾を周囲に漂わせているが、やはり手数に差がある。

「(でも、飽くまでしぶといだけ。根気よく詰めていけば……)」

 同じ“性質”だからこそ、確実に追い詰める事が出来る。
 本来ならば、如何なる状況においても“可能性”を掴む“性質”だ。
 そのため、どれだけ追い詰めても逆転される“可能性”がある。
 しかし、同じ“性質”の優奈がいる事で、相手の“性質”を中和出来る。
 そのおかげで、追い詰めれば追い詰めるだけ、相手の“詰み”に近づける。

「(だからこそ、堅実に追い詰める……!)」

 なかなか倒せなくても、堅実さを損なわなければ負ける戦いではない。
 まだ逆転される“可能性”はあるが、それも追い詰めればなくなっていく。

「ッッ!!」

 優奈への理力の斬撃や弾幕を、全て捌く。
 手数の差があれど、それを導王流で埋める事で対処していた。
 さらにカウンターの掌底を二人の“天使”に放つが、これは躱される。

「………」

 避けた“天使”達に、レイピアと砲撃魔法が飛ぶ。
 しかし、どちらの攻撃もギリギリで外れてしまう。

「『普通の攻撃は外れるわ。そういう“可能性”に定められてるもの』」

「『やっぱり……通りで当てられない訳だね』」

「『遠距離攻撃はほぼ無意味か……?』」

 葵と神夜は基本的に援護する立ち回りだ。
 神夜は元より、葵も消耗が大きいため前衛で立ち回れない。
 今は優奈がメインで戦っているが、それ故に一歩追い詰めきれない。
 そして、“可能性の性質”が相手だからこそ、“賭け”に出れない。

「(……って所かしらね……)」

 優奈はそれを理解している。
 そのため、決して焦らず、堅実な態勢を崩さない。
 
「(問題は……)」

 だが、葵と神夜は別だ。
 相手がそのつもりだという事は優奈も伝えている。
 だからと言って、焦らずにいられる保証はない。
 神の半身である優奈と、葵たちではその辺りの感性は違うからだ。

「(なるべく早く仕留めたい所だけど……ねっ!)」

 攻撃を逸らしながらも、優奈は“天使”から目を離さない。
 “性質”による無理矢理な逆転は封じているが、単純な戦術は使える。
 そこからの逆転をさせないために、優奈は警戒し続ける。

「ふッ……!!」

 葵と神夜が近接戦を請け負い、優奈がそれをサポートする。
 “意志”さえあれば、すぐには押し負ける事はない。
 尤も、請け負うのは僅かな時間のみ。それ以上は危険だ。

「はっ!」

「撃ち貫け!」

 優奈の理力が葵と神夜を庇う。
 さらに導王流で攻撃を受け流し、そこへ葵がレイピアを投擲する。
 神夜も砲撃魔法を放ち……そのどちらも外れる。

「ッ……!」

「くっ……!」

 直後、“ギィイイン”と甲高い金属音が響く。
 優奈が転移し、片方の“天使”に仕掛け、その一撃を防がれた音だ。

「白兵戦で私に勝てると思わないで……!」

 導王流を併用すれば、“天使”と一対一で負けるはずがない。
 優奈が発言した時には、既にカウンターの一撃を構えて肉薄していた。

「邪魔を……!」

 もう一人の“天使”には、葵と神夜が魔力弾で牽制していた。
 葵に至ってはレイピアも飛ばしていたが、それでも僅かな足止めにしかならない。
 優奈が反撃直前なのと同時に、もう一人の“天使”も妨害寸前だ。

「ごはっ……!?」

 優奈の掌底が直撃し、“天使”が吹き飛ぶ。
 だが、吹き飛んだのは妨害しようとした“天使”だ。
 導王流で反撃を食らいそうになっていた“天使”は無事だった。

「ちぃっ……!」

 カウンターを決める瞬間に、優奈は転移していた。
 それにより、不意打ちの形でカウンターが攻撃としてもう一人の“天使”に命中し、吹き飛ばしたのだ。

「シッ!」

 間髪入れずに、葵が残った“天使”に攻撃を仕掛ける。
 消耗していても、近接戦はこなせる。
 遠距離では当てられない攻撃も、近接戦ならば“意志”で当てられる。
 そのため、“天使”も防御か回避を迫られる。

「っ……!」

 尤も、近接戦のみならともかく、理力による弾幕もある。
 だからこそ、神夜がそれをカバーする。
 魔力弾と砲撃魔法を敢えて葵を守るように放つ事で相殺する。
 直接“天使”を狙っても外れるが、攻撃そのものなら当てられる。
 厳密には、攻撃の相殺に対しても“当たらない可能性”を引き寄せられるのだが、それを行う程の余力が“天使”達にはないのだ。

「ふッ……!!」

 創造魔法による剣と、理力による剣がいくつも飛んでくる。
 同時に葵は飛び退き、入れ替わるように優奈が突貫する。
 “性質”同士で中和させたため、剣は当たり得る。
 そのため、“天使”は剣を防ぎ……転移で回り込んだ優奈に切り裂かれた。

「ぅぐっ……!?」

「ッ……!」

 追撃を繰り出す。……その寸前で、優奈は転移で離脱する。
 直後、寸前までいた場所を吹き飛んでいた“天使”が理力で薙ぎ払った。

「深追いなんてしないわよ」

「………」

 片方を吹き飛ばし、戻ってくるまでの僅かな間。
 その短時間でもう一人を追い詰めた。
 間違いなく、その気になればさらにダメージは与えられただろう。
 だが、そうすれば相手に逆転の“可能性”を与えてしまう。
 だからこそ、確実に反撃を食らわないタイミングで離脱したのだ。

「“呪黒剣”!」

「こいつなら、どうだッ!!」

   ―――“Sharp Slash(シャープスラッシュ)

 葵の霊術が“天使”の足元から炸裂し、回避先を減らす。
 さらに、神夜が斬撃をいくつも飛ばし、絶対に外れない軌道で狙う。
 いくら“外れる可能性”を引き寄せられると言っても、棒立ちのまま外れる事は早々ないため、それ故に確実に回避行動へと誘導できる。

「ッッ……!」

 転移で躱した所へ、優奈が創造魔法と理力で攻撃する。
 さらに自らも転移して回り込み、斬撃を繰り出した。

「ふッ!」

 斬撃を防がれ、反撃が放たれる。
 即座に導王流で受け流し、その動きと共に理力を斬撃として飛ばす。
 さらに葵と神夜が援護射撃を行い、行動範囲を狭めていく。

「はッ!」

 理力の弾幕で牽制し、転移と共に斬撃を繰り出す。
 しかし、転移で躱され、もう一人の“天使”と共に挟撃を仕掛けてきた。

「くっ……!」

 それすら受け流してカウンターを放つも、またもや転移で避けられた。
 
「(……これは、かなり時間がかかるわね)」

 堅実に攻めなければ、逆転の危険性がある。
 だが、堅実な戦い方だと、倒すまでにかなりの時間を要する。
 時間が経てば、状況など良くも悪くも変化する。
 イリスの勢力圏にいる以上、基本的に優奈達の不利に変化するだろう。
 だからこそ、援軍などが来る前に倒してしまうべきなのだ。

「(前言撤回。賭けに出る必要もあるわね)」

 追い詰めているようで、逆に追い詰められているかもしれない。
 その懸念があるため、早期決着が求められる。

「『二人とも、何か切り札ないかしら?』」

 戦っているのは自分一人ではない。
 だからこそ、優奈は念話で二人に尋ねる。

「『俺は……“意志”による一撃ぐらいだ』」

「『あたしも。……ううん、一つだけあったかな』」

「『本当?』」

 葵の返答に、優奈が戦いつつも聞き返す。

「『うん。でも、この“天使”相手に命中するか……』」

「『単発の遠距離射撃なのね……そこは私が調節するわ。葵は合図と共に撃って』」

「『了解』」

「『神夜は引き続き援護を。トドメとはいかなくても“意志”の一撃は有効活用しなさい。……どちらの“可能性”が優先されるか分からないけど、賭けに勝利して見せるわ』」

「『ああ、わかった』」

 勝負の決め手となるのはほんの一瞬。
 どちらが早く、より確実に“可能性”を掴むかに懸かっている。

「ッ……!!」

 攻撃を相殺し、その反動で間合いを取る。
 同時に創造魔法で武器を大量に展開し、ほんの僅かな“間”が空間を支配する。

「―――貴方達と私達の、決定的な差を教えてあげるわ」

 “性質”だけでなく、導王流も総動員して優奈は攻撃を仕掛ける。
 ただ一つの道筋へと“導く”ように、剣の弾幕を一斉に放つ。

「ッッ!!」

 理力の弾を操り、転移してもなお躱し切れない弾幕を作り出す。
 そこに、優奈と“天使”達以外が立ち入る余地はない。

「……すぅ……よし……ッ!」

 否、“意志”さえあれば、誰でも割り込む事は可能だ。
 例え、素の力では大きく劣る神夜であろうと。

「おおッ!!」

 手数の差で優奈は余裕がない。
 そのため、葵や神夜が何かしようものなら、即座に“天使”の妨害が入る。
 故に、神夜は敢えて自ら渦中に飛び込んだ。

「ぜぁッ!!」

   ―――“Will Mistilteinn(ウィル・ミスティルテイン)

 防戦一方になりかけていた優奈を助けるように、神夜は斬りかかる。
 当然、その一撃は防がれるが、弾かれない。

「こいつ……!?」

 我武者羅に眼前のものを斬りまくる神夜。
 その攻撃は“天使”にこそ届かないが、あらゆる攻撃を切り裂いた。

「……かやちゃん、借りるよ」

 そして、最後の“一手”。
 葵は胸の内から()()を取り出し、それを一本の矢に変える。
 デバイスとしての機能を使い、弓を生成。矢をそこに番えた。
 その神力は、この場に来れなかった椿のものだ。
 ついてこれないからこそ、葵にいざという時のための神力を託していたのだ。

「させるか!」

「こっちのセリフよ!」

 その矢に籠められた“意志”を感じ、“天使”が止めようとする。
 だが、それを優奈と神夜が“意志”を以って阻止する。

「くそっ……!?」

 そこで“天使”達は判断を見誤った。
 隙を晒す一種の賭け。それは確かに逆転の“可能性”があった。
 だが、だからこそ優奈と神夜を確実に対処すべきだったのだ。
 葵を庇ってまで“意志”を発揮したその直後は、確かに無防備だったのだから。

「“詰み”よ。もう、敗北以外の“可能性”は潰したわ」

 そして、その動揺が致命的な隙となる。
 “性質”を用いた理力の拘束により、“天使”達は身動きが出来なくなる。
 ちょうど二人とも葵の射線上におり、一射で射貫ける位置になる。

「今よ!」

「これがあたしとかやちゃんの全力、だよッ!!」

   ―――“神穿(かみうがち)-草野姫(かやのひめ)-”

 咄嗟に“天使”達が障壁を張る。
 だが、トドメのために放った一撃の“意志”がそんな軟なはずがない。
 容赦なく障壁ごと“天使”達を貫通し、“領域”を砕いた。

「……“可能性”を手繰り寄せるだけでなく、自らの手で切り拓く。……それが、貴方達との決定的な差よ」

 消えゆく“天使”達を尻目に、優奈はそう言い残す。
 これにて、優奈達の戦いは終わった。











 ―――直後、轟音が響く。

「ッ……!?」

「なんだ!?」

 衝撃波が迸り、咄嗟に優奈達はその場に踏ん張った。

「この力の波動……帝よ!」

 神と“死闘”を続けていた帝が優奈達の近くに来たのだ。
 轟音は、空から落ちてきた衝撃による物だった。

「ぅ、がっ……!?」

「ッ!?」

 そして、落ちてきた際の煙幕が晴れる。
 そこには、ボロボロになった帝が仰向けに倒れており、神がそれを見下ろしていた。

「負けたのか……!?」

「相手は“死闘の性質”よ。……同じ土俵なら、どんなに強い“意志”でも上回る事は出来ないのよ……!」

 帝と神はまさに“死闘”を繰り広げていた。
 だが、“性質”の影響で帝は競り負けたのだ。

「ぐ、くッ……!」

 起き上がり、トドメの追撃を帝は躱す。
 神も無傷ではなく、かなり動きは鈍っている。
 それでも、追い詰められた帝よりは上だ。

「っづ、ぉおおッ!!」

 振るわれた手刀をダメージ覚悟で防御し、膝蹴りを放つ。
 神も防御するが、膝蹴りのダメージが通ったのか僅かに仰け反る。

「っ……楽しませてもらったぞ、人間。だが、“死闘”である限り俺の土俵だ」

「……だろうな。一人では、お前には勝てない」

 飛び退き、間合いを取る。
 直後に、神が肉薄し、両手で片手ずつ抑えられる。

「けどなぁ、まだ負けてねぇぞ……!」

「まだ足掻くか。ならば……ッ!」

 両手を組み合った状態から、徐々に帝が押されていく。
 このままでは帝は負けてしまうだろう。

「……そうさ。俺()勝てない。だが、俺()ならばッ!!」

「な、にッ……!?」

 帝が啖呵を切ると同時に、神は横に仰け反った。

「ッッ……!!」

 そこには、ユニゾンを解除したエアが蹴りを振り抜いていた。
 理力を纏い、“意志”を籠めた渾身の蹴りは、確かに神を仰け反らせた。





「ッ―――!」

「しまッ……!?」

 その隙を、帝は逃さない。

「てめぇとの決定的な違いを教えてやらぁ。それは実力じゃねぇ。……いざって時に頼れる、相棒の有無だッ!!」

   ―――“力を示せ、我が憧憬よ(トゥインクル・ロンギング)

 帝は神に肉薄し、超至近距離から“固有領域”の力を解き放った。
 “意志”を籠め、千載一遇の隙に最大火力を叩き込んだのだ。

「はぁッ、はぁッ、はぁッ……!」

 “死闘”を経て、帝も完全に満身創痍だ。
 それでも、満足がいったように笑みを浮かべていた。







「―――見事」

「ッ……!」

 しかし、神は健在だった。
 帝の最大火力を食らってなお、“領域”が砕け切っていなかったのだ。

「くっ……!」

 疲弊した体を動かし、構え直す帝。
 エアもそんな帝を支えるように並び立つ。

「いい、構える必要はない」

 だが、神は構える事なく、自然体のままだった。

「最早俺の敗北は必定だ。“領域”はほぼ砕け、“天使”も全滅だ。加え、お前たちは一人も欠けていない。……勝敗は既に決しているのだよ」

 穏やかな笑みと共に、神は言う。

「……貴方は、どうしてイリスについたの」

 優奈がかねてよりの疑問を尋ねた。
 “死闘の性質”の神は、どちらかと言えば善の神だ。
 洗脳も受けておらず、自分の意思でイリスについていた。
 レイアーのような嫉妬などもないため、なぜ敵となったのか分からなかったのだ。

「……俺にとっては、善悪など関係なかった。ただ、“死闘”をしたかった」

「それだけ、なのか……?」

「そういう“性質”故な」

 ただ戦いたい。だからイリスについた。
 いくらその方が強敵と戦えるかもしれないとはいえ、あまりに単純過ぎた。

「だが、勘違いだった」

 しかし、それは違うと神は言う。

「お前、名は?」

「……王牙帝だ」

「そうか。……王牙帝、礼を言うぞ。お前のおかげで本当の理由に気づけた」

 そう言って、神は豪快に笑みを浮かべる。

「“可能性の性質”の神、その半身よ。お前と似たようなモノだったのだ。……人の、生命の可能性(輝き)が見たかった。だから敵として立ちはだかったのだ」

「私と、同じ……」

 ただ、辿り着いた立ち位置が違っただけの話だった。
 優輝はその人間達に寄り添う形で。
 神は逆に敵として立ちはだかる形で。
 どちらも“可能性”を見たかった、ただそれだけだったのだ。

「行け。これ以上の問答は不要だろう」

「……そうね。行くわよ、皆」

 過程がどうであれ、優奈達は勝利した。
 神に対し思う所はあるだろうが、それでも四人は先へと歩みを進めた。

「なのは達はいいのか?」

「ええ。何も考えずにあの子達を割り当てた訳じゃないわ」

 なのは達はまだ戦っているが、元より足止めが目的だ。
 優輝がイリスに勝てる“可能性”を上げるため、優奈達は先へと進んでいく。

















 
 

 
後書き
Sharp Slash(シャープスラッシュ)…フェイトのアークセイバー及びハーケンセイバーと同系統の魔法。斬撃を飛ばす単純な魔法だが、それ故に威力と速度の幅は広い。19話にも登場していた。

Will Mistilteinn(ウィル・ミスティルテイン)…神を倒す“意志”を形にした剣。その“意志”が続く限り、あらゆるものを斬り裂く事が出来る決して折れない剣。

神穿-草野姫-…椿の神力を借り、それを矢に変えて射る神殺しの一撃。特筆する程の特殊効果はないが、それでも籠められた“意志”は尋常ではない。


優奈達&帝決着。最後が巻きになりましたが、勝利です。
なお、全員かなり消耗しているため、今回程の強さは発揮できません(特に帝)。 
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