傷付いた犬
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第二章
「それならね」
「テキサスをだね」
「あたってみるわ」
「うん、頼むよ」
「保護犬でもいいわね」
「むしろ保護犬をお願いするよ」
これが兄の返事だった。
「可哀想な境遇の子がそれで助かるなら」
「わかったわ」
妹は兄の言葉に頷いた、それでテキサスのブルーレーシーの保護犬をあたっているとベラのことを知った、そして。
実際にシェルターに行ってベラを見るとジェニファーは悲しい顔になった。
「この娘はとても悲しそうですね」
「はい、捨てられたことがショックで」
「ずっと心を閉ざしています」
「誰とも目を合わせようとしないで」
「それでいつもぬいぐるみを抱いていまして」
「ぬいぐるみだけが友達で」
「そうですか。ぬいぐるみのことは兄に話して」
そしてとだ、ジェニファーは言った。
「それで、です」
「引き取ってくれますか」
「この娘を幸せにしてくれますか」
「貴女のお兄さんが」
「兄は妹の私が言うのもあれですがとてもいい人です」
妹としてこのことを保証した。
「誰に対しても。ですから」
「この娘にもですか」
「優しくしてくれますか」
「そうしてくれますか」
「必ず。間違っても虐待とか捨てることは」
そうしたことはというのだ。
「しません」
「それならです」
「この娘をお願いします」
「そして救って下さい」
「とても傷付いていますが」
「身体は何もなくても」
それでもとだ、ジェニファーは言った。
「心が傷付いていますと」
「トラウマですね」
「人間にとっても深刻ですが」
「それは生きものも同じです」
「犬も心がありますから」
「そうですね、では兄にも来てもらいます」
こうしてだった、ジムもベラと会った。彼もベラを見て言った。
「こんな悲しそうな犬ははじめてだ」
「そうよね」
「余程傷付いたんだな、けれどうちに引き取って」
「一生よね」
「大切にするよ。妻も息子もそう言ってくれてるし」
「それじゃあね」
「今からうちに連れて行くよ。ぬいぐるみもね」
ベラが今も抱いているぬいぐるみも見た、ジムに顔を向けず怯えていてそうしてぬいぐるみをすがる様に抱き締めている。
「そのままでいいよ」
「連れて行くのね」
「そうするよ」
こう妹に答えた。
「是非ね」
「ではね」
「今から行こう」
ベラにも声をかけた、そうして大きな身体を震わせて硬直しぬいぐるみにすがりつく彼女をぬいぐるみと一緒に車に乗せて家まで連れて行った。
家に着いてもベラは家族と目を合わせない、顔を背けてガタガタと震えうずくまりぬいぐるみを抱き締めている。
その彼女を見ながらジムはまずは妻のアイーダヒスパニック独特の浅黒い肌と黒い髪と目の彼女に言った。
「この娘のことは話した通りで」
「ええ、傷付いているから」
「いつも優しくしよう」
「本当に悲しそうね」
「捨てられてね」
前の飼い主にというのだ。
「そうしてね」
「深く傷付いて」
「心を閉ざしているから」
だからだというのだ。
「その心を癒してあげよう」
「ぬいぐるみが友達なんだね」
息子のジュール、父の髪の毛と目そして母の肌を持つ彼が言った。まだ六歳であり顔立ちはあどけない。
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