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傷付いた犬

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第一章

               傷付いた犬
テキサスの保護施設にその犬はいた、黒のブルーレーシーで雌である。名前はベラといって一歳である。
 ベラはいつも悲しい顔をしてシェルターの片隅で動かなかった。傍にはいつも大きなテディベアのぬいぐるみがあり彼女はそれを抱く様にしていた。
 その彼女とぬいぐるみを見て施設の職員の一人である若い女性は年配の人に尋ねた。
「あの、あの娘どうしていつもぬいぐるみと一緒に」
「前の飼い主、捨てた人達が一緒にね」
「あのぬいぐるみもですか」
「置いたのよ。多分捨てるから餞別にと思ってね」
「そう思うなら捨てないといいのに」
「そうよね。何でもお散歩に連れて行ったり不妊手術とかマイクロチップ埋めるのが面倒で」
 そうした理由でというのだ。
「あの娘を捨てたのよ」
「うちは殺処分もあるんですが」
「だからもう死のうがどうなろうがよ」
「いいんですね」
「家族として迎えたけれどね」
「家族を平気で捨てるんですね」
「世の中そんな人もいるのよ」
 年配の人は悲しい顔で答えた。
「それでそうした人は人もね」
「平気で捨てますか」
「命を平気で捨てるのよ」
 それならというのだ。
「だからよ。人も思っていたのと違うとか自分の都合が悪くなったら」
「そうした時はですか」
「平気で捨てるわよ」
 そうするというのだ。
「だからそうした人は信じないでね」
「平気で裏切って切り捨てるからですね」
「そう、冷酷で自分勝手な人だから」
 生きものを平気で捨てる輩はというのだ。
「だからね」
「信用しないで」
「近寄りもしないことよ」
「それがいいですか。けれど本当にあの娘は」
 ベラをあらためて見て言った。
「悲しそうですね」
「飼い主に捨てられたから。家族にね」
「だから当然ですね」
「それで何時殺処分になるかとも思っていて」
 このこともあってというのだ。
「悲しくて怖くてね」
「ああした目をしてですね」
「塞ぎ込んでいるのよ、そしてね」
 それでというのだ。
「唯一の友達としてね」
「あのぬいぐるみがあるんですね」
「あのぬいぐるみがたった一つの支えなのよ」
 ベラにとってというのだ。
「本当に悲しくて怖くて辛い中のね」
「そうなんですね」
「家族にあんな思いを平気でさせる人も世の中にはいるのよ」
「酷いことですね」
「世の中には酷いことも沢山あるのよ」
 年配の人も悲しい顔だった、その顔でベラを見ていた。ベラはいつもぬいぐるみを抱く様にして悲しい顔をしていた。
 その彼女に転機が訪れた、それは思わぬところからだった。
 ニューヨークの保護施設で活動をしているジェニファー=ジュサップ、赤髪を肩まで伸ばし灰色がかった青い目で大きな唇を持つ長身の彼女は自分と同じ髪と目の色だがやや太っていて大柄な兄のジムから電話で相談された。彼はフロリダにいる。
「実はブルーレーシーの子を飼いたいけれど」
「ブルーレーシーの?」
「うん、家族とも話したけれど」
「それでなのね」
「犬を飼いたいとね」
 その様にいうのだ。
「それで話してどの犬がいいか」
「それでブルーレーシーになって」
「飼いたいと思ってるけれど」
「あの犬はテキサス原産だから」
 ジェニファーはすぐに言った。 
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