Fate/WizarDragonknight
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アルティメットルパン
「あ、ガルちゃん、ありがとう」
レッドガルーダが持ってきた御刀、千鳥。それを手に取り、可奈美はリゼの家の近くにいた。
怪盗が来るということで、屋敷の警備も強くなっており、可奈美たちが入るのにも苦労しそうだった。
「よし。それで可奈美ちゃん、どうやって入ろうか?」
「うーん……現場に行く前に、私たちが怪盗みたいに潜入しなくちゃいけなくなりそうだね」
「それは流石にね……お?」
可奈美は、目を凝らした。
屋上の一部分。ステンドグラスのように張られた窓が、バリンと弾け、そこから白と黒の人影が飛び去るのが見えた。
「あれだ!」
可奈美が御刀、千鳥を握り、友奈がスマホのボタンを押す。
すると、二人の体に常識を破る力が降り注がれた。
全く体に変化が見えない可奈美と、対照的に白と桃色の勇者服となった友奈。
二人は跳躍、それは当然のように建物の屋上まで届き、屋根を足場とする。
「あれだね!」
友奈が、可奈美が見ている人影を指さす。
「そう、急ごう!」
可奈美と友奈は、ともに駆け出す。
大きな道路をジャンプで飛び越え、一気に怪盗との距離を詰める。
すると、怪盗もこちらに当然気付く。振り向きざまに、逃走用の小道具を投げてきた。
「ふっ!」
可奈美は千鳥を抜き、一閃の元切り捨てる。すると、その玉から黒い煙が可奈美の視界を遮った。
「うわっ!」
可奈美は目に煙が入らないように目を閉じて、煙から脱出。だが。
「うわわわっ!」
目の前にいつ出現したのか、テナントビルの壁に正面からぶつかってしまう。カエルが潰されたような音とともに、可奈美は全身を壁に張り付かせてしまった。
「可奈美ちゃん!」
「大丈夫……行って、友奈ちゃん!」
「う、うん!」
「ははははは!」
怪盗の笑い声と友奈の気配が、どんどん遠ざかっていく。
可奈美が屋上に戻ったときには、もう怪盗の姿は無くなっていた。
「待って!」
可奈美が振り切られた。
友奈は歯を食いしばりながら、屋根を蹴る力を強める。
「怪盗さん、待って!」
「待てと言われて待つ怪盗などいないよ、お嬢さん」
やがて友奈は、怪盗の隣で並走する。白いタキシードと黒いマントという、オーソドックスな怪盗の姿だった。
「ふむ……残念ながら、このお宝を渡すわけにはいかない」
怪盗は懐から盗品を取り出していった。それは、手のひらに収まる、手裏剣の形をした置物だった。中心の丸い穴を中心に、四枚の刃の方へ緑が塗られている。
怪盗はそのままひらりと翻しながら着地した。
友奈も続いて降り立ったその場所は、人通りのない裏路地だった。掃除の手が行き届いておらず、同じ見滝原とは思えないほどにゴミが散乱している。
「ふむ。どうしてもこれを返してほしいと」
「そうだよ。それは友達の家のものだからね」
「なるほど。……面白い」
友奈の姿を見て、怪盗は何を思ったのか、肩を震わせて笑い出す。
「面白い。君のようなものも、まだこの世界にいたのか。全く、退屈な世界に召喚されたと思ったが、少しは楽しめそうだ」
「……召喚された? もしかして、昨日コエムシが言っていた処刑人!?」
「む? 確かに俺は聖杯戦争に消極的なものを排除する命令を受けた処刑人だが……なるほど」
すると、怪盗の目が鋭くなる。
「君は、聖杯戦争の参加者か……とすれば、先ほどの彼女は、君のサーヴァントか」
「……そうだよ」
友奈が警戒しながら頷いた。
すると、怪盗はしばらく考えるように顎をしゃくり、
「なるほどなるほど。俺は、処刑人としての命令には興味がない。君たち参加者を殺せば生き返らせてくれるなどと言われたが、前回の青二才との戦いで、俺はもうこの世界には未練はない。だが……」
怪盗は、口元を歪めた。
「折角だ。俺に盗みを楽しませてくれたこの世界への謝礼として、この宝を排除し、簡単にこの世界を守ってやろうではないか」
「どういうこと?」
友奈の問いに、怪盗は盗品の手裏剣を懐に入れる。代わりに取り出したのは、金色の銃だった。銃口とトリガーカバーが持ち手を覆うようにできており、まるでメリケンサックのようでもあった。
「どうやら少しは戦えるようだ。ならば、少しばかり手荒な真似をしても、死ぬことはあるまい」
怪盗は、その銃口を押した。
『ルパン』
重い音声。同時に、メリケンサック___ルパンガンナーより、まるで仮面舞踏会でも行われるようなジャズ音楽が流れだした。怪盗がルパンガンナーを振ると、同時に金銀財宝の形をしたエネルギーが宙を舞う。
「うわっ!」
友奈は自らに攻めてきたエネルギーを殴り弾く。
そして、怪盗は告げた。
「変身!」
『ルパン』
ルパンガンナーをZの形に振り、集まったエネルギーが装甲となり、怪盗の体に装着されていく。
やがて白と黒の怪盗は、赤茶のスーツに宝石の形をした装甲を纏った戦士となる。黒いシルクハット、ちょび髭のようなマスク。
怪盗は両手を大きく広げた。
「俺は仮面……おっと。この名前はすでにあの男に返したのだったな。では、改めて名乗ろう。我が名は大怪盗、アルティメットルパン。この宝を処分し、この世界を守ってあげよう」
「アルティメット……ルパン?」
友奈は油断なく腰を落とす。
ルパンは友奈から視線を離さずに、どこからかミニカーを取り出した。ルパンガンナーと同じく、金色のミニカーをルパンガンナーに装填する。
『ルパン ブレード』
すると、ミニカーの後ろに繋がっている刃が跳ね上がり、ルパンガンナーが短刀となった。
「さあ、来るがいい。お嬢さん」
ルパンは友奈を挑発するようにルパンガンナーの刃___ルパンブレードを向け、揺らした。
「大怪盗を捕まえられるかな?」
「行くよ!」
友奈は、勇んでルパンへ殴りかかる。
だが、軽い身のこなしのルパンは、友奈の拳を優雅によけ、背後に着地し、その背中を斬り裂いた。
「うわっ!」
悲鳴とともに翻弄される友奈。
ルパンは笑いながら、彼女を見下ろしていた。
「はっはっは。どうした? まだまだ始まったばかりだぞ」
「こんのおおおお!」
頭に血が上った様子の友奈は、地面をたたいてルパンへ襲い掛かる。
だがルパンは、マントを翻しながら華麗に翻弄。友奈は彼を捕まえることができず、逆にダメージを受けてしまう。
「直線的だな。人間相手は慣れていないのかな?」
ルパンはルパンブレードをくるくると回転させ、三回友奈の体を引き裂く。火花を散らしながら、友奈は地面を転がった。
「ま、まだまだっ!」
友奈は起き上がりながら回転蹴りを放つ。それはルパンの腕にガードされるものの、少しだけルパンを後退させた。
「どうやら少し痛めつけないと、諦めそうにないな」
『ガン』
ルパンはルパンガンナーの銃口を押す。すると、ルパンガンナーは銃の形態となり、ルパンの指をトリガーに、友奈を狙う銃となる。
「!」
友奈は転がりながらルパンガンナーを回避。だが、遠距離攻撃の手段を持たない友奈にとって、それは勝ち目がなくなったことを意味していた。
「だったら……!」
友奈は構わず走り出す。ルパンは少し驚いた様子をみせたが、構わず友奈へ発砲した。
「なんのこれしきいいいいいいいい!」
被弾しながらも突き進む友奈へ、ルパンは舌を巻いた。
「これは驚いた。まさか君がここまでパワフルだとは」
『ブレイク』
ルパンは再びルパンガンナーのスイッチを入れる。すると、ルパンガンナーは今度は鈍器となった。接近した友奈の拳と全く同じ威力のそれは、友奈とともに弾かれる。
「なるほど。力はあるな。もう少し対人能力を身に付ければ、俺の脅威だっただろう」
「まだまだ! 根性!」
友奈は弾かれた拳を握り、再びルパンへ挑む。
ルパンは自らのマントを掴み、防御するために友奈の前に広げた。
「勇者パンチ!」
桜の花びらを舞わせるその一撃は、マフラーごとルパンを弾き飛ばした。
数回の火花を散らしたものの、ルパンはまだ膝を折っていない。
だが、今回の目的である手裏剣の置物は、今の衝撃により宙を舞っていた。
「しまった!」
ルパンが慌てて手裏剣を取ろうとジャンプする。だが、それよりも早く、白い影が手裏剣を掠め取った。
「やった!」
御刀、千鳥を携えた可奈美。彼女はそのまま宙返りをして友奈の隣に着地した。
「確かに、返してもらったよ」
可奈美はにっこりと笑顔で、手裏剣を手玉に取る。
「可奈美ちゃん……!」
「遅れてごめんね。探すのに、少し手こずっちゃった」
「ううん! 万々歳だよ!」
友奈は両手を叩いて飛び跳ねる。
すると、ルパンは「お見事」と手を叩いた。
「まだ俺を倒すには程遠い。が、君の根性を認め、それは君たちに返してあげよう」
「……あ」
「待って!」
そのまま去ろうとするルパンへ、友奈が呼びかける。
「貴方、コエムシに呼ばれた処刑人なんでしょ? その……これからどうするの?」
「どうするもない。俺は自らの人生に悔いを残してなどいない。もとより生きる願いもない。ならばせめて、そのお宝が導く破滅を回避してやろうと思ったのだが……どうやら、俺がする必要もないのかもしれないな」
「破滅?」
可奈美が首を傾げた。
「リゼちゃんの家の置物が、世界を破滅させるっていうこと?」
「ふむ。君がどうやらマスターのようだな。ならば、サーヴァントの少女よ。君は、この世界に召喚されるにあたり、この世界の情報はある程度インプットされているのだろう?」
「? う、うん」
ルパンの言葉に、友奈は頷いた。
「それは古代の滅びた文明の遺産であり、この世界に蘇ってはいけないものへのカギなのだよ。それを破壊することをお勧めする」
「そんなことはさせない」
突如、驚くほど低い声が響いた。
「え?」
「誰?」
ルパンではない。
友奈は、声の発生源を探した。
だが、その姿は見つからず、その低い声は続いた。
「それは、オレがいただく。オレが持つべきものだ」
冷たい声。
「怪盗さん、これはあなたなの?」
「ふむ。この世界に俺の知り合いなどいない。これはどうやら、第三者のようだ」
ルパンが分析した。友奈と可奈美は顔を合わせた時。
「来る!」
可奈美が叫んだ。
そして、地響き。
目の前で登る煙の中、それは現れた。
「だ、誰……?」
黒い人物。顔には紫の大きなゴーグルがしてあり、その表情は分からない。右手は紫の煙が腕の形となっており、常に揺れ動くもやのようだった。立ち上がったその胸には、赤い紋章が刻まれている。
彼はルパンを、そして友奈と可奈美を見つめる。
そのゴーグルの下の目は、光の反射で見えない。
「……目障りなんだよ……」
彼は静かに吐き捨てた。
「戦うつもりならば、慣れ合うような仲良しごっこはやめろ」
「な、仲良しごっこって……」
友奈と可奈美は、共に戦闘態勢を取る。
ルパンもまた、謎の乱入者へルパンガンナーを向けた。
「あんまり関心しないね。獲物の横取りとは」
「……貴様は、監視役から言われた処刑人だな?」
乱入者の視線は、次にルパンへ注がれる。
「追加令呪などに興味はない。失せろ」
「ふむ」
「令呪ってことは……」
「うん。彼も、聖杯戦争の参加者だね」
友奈と可奈美は顔を合わせる。
「だったら、どこかにサーヴァントか、マスター……パートナーがいるはずだね」
「パートナーだと?」
すると、より強い視線が友奈を突き刺す。
冬の気温させも温く感じるそれは、友奈の背筋を一瞬で凍り付かせた。
「ふざけるな……誰かの力を借りるなど、オレはしない。ここにいる全員」
彼は、紫の右手を掲げる。
「オレが倒す」
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