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バレンタインドッグ

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第三章

「あんた達が帰ってきたらね」
「渡す様に言ったんだな」
「そうよ、ふわりは頭がいいから」
 それでというのだ。
「出来たことよ」
「成程な」
「ええ、じゃあふわりにもよ」
 母は息子に言った。今はチョコレートではなくカレイの煮つけにカボチャの味噌汁にもやしと韮の炒めものをおかずにご飯を食べている彼に。
「ホワイトデーお願いね」
「じゃあ何か買うな」
 息子も母に応えた。
「それじゃあな」
「ええ、忘れないでね」
「俺もだな、ふわりにもな」
 父も言った、ワインはかなり飲んでいて酔いも回っている。
「何かやるか」
「二人共そうしてね」
「そうするな、しかし言ったことをそのまましてものも渡してくれるなんてな」
 洋介はしみじみとして思った。
「ふわりは本当にいい娘だな」
「全くよね」
「そんな娘を捨てるなんてあの二人は何処まで馬鹿なんだ」
 洋介はふわりの元の飼い主であるかつての親戚達今は一族全員からふわりを捨てたことから縁を切られ近所でも嫌われ者になっている彼等のことも思った。
「何を見てたんだ」
「その辺りの道に落ちてるゴミにチョコレートのことがわかるか」
 父は息子に言ってきた。
「そうだろ」
「そういことか」
「そうだ、ゴミに何がわかるんだ」
「だからふわりのことはわからなかったんだな」
「そうだ、ふわりはチョコレートでも最高級だろ」
「そんな娘だな」
「ダイアモンドみたいなな」
 そうした素晴らしい犬だというのだ。
「それなら余計にわかるだろ」
「ゴミとダイアモンドは全然違うな」
 洋介も言った。
「確かに」
「そうだ、だからな」
「あの連中にはふわりがわからなかったんだな」
「その性格や頭のよさは全く見ようとしなかったんだ」
「こんないい娘なのにな」
「だから言ってるだろ、馬鹿にはそんなことわかるか」
 父はまた息子にこう言った。
「そういうことだ」
「そうなんだな、じゃあ俺達はちゃんとふわりの性格や頭のよさを見ないとな」
「ああ、そうしていくぞ」
「そうだな、じゃあふわりホワイトデーは頼むな」
「ワンッ」
 ふわりは洋介の言葉にきちんと座ったうえで尻尾を振って明るい顔で応えた、そして洋介も文太もふわりにはそれぞれホワイトデーのプレゼントをあげた。それは彼女の尻尾をまた振らせるものだった。


バレンタインドッグ   完


                  2021・2・10 
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