歪んだ世界の中で
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第七話 洋館の中でその四
「今科学が凄い力を持ってるけれど科学だって万能じゃないよ」
「僕もそうは思ってたけれどね」
「この世の中って絶対のものなんてないから」
従ってだ。科学もだというのだ。
「だから科学にそぐわなくても正しくないとは限らないの」
「そうなるんだね」
「だから。お池や石にもね」
翻ってだ。そうした存在についてもだというのだ。
「心がちゃんとあるんだよ」
「そのことは本当に今まで」
「信じられなかったけれど」
「今は信じられるよ」
温かい微笑みになって答えた希望だった。
「そうなんだね」
「そうだよ。だからお池も石もね」
「これからは粗末にできないね」
「石は蹴飛ばされても踏まれてもそれが普通だから」
「そのことについてはなんだ」
「何も思わないよ。けれどね」
そうしたことに何も思わなくともだというのだ。石は。
「大切にしてもらったり大事にしてもらったら喜ぶよ」
「石もなんだ」
「宝石は皆大事にするよね」
「うん、奇麗だからね」
「それに形のいい石もね」
こちらは趣きだ。それ故になのだ。
「大事にされると嬉しいんだ」
「お池もだよ。ゴミとかあったら悲しむけれど」
「奇麗にしてもらったら喜んでくれるんだ」
「そうだよ。何でもそうなんだよ」
「大事にしえもらったり奇麗にしてもらったら」
「皆嬉しいんだよ」
そうだというのだ。あらゆるものがだ。
その話をしてだ。そのうえでだった。
希望は千春と共にだ。その池を見た。池の周りには夏の花々や夏草達がある。そこにある全てのものを見てだ。そして言う希望だった。
「じゃあこれからはね」
「心、感じるよね」
「うん、感じないにしてもね」
だが、だ。それでもだというのだ。
「意識させてもらうよ」
「そうしてくれるの」
「そうするから。だから」
それでだと答えてだ。二人でその池を見てだった。
千春は希望にだ。こう言ったのだった。
「じゃあそろそろ?」
「うん、もう時間だよね」
「今五時だよ」
夏なのでまだ日は高い。だがそれでもだ。
その時間を千春から聞き自分の腕時計でも確めてからだ。希望は言ったのだった。
「悪いけれど今日はね」
「これで帰るのね」
「また。明日だね」
「それでその明日にはね」
「うん、植物園に行こう」
まさにそこにだ。行こうというのだ。
「そうしようね」
「じゃあね。今日はこれでお別れで」
「また明日ね」
こう言葉を交えさせてからだ。千春は。
希望にだ。笑顔で言ったのだった。
「じゃあ今からね」
「今から?」
「お家まで送るね」
「ええと。前もそうなって不思議に思ってたけれど」
「気にしないで」
希望があの時のことを言おうとした。しかしそれより前にだった。
千春は笑顔を向けてその笑顔で彼の注意を引いて言葉を遮ってからだ。そのうえでだ。
彼にだ。こう言ったのである。
「距離はね。遠いと思えば遠くて」
「近いと思えば」
「近いんだよ」
「だからなんだ」
「そう。だから気にしなくていいよ」
こう希望に言うのだった。そのうえでこんなことも言う彼女だった。
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