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歪んだ世界の中で

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第六話 明らかな変化その十

 その部屋を見てだ。希望は言った。
「下駄箱とかは」
「ないよ」
「そうか。洋館だからか」
 洋館は下駄箱がなく土足である。このことを思い出した希望だった。
「それでなんだ。部屋がいきなりあるのも」
「千春の家はそうだよ」
「そうだね。じゃあ千春ちゃんはいつもこのお部屋にいるの?」
「いる時もあるけれど普段はね」
「普段は?」
「自分のお部屋にいるの」
 そこにだというのだ。
「普段はね。ここから色々なお部屋に行けるから」
 見ればこの大広間の左右にそれぞれ褐色の扉がある。そしてだ。
 部屋の奥には階段がある。天井はシャングリラがあるが吹き抜けではない。
 その天井も見て奥に廊下があるのも見てだった。
 希望はだ。千春に尋ねた。
「廊下の先にはどんなお部屋があるのかな」
「食堂とね。それにね」
「それに?」
「右の廊下が食堂で」
 見れば廊下は二つあった。大広間から見てそれぞれだ。
 一つずつ左右にある。千春はそのうちの右の方についてまず言ったのだ。
 そして左はどうかとだ。千春はそこのことも話した。
「左がお風呂になってるの」
「お風呂もあるんだ」
「そうだよ。とても広くて奇麗なお風呂がね」
 それがあるというのだ。
「おトイレも別にあるし。一階と二階ね」
 千春はトイレ、家に必ず必要なそこのことも話してきた。
「二つずつあるからね」
「二つずつなんだ」
「だって。家族は千春だけじゃないから」
 それでだというのだ。
「だから四つあるんだよ」
「成程ね。それでご家族の人は」
「呼ぶけれどいいかな」
「お父さんやお母さんがいるんだ」
「いないよ」
 しかしだった。両親の存在はだ。
 千春はあっさりと。何でもないといった感じで否定した。それでだ。
 希望にだ。こう言ったのである。
「お父さんにお母さんよね」
「ご両親はいないんだ」
「千春にはいないよ」
「何でいないの?」
「千春は千春だから」
 またしてもだ。希望にはわからない言葉だった。それで彼は今回も怪訝な顔になって首を右に捻った。だがここでだ。千春はその彼に言ってきたのだった。
「それじゃあ呼ぶね」
「ご家族の人をだね」
「うん。呼ぶね」
 こう希望に言ってだ。すぐにだった。
 白い百合の花の形の鈴を懐から出してだ。それをだった。
 鳴らすとすぐにだ。メイドが数人、それに使用人も数人と執事が一人だ。
 希望と千春の前に来てだ。畏まって挨拶をしてきた。
「御帰りなさいませお嬢様」
「今お帰りですね」
「うん、そうだよ」
 無邪気な笑顔でだ。千春は執事やメイド達に応える。そしてだ。
 そのうえでだ。彼女は左手で隣にいる希望を指し示して言った。
「それでね」
「遠井希望様ですね」
「その方が」
「そうだよ。希望だよ」
 満面の笑みでだ。千春は希望のことを彼等に話す。 
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