| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

歪んだ世界の中で

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五話 少しずつその六

「だからだと。自分で思うんだ」
「そうなのね。千春と一緒にいたら」
「僕も幸せだよ」
 また言った希望だった。
「一人で観る映画館は面白いけれどそれだけだから」
「それだけなの」
「そう、それだけだったんだ」
 過去形の言葉でだ。希望は千春に話した。
「ずっとね。けれど今は違うから」
「千春と一緒にいるから幸せなの」
「遠井君といたらまた違ったんだ」
「その遠井君といたらどうだったの?」
「楽しかったよ」
 幸せではなくだ。その感情と共にいられたというのだ。
「二人だとそうだったんだ」
「それで千春と一緒にいたら幸せなの」
「楽しいのと幸せって違うのね」
「そうみたいだよ。千春ちゃんと一緒にいてわかったんだ」
 彼女の顔をちらりとだ。顔を向けて見た。
 そしてそれからだ。また言ったのだった。
「楽しいのと幸せは違うって」
「どっちがいいの?楽しいのと幸せなのは」
「どっちとも言えないかな」
 少し考えてからだった。希望はこう答えた。
「それはね」
「そうなの」
「けれど僕は今は幸せだよ」
 それを噛み締めているというのだった。深く。
「本当にね。じゃあそろそろはじまるけれど」
「うん、二人で幸せにね」
「観よう」
 微笑んで千春に言った希望だった。そのうえでだ。
 映画がはじまりその最初から最後までだった。二人で観てだ。幸せを感じたのだった。
 そしてそれからだ。映画が終わってからだ。
 既にポップコーンもコーラも食べ終え飲み終えていた。それからだ。
 立ち上がりながら千春にだ。こう言ったのだった。
「満足してる?」
「千春が?」
「うん、最後まで観て」
「幸せになれたの」
 千春はまだ席に座っている。そうしながらだ。
 隣にいて立ち上がっている希望を見上げてだ。こう言ったのだった。
「とてもね」
「千春ちゃんもなんだ」
「そう、そしてそれは今もなの」
「映画が終わってもなんだ」
「そう、今もね」 
 千春はこう答えた。それからだった。
 希望に対してだ。自分が感じていることと同じことを尋ねたのである。
「それは希望も?」
「そうだね。僕もね」
 そうだとだ。希望は笑顔で千春に答えられた。
「今も幸せだよ」
「映画が終わっても二人なら」
「そうよね。幸せだよね」
「不思議だね」
 そのだ。幸せを感じていることがだと。またこの言葉を出したのだった。そんな話をしながらだ。千春も席を立ちだ。二人で映画館の出口に向かう。その間も話をするのだった。
「こんな感情を抱けるなんてね」
「じゃあね。幸せなままね」
「うん、映画館を出よう」
 こう話してだった。二人でだった。
 彼等はだ。映画館を出てだ。そうしてだった。
 千春がだ。こう希望に言ってきたのだった。
「幸せはね。これで終わりじゃないよね」
「そうだね。まだ幸せだよね」
「幸せって続くから」
「僕幸せはすぐに終わると思ってたんだ」
 これもだ。今までの考えである。
「それで辛いことばかりだって思ってたんだ」
「やっぱり。周りがそうだから」
「うん、そうだったんだ」
 どうしてもだった。失恋してからのことを思い出してだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧