歪んだ世界の中で
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五話 少しずつその二
希望はだ。席に向かい合って座って食べていた千春にだ。申し訳なさそうに言った。
「御免、ちょっとね」
「何処か行くの?」
「うん、ちょっとね」
トイレに行くとは恥ずかしくて言えなくてだ。こう言い繕ったのである。
「すぐに戻るから」
「うん、じゃあね」
千春も察しているのか多くは言わない。そうしてだった。
希望は席を立ちそのうえでだ。トイレに向かった。それはすぐに済んだ。
そしてそれから二人がいた席に戻った。しかしその席で彼は見た。
見れば席に座ったままの千春にだ。何人かの希望よりもずっと容姿の優れた男達がだ。彼女を囲んでだ。
そのうえでだ。こう千春に言ってきていたのだ。
「なあ、いいだろちょっとな」
「これからな。俺達とな」
「楽しい時間を過ごそうよ」
所謂ナンパだった。千春にそれを仕掛けてきていた。
希望はそれを見てだ。まずは寂しく笑ったのだった。そしてだ。
その寂しい笑顔でだ。こう呟いたのだった。
「やっぱり。僕なんかじゃあの娘と。
千春とは釣り合わない、こう思ってだった。
千春と彼等のところに行くことなくだ。諦めた顔で顛末を見ることにした。
彼等は千春にだ。さらに誘いをかけてきていた。
「それでどう?」
「一緒に泳がない?」
「それとも何か飲む?」
「それかプール出て遊びに行く?」
かなり露骨な誘いもあった。それは希望をさらに絶望に追いやるものだった。
彼は確信していた。千春が彼等の乗りに乗るとだ。自分に魅力がなくて乗り換えると思っていた。そう確信してだ。ことの顛末を見ていたのである。絶望と共に。
しかしだった。千春はだ。その彼等に言ったのだった。
「ううん、千春何処にも行かないよ」
「えっ、駄目なの?」
「じゃあ泳がないのかい?」
「飲むこともかよ」
「だって希望がいるから」
それでだとだ。千春は彼等に言ったのである。席に座ったままで周りにいる彼等にだ。
「だから千春行かないよ」
「ええと、希望って?」
「ひょっとして彼氏?」
「彼氏と一緒だったんだ」
「希望は千春の大切な人だから」
希望は今そこにいないが。それでも言った言葉だった。
「だからね。絶対にね」
「何だよ、彼氏と一緒かよ」
「じゃあしょうがないな」
「ああ、この娘はな」
彼等もだ。千春に言われてだった。
仕方ないといった残念な笑顔になってだ。そうしてだった。
その千春にだ。諦めた顔で告げたのだった。
「じゃあいいよ、彼氏一緒ならな」
「俺達も無理強いとかそういう手を出すとかしないしさ」
「あくまでお互いに気楽にだからさ」
「それならいいから」
こう言ってなのだった。実際にだ。
千春に別れを告げてその場から去ったのだった。こうしてだ。
千春は一人になった。それを見届けてだ。
希望はほっとする以上にあだ、喜びを感じていた。千春を見たからだ。
そのうえで彼女のところに戻ってだ。そうして言ったのだった。
「有り難う」
「有り難うって?」
「あっ、うん。ちょっとね」
「さっきのこと見てたの?」
自分の向かい側にまた座った希望にだ。千春の方から言って来た。
「千春のこと」
「うん、見るつもりはなかったけれど」
「いつもだよ。ただね」
「ただ?」
「千春は希望だけだから」
それでだとだ。千春は笑顔で希望に告げたのだった。
ページ上へ戻る