名前とは反対の犬
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第二章
義男とちえみは秀吉を飼いはじめた、そうして夫婦で彼の散歩をした数ヶ月後に。ちえみは夫に笑顔で言えた。
「本当にね」
「妊娠したのか」
「そうなったわ」
「前田さんの言ったことは本当だったんだな」
今は老人ホームに入っている彼女のことを思って話した、家はもう売りに出されて買い手が見付かったと聞いている。
「そうなんだな」
「そうみたいね」
「いや、賢くで優しい子でな」
一緒に暮らしていてこのことはよくわかった。
「しかも子供まで授けてくれるなんてな」
「秀吉はいい子よね」
「本当にそうだな」
夫婦で笑顔で話した、程なく二人の間に健康な男の子が生まれて和正と名付けた。そして秀吉と四人であらためて楽しい暮らしを満喫していた。
この話を二人は特にしなかった、だが。
近所に住んでいる土地にマンションや店を持っていて羽振りのいい水橋さんの奥さんであるマミ、黒髪をセミロングにしていて目は少し暗い感じで背は一五〇位でスタイルはすらりとしている彼女がちえみに対して彼女の家を訪問して言ってきた。
「あの、お宅のワンちゃんだけれど」
「秀吉ですか?」
「聞いたけれど夫婦でお散歩に連れて行ったら子供が出来るのよね」
「そのお話何処から聞いたんですか?」
「前田さんの一番上のお孫さんの奥さん私の高校の同級生で」
それでというのだ。
「その娘からね」
「聞いたんですか」
「今もラインでやり取りしていて」
「そうだったんですか」
「あの、実は私もね」
マミはちえみに暗い目で話した、目は暗い感じだが顔立ちは整っていて人相も悪くない。喋り方も明るい方だ。
「結婚して十年でまだ、だから」
「それで、ですか」
「うちの人も欲しいと思っていてね」
「水橋さんもなんですね」
「だからね」
それでというのだ。
「お願い出来るかしら」
「はい、よかったら」
ちえみはマミの申し出に笑顔で応えた。
「お時間のある時にどうぞ」
「そうしてみるわね。妊活は調べて何でもやってみたのに」
それでもとだ、マミはちえみに話した。
「どうしてもね」
「出来なかったからですか」
「私も必死で」
それでというのだ。
「うちの人もで、じゃあね」
「はい、今度」
「うちの人と秀吉ちゃんお散歩に連れて行くわね」
こう話してだった、実際にだった。
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