醜悪な一族

　　　　　　　　　　　　　　　　醜悪な一族
　この時河野なつみ、中学二年生であり小柄だが大きな黒い目は澄んでいて色白で穏やかな面長の顔で小さなピンクの唇で黒髪をおかっぱにしている彼女は一緒にいる父の徳治に言った。
「ねえ、もうね」
「ああ、帰りたいんだな」
「何この雰囲気」　
　なつみは自分の目の前にいる人達を見てその穏やかな顔を曇らせた。
「叔父さん達も叔母さん達も」
「金とか土地の話ばかりだな」　
　徳治も言った、細面で眼鏡をかけており黒髪をオールバックにしている。一七〇程の背で痩せた身体を喪服で包んでいる。それは隣にいる妻の美波きりっとした目鼻だちで眉もしっかりとしていて背は一五五程で黒髪を奇麗にセットしている彼女も同じだ。
「遺産がどうとかでな」
「そうよね、恵大叔母さんの」
「あの人とご主人は大きな土地を持っていてな」
「遺産あったのよね」
「ああ、土地を貸してお店を経営させたりマンションとかも持っていてな」
「駐車場もあって」
「息子さんと娘さんは海外移住をしてな」
「それでよね」
「もう日本にいないしあっちに完全に入っていてな」
　暮らしの拠点をそこに置いてというのだ。
「財産権も放棄しているんだ」
「そうなの」
「だからな」
「大叔母さんがなくなって」
「この人達でな」
「遺産をどうしようってなってるのね」
「そうなんだよ」
　娘に忌々し気に話した。
「お通夜もまだなのにな」
「お通夜これからなのに」
「全く、元から欲の深い人達だったが」
　父はこれ以上はないまでに苦い顔で言った。
「今はな」
「特になのね」
「酷いな、お金はな」
　銀行員である父はこうも言った。
「人間を一番醜くさせるな」
「そうね」
　妻も苦い顔で言った。
「今見てそれがわかるわ」
「こうした人達は見てきたがな」
　銀行員である父は尚更だった。
「しかし今回は特別だな」
「そうよね」
　妻も頷いた、女性的だが端正な声で。
「そこまで欲しいのかしら」
「ああ、しかもな」　
　ここでだ、父は。
　家の庭にいる犬、ゴールデンレッドリバーを見て言った。
「あの犬だがな」
「ブンコね」
　娘がその名前を言った。
「女の子なのよね、凄く人懐っこくてね」
「お前よくあの娘と遊んでるな」
「ええ」
　父にそうだと答えた。
「大叔母さんのお家に遊びに来た時はね」
「そうだな」
「そう、だからね」　
　それでというのだ。
「私あの娘大好きよ」
「そうだな」
「けれど大叔母さん亡くなったから」
　娘は自分達の方を見ているブンコを見た、何を話しているのかと興味がある様だ。
「ブンコどうなるの？」
「どうなるだろうな」　
　父もそれはわからなかった、そしてだった。
　お通夜もお葬式も終わってもだった、親戚の誰もが本格的に遺産の話をした、その中でふとだった。
　徳治の従兄である米介、細目で下卑た感じの笑顔を讃えた黒髪を短くした見るからに卑しい顔立ちの男がふとブンコを見て言った。職業は総会屋であり非常に評判が悪い。