幻の月は空に輝く
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お弁当を持って会いに行こう
お母さんに協力してもらってのお弁当作り。おむすび4つ。たこさんウィンナーにアスパラのベーコン巻き。たまご焼きにからあげミニトマト。
豪勢な感じのお弁当をリュックにいれて、私は小さな手足を動かして歩き出す。首元まですっぽりと隠れる蒼と白と黒の服。勿論長袖長ズボン。銀色の長い髪は後ろで無造作に一つに縛っているけど、それを縛ってるゴムと特殊仕様。
「ふぁ。いい天気」
空を仰げば晴天。
ちなみに、お弁当は持ってるけどピクニックじゃない。今日はナルトの所に行こうかと思って気合をいれてみたのだ。
天華は私の左肩にとまってキョロキョロと辺りを見回してた。お父さんから私に近付く害虫を退治してくれ、なんて言われてたけど…。
「テン。お父さんの言う事は真に受けなくていいからね」
《む?》
「害虫駆除って…害虫はいないからね。それに俺でも対処出来るし」
《むぅ。そうなのか?》
「そうなのですよ。どんだけ親馬鹿って話しになるから」
《……そうなのか》
真面目な口調の天華に、思わず苦笑を漏らしながら歩いてく。赤ん坊の頃からずっとこうして2人でいるから、天華といるのは当たり前だし息をするのと同じぐらい自然な事になってる。
だから、初めての事でも天華と一緒なら不安もない。
「こっちだっけ?」
漫画の中でナルトの家を見た事はあるけど、実際里を歩くとよくわからないんだよね。
《ふむ。どうやら家にはおらぬようだ》
「何処かわかる?」
《こちらだ》
「へぇ…」
道を逸れて、少し山の方に行くみたい。修行なのかな。そんな軽い気持ちで山の方へと進路を変えて……歩きにくい。
仕方ないから枝に飛び移って、枝から枝へと移動する。
あれ? 結構山奥。
本当に山奥。
ドンドンと奥に進む事に不安を覚えて天華を見てみるけど、どうやらもっと奥みたい。
「スピードあげるよ」
距離がありそうだと、私はチャクラを纏わせスピードをあげた。瞬身、といってもいいと思うんだけど、それだとちょっとスピードが遅いかな。
まだまだだなぁ、なんて呟く私に、天華が突然肩から飛び立つ。おや?
《ラン》
「ん?」
一回枝を蹴り、くるりと回って勢いを殺した後、蹴った枝へと着地する。気配を消しながら辺りを伺うと、気配を垂れ流した人間が一人二人三人四人…結構多いな。
「何だ?」
幹に身体を隠すようにして様子を伺えば、忙しなく動く影。
「……」
怪訝そうな表情を浮かべながらも更に様子を伺う。何かがおかしい。
《ラン。ナルトだ》
「は?」
思わず間抜けな声を漏らしたけど、見えるのは大人だけ。
けれど目を凝らしてみれば、ちらちらと金色が視界を掠めた。一瞬呆けたらしい。自分の中では在りえないと思っていただけに、状況把握に数秒要した。
忍の世界を生きる予定の身としては、この数秒は命取り。だけど、それぐらい私の目には信じられない光景が飛び込んできている。
忙しなく動く大人たち。見慣れない動きだなと思ったけど、その感想は当たり前。さっきから私よりも小さい子供を囲んで蹴る為に足を動かしているのだ。
「──ッ。何だあれ。何をやってるんだ、子供に!」
あれがいい年した大人のする事かッ!?
口々に、キツネが、とか。人殺し、とか。死ね、とか。とても子供に聞かせられる内容じゃない事を叫びながら、動かない子供に暴行を続ける。
「テン。変化だ」
《うむ。それと転写の術だろう?》
「うん」
印を組み、暗部の忍姿になる。面は今の天華をイメージして鳥の面。
準備を終えた私は、更に印を組み風を巻き起こした。
「なっ、なんだぁ?」
「このキツネがなにかしたんじゃ!?」
「化け物がっっ!!」
明らかに別の場所から吹いた風なのに、何故か口々にナルトの所為だと叫ぶ男たち。
一人の男が恐怖に顔を引き攣らせたまま、右足を持ち上げ勢いよく小さな身体を蹴り上げようとした。馬鹿じゃないだろうか。私がいるのに、そんな事させるわけがないだろうと遠慮なく針を投げつけた。
脅しなんかじゃない。勿論、貫通させる為だ。
男の足を貫通してもまだ余裕がある長針。
突如身に起こった痛みに、男は足を押さえつけ転げまわる。
「ぅああああああああ」
「なんだ! 何が起こった!?」
毒を塗ってないだけ有り難いと思えと思ってしまう思考回路には一時蓋をしながら、こういう集団をパニックに落とすのは容易いなぁ、なんて冷静に考える。
けれど更に追い討ちをかけるように、転写の術を発動させた。デジカメの術バージョンって所かな。紙に景色を写しこむんだけど、今写したのは勿論暴行現場だ。
それを空から放り投げ、なんて可愛い事はしない。紙にチャクラを練りこみ、男たちの顔に叩き付けた。
「ぶあっ」
「ぐっ」
ただの紙。しかしチャクラを練りこめば立派な凶器だ。
顔に叩き付けた時に頬や額を切ったみたいだけど、気にならない。この現場を見て、この程度の事で罪悪感は芽生えない。
しかし、ここまできて漸く第三者の存在を思いついたのか、呻き声をあげながら辺りを見回す男たちに、私は感情を読ませない淡々とした音を降らせた。
「里の禁を破った愚か者」
「「ッ!!」」
顔を押さえつけ、ナルトに対して暴行をしていた男を腕で払いのけ、鳥の面を見せる。
これ見よがしに見せた暗部の鳥面だったけど、どうやらちゃんと誤解してくれたらしい。その証拠に、私の全身を捉えた途端に歪んだ顔を真っ青なものへと変えた。
「なっ。人殺しを庇うのか!?」
「コイツはキツネだろう!!」
けれど、次の瞬間には震えながらも私に対していかにも自分たちが正しいと、そう主張しだす男たちに、面の奥でクク、と笑いを漏らす。
目に冷たい色が宿るが、それも仕方ないだろう。久々に腹がたった。
「封印という役目を負っただけの赤子に罪があると、そういうか?
ならば、お前の腹に封印してやろうか? それとも、お前の孫がいいか?」
口調はあくまでも淡々と、怒りを押し秘めた。
「な…なにを言って…」
「自分たちが正しいと思うならば、火影様にも同じ事を言うんだな。これと、お前たちが何を言ったのか。今の事は全て報告させてもらった」
男たちの顔色が今までにない程かわる。
先ほど叩き付けた紙には男たちの暴行現場というこれ以上ない程の証拠。
嘘だとは思わなかった男たちは、ヒィィと情けない声をあげながら、一目散に逃げ出す。足を長針で貫いた男も痛みを感じないのか逃げたんだけど…。
「針回収」
チャクラの絃をつけといて良かった。
針を抜く時に手に伝わった感触に顔を顰めながら、針を使用済みの場所へと移動する。家に帰ったら熱湯消毒をしよう。思いの他人を傷つけたのに罪悪感がないなぁ、と思ったんだけど、やはりこの現場を見たら仕方ない。
変化の術をといて、私は蹲ってるナルトに駆け寄った。治療道具を持ち歩いてて良かった。竹筒に入ってた水でてぬぐいを濡らし、ナルトの顔を拭こうと腕を伸ばしたけど、瞬間背筋に寒気を感じてその場から距離を取ってしまう。
何だ?
今の寒気は。
首を傾げながらナルトを見る。
まさか…。
まさか……?
《ラン。油断するな。こやつは…》
私の疑惑を肯定するように、天華が羽ばたき、私の肩に止まる。
「……俺は、夜月ランセイ。その物騒なチャクラを収めてくれないか?」
天華の警戒は収まらない。それは、目の前のナルトに注がれている。
けれど、私は天華とは別の意味合いを視線に込め、真っ直ぐにナルトを見つめながら自己紹介。
「……」
私の声に、ナルトは答えない。無言のままだ。
「うずまきナルト。強いんだな。知らなかった」
無反応だったけど、そんなナルトに思わず本音が漏れた。
これは本当に予想外だった。
暴行も予想外だったけど、ナルトが強いっていうのも予想外。
「へぇ…驚かないんだ?」
むくり、と起き上がったナルトは目を細めて俺を見る。
十分驚いてるんだけど、そう見えないかな。どうやら傍目から見ると、私の表情はまったく変わらないらしい。変化も解いてるんだけど、年の功だろうかとちょっと本気で考えてしまう。
しかし、さっきまで受けてた暴行の痕は一切なかった。九尾の力もあるだろうけど、なんとなくそれを意図して使ってるという印象を受ける。
ふむ。どうやらこの辺りの道筋は漫画からは外れてるらしい。
となると策を弄する事は止めておこう。
呆れるぐらい真っ直ぐにいこうと腹を決め、私は改めてナルトを見つめた。
緊張のためか、無意識に呼吸が早くなる。
「ちょっと驚いた。けど…さ。俺がお前と友達になりに来たって言ったら……信じるか?」
「……」
真正面からいってみた。
いや。うん。どうしよう。腹は決めたはずなのに、その何言ってんだコイツ?なんて沈黙がものすっごく辛いんだけど。
しょうがないからリュックから弁当を広げて、ナルトの分も用意してみた。ある意味気まずすぎての現実逃避も含まれているんだろうなぁ、と思うけど、更にナルトの呆れたような視線が突き刺さって、肩を竦めることしか出来ない。
「これ、一緒に食べようと思って。っつーわけで、気が向いたら食って」
気まずさを誤魔化すように、ぱくぱくとからあげや卵焼きを口へと放り投げる。うん、美味しい。
「アンタさ……俺が食べると思ってんの?」
呆れた声に呆れた顔のナルト。原作通りだったら食べると思ってたよ。
「ううん。警戒されてるから難しいかなぁって思ってる。まぁ、無理やり友達になっても仕方ないし、無理なら諦める」
ちなみに、これは私の本音だったりする。
私の肩にとまっている天華が物言いたげにナルトを見てたわけだけど。
「その肩の鳥は?」
「友達になってくれたら教える」
一歩分近付いてきたナルトの言葉を一刀両断してみる。私の事なら答えるけど、天華の事になるとすぐに答えたくは無い。
話す気ではいるけどね。
「……俺と友達になりたいんだよな?」
私が答えなかった事が意外だったのか、声音が怪訝そうなものへと変わる。
「友達ってのは対等な関係だよな? 一方的ってのはありえない」
ナルトの変化には突っ込まず、お弁当をぱくぱく。うん。おむすびも美味い。
「……お前、友達いないだろ?」
というか、呆れ、怪訝ときた次の言葉がそれ?
「いないけど困ってない。っつーか、五歳児の会話じゃないな」
五歳児が顔をつき合わせて友達いないだろってどんな会話だ?
そう思ってたんだけど、ナルトにとってみたら私の年齢の方が意外だったらしい。
「俺と同じ年?」
同じ年に驚いたのか、ナルトの表情が崩れた。
「俺の方が五ヶ月程早い。で、お茶」
怪我は治っても血の味はするだろうと、私は駄目もとでお茶を差し出す。私とお茶を交互に見てたナルトだけど、何の心境の変化か受け取り、それをいっきに飲み干した。
「美味い」
「だろ。ほら、おにぎりも美味いよ」
お茶を飲んでくれたのをいい事に、ここぞとばかりにおにぎりとおかずを盛り付けた皿を差し出す。
「ふぅん」
恐る恐ると差し出した私の手から皿を受け取り、ぱくぱくと食べ出すナルト。おぉ。なんかいい雰囲気。
にへら、と笑った私をナルトが呆れた目で見てたんだけど、友達への第一歩を歩め出したような気がする今の私は、それすらも嬉しくなって笑みを浮かべてしまう。
まぁ…スレナルだったのは予想外過ぎたけどねー…。
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