Fate/WizarDragonknight
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今日よりも悪くなる明日
友奈の背後に、巨大な装置が取り付けられる。
桃色のそれは、両側に巨大な腕が装備されており、全てを砕く剛腕となっていた。
最後に右耳にパーツが追加で装備され、変身完了。
「行くよ……千翼くん……いや、バーサーカー!」
千翼の名前を押しつぶし、勇者としてではなく、サーヴァント、セイヴァーとしてアマゾン態へ走る。
アマゾン態も吠える。
「友……奈……さん。いや、セイヴァー!」
その六本の腕が、あたかも太鼓のように、高速で友奈を狙う。友奈の合計四本の拳が、それに対応。空気を震わせる音が病院を突き抜ける。
友奈は蹴りで、アマゾン態の動きを鈍らせる。さらにジャンプして反転。
「はっ!」
友奈が拳を振ると、巨大な剛腕がアマゾン態へ振るわれる。巌さえも打ち砕く威力のそれだが、アマゾン態に命中することはなかった。
むしろアマゾン態は六本の剛腕を駆使し、白い神の腕に飛び乗る。そのままアマゾン態は右三本の腕を伸ばし、そこから触手を発射する。
「っ!」
友奈はそれを剛腕でガード。無事な左手で、アマゾン態をはたきおとす。
「俺は……俺は……!」
吹き抜けの病院を自在に跳びまわるアマゾン態。時折触手を放ち攻撃してくるが、満開により立体的な動きを駆使すれば、回避可能なものだった。
だが、ずっとアマゾン態は逃げていたわけではない。
突如として止まり、友奈に向かって反発ジャンプ。
「セイヴァーあああああああ!」
「っ……うおおおおおおおおお!」
合計六本の拳に対し、友奈も声を荒げる。
「満開! 勇者パアアアアアアアアンチ!」
空間に桜の花が咲く。友奈の超火力とアマゾン態の一撃が、病院全体を揺らし、二人はそのまま近くのフロアの廊下に投げ出された。
「うっ……」
「ぐっ……」
変身解除。生身に戻った友奈は、慌ててスマホを取る。だが。
「うっ……!」
全身の痛みに、スマホを取り落とす。
だが、重要な変身アイテムを拾うよりも先に、自らの全身に触れ回る。
どこかに異常はないか。触覚の正常を確認した後は、壁を叩く。
コンコン。コンコン。
「……!」
コンコン。コンコン。
その床をたたく物音に、何やら不自然さを感じた。
「……」
数回床を叩いた友奈は、理解した。
「今回は耳か……」
右耳をさすった友奈は、すぐに千翼の姿を探して廊下を走り出す。すでに平衡感覚を失うほどのダメージで、まっすぐ走れない。だが。
「いた!」
友奈と同じように、生身の千翼が床に倒れていた。
「友奈さん……」
ネオアマゾンドライバーを付けたまま、千翼は友奈を見あげていた。
「……今」
千翼は、顔をくしゃくしゃにして、友奈を見上げる。
「今……」
「ど、どうしたの?」
「今……姉ちゃんが……姉ちゃんの令呪が……消えた……」
千翼は四つん這いになり、顔を落とした。
友奈は無言で、じっと千翼を見つめていた。相変わらず警報はなり続けているが、もう警報に従うことはできない。
千翼はやがて、首を振りながら友奈に背中を向ける。
「ま、待って!」
友奈は彼の後を追いかける。千翼はどんどん上の階へ階段を伝っていき、やがて最上階の廊下に差し掛かった。
「待って!」
彼が廊下の奥へ走ろうとしていたが、そこにはすでに先客がいた。
「ん?」
水色のダウンジャケットをズタズタにされた状態の青年。城戸真司。ライダーのサーヴァントは、振り向いたと同時に驚きの表情を見せた。
「あ、アンタはさっきの……!」
「ライダーっ!」
千翼は真司を認めると同時に逃げ出す。友奈の肩を突き飛ばし、そのまま上の階へ逃げていった。
「待って! 千翼くん!」
「友奈ちゃん!? ちょっと待って!」
友奈に続いて、真司も彼を追いかける。
その間、このフロアの一室に、ハルトがいることに誰も気づかない。
雨はどんどん強くなってきた。
千翼に続いて屋上に着いた友奈は、室内との温度差に驚く。
「はあ……」
白い息を吐きながら、友奈と真司はともに逃げ場のない屋上にたどり着いた。
「千翼くん……?」
さっきまで必死に逃げ回っていた彼が、今は屋上の真ん中で棒立ちしていた。
彼の目線の先。アマゾンによって混乱する見滝原を一望できるその屋上に、この事態の発端がいた。
「あれって、フラダリ院長?」
真司の言葉に、友奈は理解した。
フラダリ・カロス。この病院の院長にして、アマゾンの暴走の宣言を行った人物。
灼熱の太陽を擬人化したような人物である彼は、たとえ雨の中であっても煌々とした輝きを放っているように思えた。
フラダリは静かに千翼を、そして屋上入口の友奈、真司へ視線を流す。
「院長……」
千翼の声に、フラダリは少しだけ彼を見下ろした。
「来たか千翼」
その声には、喜びも怒りも、いかなる感情も読み取れなかった。
「どうだ? 素晴らしいと思わないか?」
フラダリが指し示す光景に、友奈は目を疑う。
あちらこちらで悲鳴が上がり、雨でも消しきれない火の手も数多く発生している。世界が終わる寸前の光景だった。
「君のアマゾン細胞のおかげで私の計画も完璧だ。これが私の求めていた平和なのだよ」
「平和?」
「そう。これで、身勝手な人類は駆逐される。生き残った者たちは全て、この私が管理する。これで私が思い描く、平和が実現される! 千翼。君のおかげだよ」
「え?」
千翼が目を白黒させている。その横を、真司が走っていった。
「待ってくれ、フラダリさん! これが平和って、いったい何を言っているんだ?」
千翼の前に立ちはだかるように、真司が割り込む。
「君は……いつか取材したがっていた記者だね? どうやってここまでこれた? この病院には、無数のアマゾンがいたはずだが。……まあ、問題ない」
フラダリは新たな傍聴者の存在を認め、まるでホワイトボードを差すように、この地獄となった見滝原を指し示す。
「見たまえ。見苦しいものがどんどん消えていく。美しいではないか」
そこには、アマゾンたちの大暴れの様子が見えた。米粒のような大きさに見えるアマゾンが、より小さな人間たちを捕食しようと襲い掛かる。警察も、何もかもが無力。
時折見える顔見知りのみが、アマゾンに対抗する有効打となっていた。
「千翼。君から生まれたアマゾンたちが、私の怒りを代弁してくれているんだ」
「こんな、人を傷つけて、街を壊していくのが、お前の言う平和なのか!? お前、医者なんだから、人を守るのが仕事だろ!」
「ああ。守るのは……」
真司の怒声に対し、フラダリは静かに、そしてハッキリと告げた。
「選ばれたもののみだ」
「選ばれたって……」
友奈も口を挟まずにはいられない。
「選ばれたものって、何ですか? アマゾンにさせられた人だけなんですか?」
「そうだ」
「それじゃあ、今いる人たちは? 何も知らない、それぞれ必死に生きている人たちだっているんですよ?」
「……」
途端に、フラダリの目つきが変わった。彼の目は、人に対してする目ではない。使えない、道具に対する落胆の眼差しのようにも感じた。
「クトリから、君たちのおおよそのことは聞いている」
「……え?」
「君たちは、異世界で死んだ英雄。聖杯戦争と呼ばれる得体のしれない儀式によりこの世界に呼ばれた死者。そうだろう?」
「だったら何だっていうんだ?」
真司が噛みつく。
だが、フラダリは変わらぬ真っすぐな目で、二人を見据えていた。
「聖杯の亡霊たちよ。この世界で君たちは一体何を守るのだ? 今日よりも悪くなる明日か?」
「今日よりも悪くなる……」
「明日……」
「だが、聖杯は私にも恵を与えた。クトリという少女を媒体に、千翼という無限の可能性を与えた。その細胞を調べたとき私は驚いたよ。細胞単位で人肉を欲する生命体、アマゾンの存在に」
「違う……!」
真司の後ろから、千翼が訴える。
「俺は……俺は……!」
「本当に違うのかね? 君は今までも、人間を食べたいと思っていなかったのか? 君の細胞を受けてアマゾンとなった人々が、あれだけ旺盛に人を捕食しているのに、君は違うと?」
「それは……それは……」
千翼が否定しているとき、友奈は思い出していた。
以前、まだ千翼の体が今よりも小さいとき。ずっと自分の腕を抱き寄せていた。ただの子供の甘えだと思っていたが、あれは彼が文字通り、人肌を求めていたのではないか。
「千翼。君が与えてくれた細胞は、世界を破壊するのにとても役に立っている。見てみろ。この世界に明日は来ない。雨が止めば新しい世界になっているのだ。終わるというのはこんなにも美しい。まさに平和への第一歩だ」
「狂ってる……!」
真司が毒づく。
「千翼」
さらにフラダリは、千翼へ手を伸ばす。
「君はこの世界で生きることはできない。なぜだかわかるか?」
「やっぱり、俺は生きられない……?」
「そう。人間を食らうことは悪とされる。それはなぜか。この世界は、人間が作ったルールに支配されているからだ」
「……!」
「醜い人間……分け合えず、分かり合えず。何も生み出さない輩が、明日を食いつぶしていく……。このままでは、醜い人間たちによって、世界の全てが行き詰まる。全ての命は救えない。選ばれた人のみが、明日への切符を手に入れる。千翼! そして異世界の英雄たちよ!」
雨の中であろうともよく響く声で、フラダリは言った。
「君たちは、選ばれた側の人間だ。アマゾンとなった世界で、私が支配する世界で、生き延びることもできる!」
「……やめてよ」
友奈は首を振った。
「限られた人だけしか明日を生きられないなんて言わないでよ! 住んでる世界の誰にでも、明日を生きる権利はあるはずだよ! それを……それを誰かが奪っていいわけがない!」
「ならば少女よ。君はこの醜い世界を変えることができるというのか? 違う者を受け入れられず、少ないものを分け合えないこの世界を!」
「分からない。もしかしたら、貴方が言う通り、それが人間で、不可能なのかもしれない。でも……」
友奈は胸に手を当てる。
「それでも生きていくのが人間だよ! この世界は、フラダリさんだってまだ知らない可能性がある! アマゾンなんて、他の世界のものじゃなくても、きっと……! それを探し続けていかないといけないんだよ!」
「……君は甘すぎる。そんなことは、私とて当の昔に考えた! その可能性を探し、世界中を回り、まだ見ぬ数多くの可能性にあたってきた」
フラダリの体が、不自然な発熱を帯びた。それは雨を蒸発させ、濡れた髪を一気に乾かしていく。
「何も知らぬ小娘よ。残念だが。私が築き上げる世界に、君は不要だ」
そういいながら、フラダリは白衣の下から何かを取り出した。
黒い、帯のようなものが付随する装置。左右対称なグリップが備え付けられているそれは、中心にまるで赤い目がついているようだった。
「必要とか不要とか、そんなこと、他の誰かが決めることじゃない!」
今度は真司も主張する。それはどうやらフラダリの琴線に触れたようで、彼の眼差しがライダーのサーヴァントも突き刺す。
そして。
「仕方ない」
それを腰に装着。機械より、不気味な起動音が流れた。
「私の手で、君を排除する」
グリップ部分を握る。
千翼の腰にある機械の試作品。アマゾンドライバーたるそれを握ると、『フレア』という音声がした。
やがて、目の形をした部分が紅蓮に発光。フラダリの全身に、黒い血管___間違いなくアマゾン細胞___が流れていく。
「アマゾン」
静かに。だがはっきりと。
灼熱の炎により、フラダリの体が包まれていく。
雨水を、そして天の雨雲を蒸発させるそれは、他のどの世界にもない、まったく新しい戦士の誕生の産声だった。
それは、別世界におけるアマゾンシグマにもよく似ていた。だが、その体色は、暗い今よく目立つ赤。そして、その爬虫類のような顔には、ライオンのような鬣が生えている。
「今名付けよう……この戦士の名前を」
フラダリだった存在は、自らの体を見下ろしながら宣言した。
「アマゾンフレア。この世界を平和に導く者の名前だ」
アマゾンネオとほとんど近いポーズで、臨戦態勢を示すアマゾンフレア。
友奈は、真司と目を合わせる。
「真司さん。行くよ」
「ああ。死ぬなよ。友奈ちゃん」
真司はその言葉とともに、カードデッキを掲げる。すると、どこから飛んできたのか、銀のベルトが彼の腰に装着された。
「千翼くん。下がってて」
友奈は、千翼を背中に回す。
「友奈さん?」
「私は、本当は人とは戦いたくない。聖杯戦争だって、誰かと戦いたくない。でも、フラダリさんは……この人だけは、戦わなくちゃいけないと思う」
警報はずっと鳴り響いている。樹海化の時と同じ危機だと、友奈も感じていた。
「だから……行くよ、真司さん!」
「ああ!」
真司が右腕を斜めに伸ばすと同時に、二人は叫んだ。
「「変身!」」
どんどん雨が強くなる。
仮面契約者と勇者は、平和に同時に駆け出した。
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