ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜
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SAO編ーアインクラッド編ー
03.消えた希望
前書き
第3話投稿!!!
シュウを襲う悲劇!!!
二〇二三年五月三日 第十五層・トラム
「我ら、《希望》と助けてくれたシュウさんにカンパイ!!!」
「「「「カンパイィィィ!!!」」」
「か、カンパイ」
少しの戸惑うが俺も手に持つグラスをぶつけ合う。
「ありがとうございました、シュウさん。危ないところ助けてくださって」
「別に対したことじゃないし、そんなに御礼されても」
俺が歓迎されているのかというとたまたま通りかかった所にモンスターに襲われていた《希望》というギルドを助けたところ御礼がしたいと言われ宴に参加している。
ギルド《希望》は四人で構成されており、ギルドリーダーの片手剣、盾使いのダイキ、後衛を任せられている槍使いのミサキ、前衛援護の短剣使いのハルキ、同じく前衛の片手剣使い、ショウタの四人で構成されたギルドだ。
「つかぬことを伺いするのですが、シュウさんのレベルってどのくらいなんですか?」
「........三〇くらい」
「そうなんですか、一〇レベル違うだけでここまでの差ができるんですね。やっぱ実力の違いですかね」
この笑った顔をみると俺は後ろめたい気持ちになってくる。
(俺は皆に嘘をついている。本当の俺のレベルは.......四十八)
「ねぇ、シュウくん」
黒髪のセミロングにその顔立ちには、少し幼げさが残る同年代くらいの少女が無邪気な表情で俺に近づいてくる。
「私たちのギルドに入らない?」
「急になに言い出すんだよ、ミサキ!」
ギルドリーダーの黒髪の普通の顔立ちの少年、ダイキがミサキを止める。
「だって、強い人がいた方が私たちのギルドの名も上がるじゃん。そうすれば念願の攻略組の仲間入りができるかもしれないんだよ」
「でもな......」
ダイキが悩むような声をだす。その言葉を言い終わる前に俺は口にする。
「俺の入るよ、このギルドに」
これは俺がこのデスゲームの中で唯一心から楽しみ、心を許し、心から人を好きになった、一週間の物語だ。
二〇二三年五月六日 第二十層・巣窟
「ハルキ!!スイッチ!!」
「おう、任せろ!!」
短剣のソードスキルがモンスターを貫き、光の欠片となり消える。
「よっしゃぁ!!レベルアップ!!」
「やったな、ハルキ!」
「良かったね、ハルキ」
「攻略組が第二十八層を突破したみたいだな」
新聞に【攻略組が第二十八層攻略、今回も死者ゼロ】という記事が。
「.......攻略組か」
(今頃、キリトやアスナ、エギルは攻略組で活躍してるんだろうか)
そのことを考えると俺は攻略組の皆にどんな顔をして会えばいいのか........
「どうしたの、シュウ。そんな浮かない顔して?」
「うわぁ!!」
黒髪のセミロングの少女が寝転がる俺の顔を覗き込むよう見てくるので思わず声をあげてしまう。
「シュウってたまにボーッとしてるよね。まぁ、そこが可愛いんだけどね」
ミサキは笑顔で微笑む。
「うるせぇ!ほっとけ!」
「なに怒ってるの?」
ミサキの悪戯するような笑顔はどう対処していいかわからないから少し苦手だ。
「なに、イチャイチャしてるんだよ、お前ら」
ダイキ、ハルキ、ショウタが俺を茶化す。
「イチャイチャしてねぇよ!!」
「うわ、シュウが怒った逃げろみんな」
こんな生活がずっと続くと....続いて欲しいと願っていた。だが、あの日全ては崩れ去った。
二〇二三年五月十日 第二十八層・クラシス
「ついに俺たちもここに来れるようなレベルになったな」
俺たち《希望》はついにこの層......攻略された一つ下の層に行けるまでのレベルになった。
「そういえば、ダイキは?」
そう言われてみれば、ダイキの姿がない。
「みんなぁ、いい情報が手に入ったぞ」
ダイキが少し高めのテンションでこちらにかけてくる。
「どうしたの?」
「いい情報が手に入ったぞ!この街を抜けた先の森にいい狩場があるんだって、そこのモンスター弱いのに経験値がメッチャもらえるって」
「まじか!?」
「それじゃあ、行こうぜ」
(そんな、狩場あるのか?あるなら攻略組が見逃すわけがない)
「ほら、シュウも早くいくよ」
「ちょっと待ってくれ、ダイキ、その情報は誰から聞いたんだ?」
違和感に俺は皆を止める。
「情報屋からだけど.....どうしたんだ?」
「.......いや、何でもない」
今を思えばこの時に抱いた不信感を言うべきだった。でも、この時の俺には、皆に嘘をついているという罪悪感のせいで言い出すことが出来なかった。
二〇二三年五月十日 第二十八層・錯乱の森
「やばいな、何だよこの森、経験値貯め放題じゃんか」
確かにこの森は経験値を貯めるのに適しているといえる。
(情報屋の情報はあってたってことでいいのか?)
でも、俺の心の中のモヤモヤが消えない。これで終わる気がしない。何か裏があるような気がする。
「ねぇ、こっち来てみて!」
ミサキの声のする方に行ってみると、そこには水色の輪が空中に浮いている。まるでゲームのワープエリアみたいな感じの雰囲気だ。
「これって、ワープのあれっぽいよね?」
「確かにそれっぽいな。どうする行ってみるか?」
「やめとけ!!何があるかわからない!!」
思わず大きな声を出してしまう。
「大丈夫だろ、もしもの時は、転移結晶で飛べるんだし」
確かに転移結晶を使えば、危険なエリアなんて基本的にはない。
だが、何だ、このモヤモヤは.......。
「それじゃあ行こうぜ、みんな」
俺たちは次々と水色の輪の中に入って行く。その輪にはいると、俺たちの姿は消え、どこかに飛ばされる。
飛ばされた先は、真っ暗で何も見えない部屋。
「何も見えないな」
辺りを見渡すが何も見えない。
『イヒヒヒヒヒヒ!!!』
何者かの笑い声。
その瞬間、周りに青白い光が灯る。その光の灯り方に俺は見覚えがあった。ここで俺はようやく違和感の正体に気づいた。
目の前にあり得ない光景が.......
「う、嘘だろ」
目の前に現れたのは巨大な人形のような姿、手はダラっと垂れているふざけた人形でこちらをあざ笑う、モンスター。そいつの頭上には、《The Phantom Soul》の文字とその横に五本のHPバー。それが意味するのは紛れもなく俺たちの目の前にいるモンスターがボスであることを表す。
しかも、ここは見たことがない部屋に見たことがないボス。ワープエリアで飛ばされた先はまさか第二十九層。だとしてもそんなトラップ今までなかった。強制ボス部屋転移なんて聞いたことがない。
混乱する思考を必死に堪え、冷静な判断をしようと頭に電流が送られる。
「みんな、転移結晶で早く飛ぶんだ!!」
「わかった、転移、クラシス!......あれ、転移、クラシス!転移できない」
ハルキの声に皆が絶望の色を隠せない。
「結晶無効化エリアか!?」
(こんなトラップ今までは.....そんなことよりも今は)
思考する。そして導き出された答えは、目の前に立たずむファントムソウルに片手剣を構えることだった。
「俺が前に出る。みんなは援護にまわってくれ!!」
皆を見るが怖くて足が動かないようだ。それもそのはず、みんながボスを目にするのはこれが初めてだ。ボスは他のモンスターとは比べものにならないくらいの威圧感を持つ。
「......クッソ」
地を蹴り少し片手剣を突き出し、赤い光を纏う。
片手剣突進二連撃技《クロスレイヴ》
突き出した片手剣の突進を一発相手に当て、続けてシステムアシストで軽くなった体で方向を変え、もう一度相手に向け突進を当てる技。
二連撃は確実にヒット!!
だが、技後硬直で体が動かない隙にファントムソウルは瞬間的に体勢を立て直し、大きな腕を俺の頭上に振り下ろす。
「クッ.....!」
「テヤぁぁぁ!!」
と言う声とともに俺の目の前に閃光が出現し、ファントムソウルの右腕は俺に当たる前に切り落とされる。
「大丈夫、シュウ?」
聞き覚えのある声に前を向くといつもの笑顔でミサキが微笑む。
「シュウにばっかいい格好はさせないぜ。おりゃぁぁ!!」
威勢のいい声とともにダイキの片手剣を担ぎ上げ、片手剣基本突進技《レイジスパイク》を放つ。ファントムソウルは後方に飛ばされる。
ファントムソウルが飛ばされた先にいたハルキとショウタがそれぞれの武器に光をまとわせる。ハルキの短剣連続技《ファッドエッジ》、ショウタの片手剣縦二連撃技《バーチカル・アーク》
二人のスキルは完璧にヒット!!
ファントムソウルのHPバーを削りとる。
「行こ!シュウ、あいつを倒そ!!」
技後硬直が解け、体が動くようになる。
「おう!!」
今一度武器を握りしめ、俺とミサキはファントムソウルへと向かい駆ける。
「みんな!!俺がもう一度前に出る!みんなはそれを援護してくれ」
「「「「おう!!!」」」」
俺は床を思いっきり蹴り上げ、上空へ跳び上がる。そして片手剣を担ぎ上げ、そのまま振り下ろす。
片手剣垂直降下技《デッドフォール》
重力とシステムアシストを受けた片手剣はファントムソウルの左腕に直撃しそのままぶった斬る。
「ミサキ、ダイキ、今だ!!」
「おう!」
「任せて!!」
ダイキの片手剣縦二連撃技《バーチカル・アーク》、ミサキの槍三連撃技《ファランクス》の連続攻撃にファンタムソウルのHPバーは残り、三本。
(これならイケル!!!)
「ハルキ、ショウタ、行くぞ」
「「おう!!」」
技後硬直が解けた瞬間にメニューウインドウを開き、槍へを出現させ、片手剣を背中に戻す。
「行くぞ!!」
短剣連撃技《ファッドエッジ》
片手剣縦二連撃技《バーチカル・アーク》
二人の攻撃がファントムソウルに直撃する。
「いけぇぇ!!」
右手で槍を持ち、後方へと引き右足で踏み込んだ勢いで槍を前へと突き出す。
槍突撃技《ゲイボルグ》
ファントムソウルをもろとも槍は貫く。
『キエェェェェ!!!!』
ものすごい奇声をあげるファントムソウル。
「まだだ!!」
技後硬直が起きる寸前に背中に背負われた片手剣を左手で勢いよく抜き、槍を斜め上空に投げる。刀身をやや下に下げ両手で持ちそのまま滑るように突進。
片手剣突進技《スライドウォール》
刃がファントムソウルを斬り裂く。続けて、《スライドウォール》の技後硬直が起きる前に片手剣を離し、上空へと跳び上がりさっき投げた槍を右手で掴む。槍を右手で構え、上空からファントムソウルの頭上めがけて槍を投げる。
槍投撃技《レイヴァテイン》
「これで終わりだ!!」
槍が直撃するとファントムソウルは、光のカケラとなって消滅する。
「.......たお....したのか」
「倒したんだよな。よっしゃぁ!!」
初めてボスを倒した歓喜で皆が喜ぶ。だが、またしても違和感が俺を襲う。
(何かがおかしい......ボスを倒したのならクリアの文字が浮かぶはず。しかも誰も経験値アップの表示が出ない)
「やったな、シュウ、ミサキ」
ハルキがこちらに向かって飛びついてくる。
「......ミサキ?」
ミサキの様子がおかしい。皆が歓喜にわくなかミサキだけが下を向いて腕をダラーっとさせている。
(まずい!!)
そう俺の直感が告げる。
「ハルキ、来るな!!」
「へ?......グッハッ!!」
ハルキの苦しむ声とともに俺の視界にはミサキの槍がハルキの腹部を突き刺している光景が......
「......み、サキ.....なに....を」
「イヒヒヒヒヒヒ!!!」
下を向いていたミサキが顔をあげるがその表情は、いつもの幼げが残る表情ではなく、眼は赤く染まり、頬には赤色の稲妻のような線が浮かび上がっている。だがその声は確かにミサキの声だ。でも、その笑方はさっきの倒したはずのボス、ファントムソウルの笑方だ。
「イヒヒヒヒヒヒ!!!!」
ミサキ持つ槍が閃光を放ち、ハルキを貫く。
「あ......っ.....あっ!」
声にならない声を吐き出し、ハルキの姿が光の欠片となり、消滅する。
「.......は、ハルキ」
「.......嘘だろ」
ミサキは笑いながら続けてショウタに矛先を向ける。槍の先が光り、一瞬の内にショウタの体を貫き、光の結晶とかし消滅する。
「.........なんで、ミサキが」
「なぁ、シュウ、あれってミサキなのか......ボスなのか?」
ダイキは言葉を今にも失いそうな顔をしている。二人が死に一人がボスに体を乗っ取られた。
(こんな絶望的状況どうすれば........)
ファントムソウルのHPバーが存在せず、ミサキのHPバーしか見えない。つまり、彼女のHPとファントムソウルのHPはリンクしている。
「.....なぁシュウ」
驚きを隠せずにいる俺にダイキの声が響く。
「......お前は絶対にこのゲーム生き残れよ」
「........ダイキ?」
ダイキは片手剣を強く握り、盾を構え、呟くように声を発する。
「なぁ、知ってたか、シュウ。ミサキってああ見えて臆病なんだぜ。夜になると一人で泣いたりしてたんだぜ」
「........ダイキ、なにを?」
何となくわかっている。予想はついている。でも、体が動かない。
「.......後は頼んだよ、シュウ」
ダイキが雄叫びをあげながらミサキに向けて駆ける。
ダイキは仲間に刀を向ける。
........それも眼に涙を浮かべながら。ダイキはミサキの槍を弾き飛ばす。が、ミサキは......いや、ファントムソウルは右手を手刀のようなかたちにしてダイキの体を突き刺す。
「グハッァァァ!!!」
「ダイキ!!!」
ダイキがミサキの体を抱きしめ、動きを封じる。
「......い、ま.....だ。.......俺ごと.....突き.....さ、せ」
「そんなの........」
(俺には、無理だ)
床に落ちる、ミサキの槍を見る。
(俺には無理だ。こんなことなら......)
『逃げるの、シュウ』
頭に直接話しかけてくるように聞こえる聞き覚えのある優しい声が響く。
「.......ミサキ?」
『私はこれ以上、ボスの思い通りにされたくないよ。だからお願い........私を殺して』
「わかったよ、ミサキ、ダイキ」
床に落ちているミサキの槍を拾い上げ右手でそれを持ち構える。
「.......シュ、う......最後、に......たの....みを、聞いて.....くれ....ないか」
かすれるような声でダイキが口を開く。
「おれ.....も、み....サキも.....痛いの......キライ...なん、だ」
「.......わかった」
震える手を必死で堪え、槍を後ろに引き、右足を踏み出すと同時に前へと突き出す。
「うわぁぁぁあっ!!!」
叫びとともに全ての力を込めて槍が...........ダイキとミサキの体へと突き刺した。
二〇二三年五月十一日 第十五層・トラム
あの日、俺は人を殺した。
ボスではなく、人を殺した。
あの時、俺がレベルを偽っていなければ彼らは死なずに済んだ。
俺のせいで彼らは死んだ。
彼らは俺が殺した。
俺が........殺した。
俺が.......殺した。
ピピピ!!
ギフトボックスの表示が浮かび、それを押す。すると六角形の球体が姿を現し、無気力に押す。六角形が光出し空中へと浮かび上がる。
(どうせ、くだらないメッセージだろ)
『よう、シュウ。これを聞く時には久しぶりになるのかな?』
聞き覚えのある男の声。
「......ダイキ」
『多分、これを聞く時には俺たちは死んでると思う。だから、シュウに一人づつメッセージを残そうと思ってな』
「........あいつら」
目に涙がこみ上げてくる。
『まずは俺から、シュウ。お前は優しいやつだ。俺たちが困ってる時に絶対に助けてくれるし、何があっても嫌な顔一つしねぇしな。........うまくまとめれねぇけど、とりあえずこれだけは言っとくぜ......ありがとな。続いて、ハルキにパス』
『それじゃあ、俺の出番か。まぁ、俺からいうことは、特にないからこれだけ言っとくぜ.....サンキュウな、シュウ。後はパス、ショウタ』
『了解!!シュウ、俺にソードスキル教えてくれてありがとな。全然覚えの悪い俺の熟練度をあげてくれてありがとう。守ってくれてありがとう。なんか、お礼言ってばかりだな。でも、最後にもう一回言わせてくれ.......ありがとう。それじゃあ、最後にミサキ』
『はいはい、了解!!』
俺が無意識のうちに絶対に守り、ずっとそばにいたいと思った少女の声が耳に届くと自分では止めれないくらいの涙が溢れ出てくる。
『シュウ、私は死んじゃったと思うけど、シュウは絶対に生き残ってこのゲームを終わらせてね。私たちができなかったこと、シュウはやってのけてると思うけど。知ってるんだよ、私、シュウのレベルが私たちと比べものにならないくらい高いって』
六角形の向こうで《希望》のみんなが騒いでいる。
『もう、みんな落ち着いてって、私の番なんだから。シュウ、私は死んじゃったけど私のことは気にしないで生きてね。......でも、現実世界で会いに来てね。私の名前は、北野美咲。絶対に探しにきてよ、シュウ。........約束だよ。ありがとう。さようなら』
そこで、メッセージは途絶えた。
「........約束だ......美咲」
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