瞳の中の想い
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第六章
その中でだった。ミドリは。
家にある若い青年彼女が通っている大学で知り合った同じ大学の学生を連れて来た、ミドリが言うには付き合う様になって彼と妻に紹介したくて連れて来たとのことだ。
見れば温和そうでしかもいつもミドリを優しい目で見ている、妻はその青年を見て夫にそっと囁いた。
「この人ならね」
「そうだな」
博士は妻のその言葉に頷いた。
「必ずな」
「ミドリを愛してくれて」
「そうしてな」
「大切にしてくれるわ」
「そしてミドリも」
ミドリもだった、見れば。
じっと青年を見ている、瞳の中に彼の姿があることは明らかだった。そして心の中にも。
博士は二人を見て大丈夫だと確信した、そうしてだった。
二人の仲を許した、後に二人は結婚したいと言ったがそのことも許した。そうして。
二人が幸せな家庭を育むのを見つつ星に話した。
「私は正しかったな」
「そうですね、夫婦で幸せに暮らしていますね」
「人間はやはりだ」
「姿形じゃないですね」
「心だ」
これがというのだ。
「心で人間になる」
「彼女は紛れもなく人間ですね」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
「人間として幸せな生活を送っている」
「そうですね」
「いい人と出会えてな」
「結ばれて」
「幸せに過ごしている、二人は互いの命が尽きるまでな」
「一緒にいてですね」
「幸せに暮らす、アンドロイドなぞだ」
つまり身体のことはというのだ。
「やはりな」
「大したことではないですね」
「大事なのは心だ」
あくまでというのだ。
「そうだ、ミドリは彼を家に連れて来た時彼をじっと見ていた」
「じっとですか」
「ずっとな、そこには紛れもなく愛情があった」
「愛情、まさに人間に存在するものですね」
「それがある、やはり人間の心があるとな」
「もう人間ですね」
「そのことが証明された、人間は姿形でなるものではない」
博士は星に確かな声で話した。
「心だ」
「心で、ですね」
「なるものだ、そして心で幸せになるものだ」
博士は星に微笑んで話した、そうして娘の幸せを願いつつ彼女のことをさらに話した。彼女のことを語る博士も幸せの中にあった。父親として人間として。
瞳の中の想い 完
2020・7・15
ページ上へ戻る