| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Fate/WizarDragonknight

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

悲劇の原因

「はあ、はあ……」

 ハルトはその場で膝をついた。震える腕で、サファイアの指輪を拾い上げる。

「指輪が……重い……」

 ホルスターの残骸に嵌めながら、残りはルビーの指輪のみ。

「……」

 息苦しい。全身から流れる血液で体が重たく感じていた。
 周囲に散らばるアマゾンの死骸。一体一体に触れるのに抵抗を感じながら、その裏側にもフレイムウィザードリングを探した。

「……どうしてこんなことに……」

 地面に転がる、無数のアマゾン。病院の服やら、私服やら。そのほとんどが灰となっており、もはやどれがどれだったかなどの判別もできない。
それぞれの共通点はただ一つ。見滝原中央病院の水を飲んだことだけ。
 ハルトは、焼き焦がれ、真っ黒になったウォーターサーバーを睨んだ。あんなものが感染源になるなど、誰が考え付くだろうか。

「あ、あった……」

 最後のウィザードリング。それは、小さなアマゾンの死体の傍らに落ちていた。

「……」

 顔をしかめて、こちらをじっと見つめるウィザードリングを拾い上げる。
 その時、ハルトはまるで、ウィザードリングにこう言われているようにも感じていた。

___お前が、この人たちを救えなかったんだぞ___と。

「分かってるよ……」

 誰にも聞かれない言葉を口にしながら、ハルトはルビーを左手に嵌めた。残りのウィザードリングを、応急処置で直したホルダーに入れ直し、上の階を見あげる。
 そして、その光景に、ハルトは言葉を失った。
 吹き抜けから見える、病室という病室。そのドアを開けた、黒い影たち。
 もはやここはアマゾンの世界。そういうかのように、アマゾンたちが湧き出てきたのだ。

「まだ……」

 アマゾンたちは、ハルトがいるロビーに飛び降りてくる。それぞれがよだれを垂らしながら、ハルトを獲物として睨んでいる。
 やがて、生身のハルトへ、サメの姿のアマゾンが飛び掛かってきた。
 ハルトが変身する暇もなく、サメアマゾンの餌食になってしまう。

『アマゾン スラッシュ』

 だが、その寸前で、頭上から聞こえてくる電子音声。ハルトの前に、青い影が降り立った。
 サーヴァント、バーサーカー。アマゾンネオ。
 赤の目を黄色のバイザーで隠したそれは、腕の刃で、サメアマゾンを両断した。

「千翼くん!」

 ハルトが思わずその名を呼ぶ。

 アマゾンネオはサメアマゾンの死骸を蹴り飛ばし、ハルトに振り返った。

「ハルトさん、大丈夫?」
「ああ。助かった。……クトリちゃんは?」
「大丈夫。子供部屋に避難しているから。だから、今はこいつらだよ」

 アマゾンネオは、ベルトのスイッチを押す。『ブレード ローディング』の音声とともに、アマゾンネオの腕から細長い剣が生えてきた。

「あああああああ!」

 アマゾンネオは、獰猛な叫び声とともに、続いて襲ってきたカミツキガメのような体のアマゾンの首を切り落とした。その際、刃もまた折れてしまい、地面にはカミツキガメアマゾンの首と刃がならぶこととなった。
続くアマゾンたちに対し、再びベルトのスイッチを押す。

『クロー ローディング』

 生えてきたのは、剣ではなくフック。大きく振り、付属するワイヤーがアマゾンたちを縛り上げた。
 だが、逃れたトラのアマゾンが、アマゾンオメガへ体当たり。その勢いで、アマゾンネオの変身が解けてしまった。

「千翼くん、大丈夫?」
「う、うん……」

 生身になった千翼を、ハルトが助け起こす。

「あれ? また大きくなった? なんか、高校生っぽい」
「今はそんなこと言ってる場合じゃ……」

 さらに追撃しようと、バッファローのアマゾンが迫ってきた。
 抵抗できないハルトと千翼が、バッファローアマゾンに食い潰される、まさにその直前。
 天空より飛来した、赤い龍により、バッファローアマゾンは弾き飛ばされた。
 赤い龍は、アマゾンたちの頭上に滞空し、威嚇するように吠える。赤い龍。そんな幻想的な存在がここにいるということは。

「ハルト!」
「千翼くん!」

 その主である、龍騎もまたここにいた。彼はハルトを助け起こし、

「大丈夫か? ……やっぱりここにいたか」
「真司さん……なんで?」
「あんなニュースを見れば、誰だって病院に来るよ」

 龍騎は、さらに攻撃を仕掛けてきたアマゾンに対し、ドラグセイバーで防御。蹴り飛ばし、アマゾン三体にぶつける。

『ストライクベント』

 龍騎が、さらに新しいアドベントカードをドラグバイザーに入れる。ドラグレッダーの頭部を模した籠手が、龍騎の右腕に装着される。
 すると、飛翔するドラグレッダーが吠えながら龍騎を囲むように回る。

「はああ……」

 ドラグクローによる照準に沿って、ドラグレッダーが火炎弾を吐いた。
 それは、龍騎が蹴り飛ばしたアマゾン達を一瞬で消し炭にした。

「……」

 もはや黒一色になったアマゾンたち。それを龍騎は、じっと見つめていた。

「……大丈夫か、ハルト?」

 やがて龍騎は、ハルトに手を差し伸べる。ハルトがその手を取ると同時に、龍騎の姿は粉々になり、同じシルエットの真司の姿になった。

「ごめん。結構きついわ」

 ハルトはボロボロの体を引き上げてもらいながら言った。
 千翼も、友奈の肩を借りて起きあがった。

「でも、この数……」

 ハルトは吹き抜けから上の階を仰ぐ。いつの間にか、見滝原中央病院はアマゾンのパラダイスになっていた。

「これ、みんな……」
「溶原性細胞の感染者ってことだよな……」

 真司の言葉に、ハルトは無意識に歯を食いしばった。
 だが、その肩を真司にポンポンと押される。

「俺もお前と同じ気持ちだと思う、あんまりうまくは言えないけどさ。こいつらをここから出すわけにはいかないだろ?」
「ああ」
「分かるよ。人との殺し合いって意味だからさ」

 真司はカードデッキを突き出す。

「でもさ。……俺、やっぱりこんな戦いは早く終わらせたい。だから、たとえこれが人殺しだったとしても、俺は戦う。皆の命を守るために」

 どこかの鏡像より飛来したバックルが、真司の腰に巻きつく。それを見て、ハルトも頷いた。

「分かったよ……」
『ドライバーオン プリーズ』

 ハルトが指輪によって現出させた、銀のベルト、ウィザードライバー。その端の部分を操作することで、その機能を起動させた。

『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』

 さらに、その隣では、友奈の手から離れた千翼もまた、赤いベルトを腰に巻いていた。

「千翼君、大丈夫?」

 友奈の心配そうな声に、彼は「平気」と答えた。

「そっか……なら、よし!」

 友奈もスマホを取り出し、その傍らに白い妖精、牛鬼を出現させた。
 彼女のスマホのタッチにより、血塗られた病院内を桜の花びらが彩る。
 そして。

「変身!」
「変身!」
「……アマゾン!」

『フレイム プリーズ ヒーヒー ヒーヒーヒー』
『NEO』

 花びらの中、ウィザード、龍騎、アマゾンネオの___別の世界では、仮面ライダーと呼ばれる者たち___が並び立つ。

『コネクト プリーズ』
『ソードベント』
『ブレード ローディング』

 ウィザーソードガン、ドラグセイバー。そして、ネオの手からの刃。
 それぞれが武器を構え、アマゾンの大群に突撃した。



「ウアアアアアアア!」

 アマゾンネオの声が、鼓膜を震わせる。
 友奈がその方向へ振り向くと、アマゾンネオが、ウミヘビのアマゾンをその刃で引き裂いていた。

「千翼くん……!」

 返り血も構わず、アマゾンネオは執拗に動かなくなったアマゾンに刃を突き立てる。

「千翼くん!」

 友奈が駆け出し、アマゾンネオを突き飛ばす。そこには、リスアマゾンの拳が遅れてきた。

「気を付けてね」
「友奈さん……」

 さらに追撃に来た別のアマゾンに対し、ドラグレッダーがその炎で牽制した。

『フレイム スラッシュストライク』

 さらに、ウィザーソードガンより放たれた炎の斬撃が、アマゾンたちをまとめて焼き払う。

「大丈夫? 千翼君」
「はあ、はあ、はあ、はあ」

 アマゾンネオは、まるで過呼吸のように息を吐いている。

「どうしたの?」
「分からない……体が……」

 動けないアマゾンネオは、戦えない。
 友奈はアマゾンネオの肩に触れた。

「大丈夫。千翼君は、休んでいて」

 友奈はアマゾンネオの前に立ち、彼を狙うアマゾンを殴り飛ばした。
 そのまま、アマゾンネオを捕食しようとするアマゾンたちへ、友奈は武術で対抗する。

「俺は……」

 その時。
 背後で、千翼が絞り出すような声を発した。

「俺は……俺は……っ!」
「千翼くん?」

 その時、友奈は見た。
 アマゾンネオの身体が、陽炎ができるほどに発熱しているのを。
 その熱さに耐え切れずに、拘束具の一部が弾け飛んでいくのを。
 そして。

 黄色のバイザーが破裂し、中から赤く、凶悪な瞳と目が合った。

「ち……」

 それ以上の言葉が続かなかった。
 友奈は、持ち前の反射神経で伏せる。
 その頭上を、無数の蒼い触手が走っていたのだ。
 それはアマゾンたちを串刺しにし、フロアを破壊し、アマゾンをつるし上げた。

「あああああああああああ!」

 それは千翼の声なのだろうか。
 やがて、これまでのアマゾンとは比にならない白い蒸気により、アマゾンネオの姿は見えなくなってしまった。
 だが、それでも彼の声は、どこまでも友奈を奥深く突き刺す。
 狂ったような悲鳴を上げるアマゾンネオは、さらにウィザードと龍騎にも、そして友奈にも狙って触手を放った。

『エクステンド プリーズ』
「友奈ちゃん!」
「うわっ!」

 背後から、伸縮自在なウィザードの手が、友奈の襟をつかむ。
 そのまま二人の背後に投げられた友奈は、ドラグバイザーの音声を耳にした。

『ガードベント』

 龍騎が両手に武装した、ドラグレッダーの胸と同じ形の盾。だが、アマゾンネオの触手は、龍騎の盾、ドラグシールドを易々と貫通。龍騎と、上空のドラグレッダーにダメージを与えた。

「ぐあっ!」
「_________」

 龍騎が倒れるとともに、床に落ちるドラグレッダー。

「真司さん! 一体何が……?」

 龍騎を助け起こしながら、友奈は煙が晴れていくのを見た。
 その中にいたのは、アマゾンネオでも、ましては千翼でもなかった。

「あれは……?」

 その姿に、友奈も、ウィザードも、龍騎も言葉を失った。

「_____________」

 それは何と言えばいいのだろう。
 それを形容する言葉を、友奈は首を振って否定した。

「違う……あれは千翼君じゃない……!」

 だが、どこにもいないアマゾンネオ。なにより、アマゾンネオと全く同じ青が、友奈の心を否定する。
 悪魔と否定したい、友奈の心を。

 全ての拘束具を取り払ったアマゾンネオ。阿修羅のように、六本の腕を持つ、醜悪な怪物であるそれは、ゆっくりとこちらに歩いてきた。

「ねえ……あれって……」

 ウィザードに、困惑の声が混じっていた。
 彼もきっと、友奈と同じ気持ちだろう。
 だが、友奈が答える前に、アマゾンネオ___と仮定する___は、吠えた。
 その体表を突き破り、無数の触手が放たれた。
 それは容赦なく友奈、ウィザード、龍騎を絡め、締め上げた。

「きゃああああ!」
「うわっ!」
「放せっ!」

 三人とももがくが、アマゾンネオの拘束は強く、びくともしない。
 その時。
 アマゾンネオの足元。
 見逃してしまいそうなものを、友奈は見た。

 触手が出るときに、飛び散ったアマゾンネオの体液。それが、近くを逃げ回っていたネズミに付着したのだ。

「……!」

 その一部始終を、友奈は見た。

 起 ネズミは、付着した体液に驚く。
 承 やがて体液は、ネズミの全身に染み渡る。
 転 もう嫌になるほど見た、白い蒸気がネズミより発生。
 結 そうして、ネズミは、さきほど友奈が戦ったウミヘビのアマゾンになる。

「そんな……!」

 生まれたばかりのアマゾンがアマゾンネオに踏み潰された。だが、それを見てしまった瞬間から、友奈はそのことにしか考えられなかった。

「友奈ちゃん!」
「友奈ちゃん!」

 ウィザードと龍騎の呼びかけにも、友奈は動かない。ただ、口をガタガタと震わせていた。

「千翼くんが……」
「友奈ちゃん!」
「どうしたんだよ!?」
「今、足元のネズミが……アマゾンになった……」

 それを口にすると同時に、友奈は確信した____確信してしまった。

「千翼君が、感染源……溶原性細胞の、感染源……アマゾン化の、原因なんだよ!」

 嘘だ、と、誰よりも友奈が訴えていた。
 だが。

 その音に、友奈の背筋が凍る。
 この世界に来てから、もう聞くことはないと思っていた、スマホの警報音。
 かつての世界で、バーテックスという敵が襲来してきたときの警報音。

「……」

 友奈は、傍らの牛鬼を見ながら首を振る。
 それはつまり、勇者システムは、アマゾンネオ___千翼を、バーテックスに匹敵する脅威だと認識したということ。
 放っておいては……生かしてはいけないということだった。 
 

 
後書き
ほむら「……」
キャスター「マスター」
ほむら「キャスター。命令よ。外に出て、アマゾンを倒してきなさい」
キャスター「ご命令ならば」飛翔
ほむら「……」髪ファサー
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「アマゾンがどれだけいようと関係ないわ。全部、私が殺してあげる」
まどか「そうじゃなくて……その……アマゾンって、元々人だった……んだよね?」
ほむら「救えないものは救えないわ。たとえ誰であっても」
まどか「……ねえ、そういえばほむらちゃん、さやかちゃん見てない?」
ほむら「見てないわね」
まどか「今日はお見舞いの日じゃないと思うんだけど……まさか、今日に限って病院に行ってたりしないよね……」
ほむら「……」 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧