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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第64話:解き放たれる姿

 
前書き
読んでくださりありがとうございます! 

 
 新たな希望を胸に立ち上がる6人の戦士。

 空には奏・翼・響・クリスの4人の戦姫が空を舞い、地には新たな力を手にした颯人と未だ傷だらけながら力強い目をした透が居る。

「高レベルのフォニックゲインによる限定解除……二年前の意趣返しと言う訳か」
『んなこたぁ、どうでも良いんだよ!』
「念話までも!?」

 限定解除されたシンフォギア──エクスドライブモードとなったギアを纏った装者達を見て、更には念話までをも使う彼女達にフィーネは驚愕を隠せない。

 その彼女達の雄姿を目に収めつつ、この場でただ1人傷だらけの姿を晒す透に颯人は手を貸した。

「ほれ、もうひと踏ん張りだ。気張れよ、透」
〈リカバリー、プリーズ〉
「それとコイツも」
〈プリーズ、プリーズ〉

 颯人は透の体力をリカバリーで回復させ、次いで彼に魔力を分け与える指輪を付けさせ自らの魔力を分け与えた。
 透は施してくれた颯人に感謝しつつ、折角の魔力を自分に使っても良かったのかと疑問の目を向ける。

 その視線に気付いた颯人は、拳で自らの胸を叩きながら答えた。

「あ、俺? 俺は大丈夫。奏の歌さえあれば俺は何時でも全開だから」

 言外に視線で「お前は違うの?」と問い掛けると、その視線に気付いた透は力強く頷いた。颯人を越えるタフネスを持っていた透は、既に傷など何でも無くなっている。

 魔力も回復し万全の状態となった透は、颯人の隣に立ちカリヴァイオリンを構えた。
 そんな頼もしい彼に、颯人から更なる餞別が渡される。

「ついでだ。透、コイツも使えよ」

 颯人から渡された指輪に透は首を傾げた。それは彼も持っていない、ジェネシスでは幹部だけが与えられる指輪だったからだ。

 これはもしや颯人用に作られた指輪だったのでは? と視線で問い掛けると、颯人は同じ指輪をもう一つ取り出す。

「安心しろ、俺の分はちゃんとある。そいつはさっきちょいとくすねた奴だ。気にせず使いな」

 そう言って颯人は意味深な視線をメデューサに向けた。その視線で何かを察した透は、仮面の奥で苦笑しながらその指輪を使った。

〈イエス! スペシャル! アンダスタンドゥ?〉

 その指輪、スペシャル・ウィザードリングは己の中に眠る魔力の更なる力を引き出す指輪。どんな効果が出るかは人それぞれであった。メデューサの様に石化の魔法等特有の魔法を発動する場合もあるし、そうでなければ魔力が何らかの体の一部や装備として顕現する場合もある。

 透の場合は後者であった。魔法を発動した彼の周りに魔力で形作られた鎧が現れ、頭以外のメイジの鎧を覆っていく。さらに左の手首から何かを引き抜く動作をすると、その右手には見事な造りの剣が握られた。
 思っていた以上の変化に、颯人が思わず口笛を吹く。

 一方、その光景を見てメデューサは目を見開いた。

「何ッ!? 何故、奴があの指輪を!?」

 2人の会話は彼女らにも届いていた。颯人は何処からか、スペシャル・ウィザードリングをもう一つ手に入れていたという事も聞こえていた。
 それは何処からか? 少し考えてメデューサは察しがついた。

「あの時か────!?」

 先程、アビスで颯人と戦った時。メデューサは颯人のマジックの手品で一瞬視界を塞がれ、その隙に攻撃を喰らってしまった。
 あの一瞬で、颯人はメデューサからあの指輪を掠め取っていたのだ。

「なんつー手癖の悪い野郎だ」

 まんまと切り札の指輪を盗まれたメデューサを小馬鹿にするより、颯人の抜け目のなさにヒュドラは呆れた。
 大方、颯人は石化の魔法だけは絶対に喰らわないようにと一瞬の隙を見てメデューサからあの指輪を盗んでいたのだろう。他の魔法なら生き残る可能性はあっても、あの魔法だけは少しも喰らいたく無い様だ。

 ともあれ、これで戦いに赴く用意は出来た。颯人達は新たな力を手にし、フィーネとジェネシスに対峙する。

「さて、最終ラウンドだ。クライマックスはこれからだぜ?」

 敢えてフィーネ達を挑発する颯人。その強気な姿勢は同時に奏達を奮い立たせる意味もあった。

 その挑発を受けてか、今まで瓦礫に腰掛けていたワイズマンが立ち上がった。地上の颯人達と空中の奏達がそれを見て身構え──────

「……まるでB級のメロドラマの様な陳腐な展開だな」
「あ?」
「もういい、飽きた。帰る。メデューサ、ヒュドラ、後は任せる」
〈テレポート、ナーウ〉

 心底興味を失ったように告げ、踵を返すと魔法でその場から消えた。突然の行動にメデューサ達だけでなく、颯人達も唖然となる。

 その中で一番焦ったのは言うまでも無くメデューサだ。ワイズマンに心酔していると言ってもいい彼女は、ワイズマンに見捨てられたかと焦りを露にしていた。

「み、ミスター・ワイズマン!? 何故!?」
「焦んなよ、メデューサ。要はあいつら何とかすりゃ良いだけだ。違うか?」
「怖気づいた奈良失せろ、魔法使い。あの程度、どうとでもできる!」

 言うが早いか、フィーネはソロモンの杖を掲げノイズを召喚した。
 ただノイズを召喚しただけならいいのだが、問題はその数だ。正に街を埋め尽くすという表現が最も相応しいレベルの数のノイズを召喚し、その大群を颯人達に嗾けたのである。

 しかし、今の颯人達はその程度で臆する様な事は無い。

「相変わらず、と言うかふざけすぎなレベルの数を呼びやがったな。まぁいいさ。奏! 上は任せた!」
「任せな! 翼、響、クリス! 行くぞ!!」
「承知!」
「はい!」
「言われるまでもねぇ!」

 6人は一斉に行動を開始し、襲い来るノイズの群れに飛び込んだ。

〈コネクト、プリーズ〉
「今ならこれできるんじゃね?」
〈キャモナ・シューティング・シェイクハンズ! コピー、プリーズ〉

 颯人は今までやりたくても出来なかった、ウィザーソードガンのハンドオーサーでコピーを行うと言う行動に出た。以前のフレイムスタイルでは魔力量の関係で出来なかった武器のコピー、しかしフレイムドラゴンになったからか、ウィザーソードガンを余裕でコピーし両手にガンモードのウィザーソードガンを持つと言う二丁拳銃スタイルでノイズを次々と撃ち抜いた。
 不規則な軌道を描く弾丸に次々と撃ち抜かれるノイズ。その銃弾の軌跡の間を新たな鎧を纏った透が駆け抜けた。

 彼が剣を振るう度に剣圧が衝撃波となり、複数のノイズを同時に切り裂いていく。その間隙を縫って、透に攻撃を仕掛けるノイズが数体居た。
 以前であれば避けるか防御しなければ怯まされるそれに、しかし今の彼は全く歩みを止めない。まるで重機関車の様にノイズの攻撃を物ともせず突き進み、周りにいるノイズを次々と切り伏せていった。

 一方空中では奏達が一騎当千の動きをしていた。

 全員が純白を基調としたシンフォギアを身に纏い、武器も大きく変化した。奏など、アームドギアが槍と言うより大剣や大鉾と言っても差し支えないものに変化している。

『颯人達に負けてられるか! アタシ達も行くぞ! 翼!』
『あぁ! 初手から全力だ!』

 ツヴァイウィングの2人は一気に上空に舞い上がると、それぞれ別方向のノイズに向け攻撃を開始した。

『喰らえ!!』
[LAST∞METEOR]
『ハァッ!!』
[蒼ノ一閃]

 2人が使ったのは何時もの、お馴染みの技。しかし新たな力、エクスドライブモードが解放された事によりその威力は普段の比ではなくなっていた。消し飛ばすと言っても過言ではない威力の技がノイズ達に襲い掛かり、砂の城を崩すかのようにノイズの群れを屠っていく。

 ド派手にノイズを倒す奏達に対し、クリスは空中を飛び回りながらミサイルからホーミングレーザーとなったそれを放ち、地上でノイズ相手に立ち回る透に近付こうとするノイズを大小問わず一掃していく。

『やっさいもっさい!!』
[MEGA DETH PARTY]

 レーザーは狙い違わず透に近付こうとするノイズを撃ち抜き消滅させる。中には透の背後に居たノイズを撃ち抜いたのもあったが、透本人には一発も掠りもしていない。

 その光景に響が歓声を上げる。

『凄い! 乱れ撃ち!』
『ぜ、全部狙い撃ってんだ! でなきゃ透に当たっちまうだろ!』

 心外だとでも言いたげに抗議するクリスに、響は笑みを返した。

『だったら私が、乱れ打ちだぁぁぁッ!!』

 響は一気に急降下し地上のノイズに接近すると、連続で左右の拳を突き出し衝撃波を散弾の様に放ってノイズを次々と消し飛ばす。

 クリスと透、響が次々と地上のノイズを消滅させていくのを見て、颯人は標的を空中のノイズに変更した。ビルの壁を蹴って屋上に上がると、二丁のウィザーソードガンで上空のノイズを撃ち抜いていく。クリスのホーミングレーザーよろしく狙ったノイズを追尾して撃ち抜く事が可能だった。

 6人の怒涛の攻撃は着実にノイズの数を減らしていった。

 その時、彼に飛び掛かる人影があった。ヒュドラだ。ノイズの群れに紛れて接近していたのだ。

「調子乗ってんじゃねぇ!!」
「おっと!」

 剣で斬りかかってきたヒュドラを、颯人は片方のウィザーソードガンをソードモードにして受け流す。

 それと時を同じくして、透の方にはメデューサが攻撃を仕掛けていた。

「それは私の指輪だ、返してもらうぞ!」

 自身に向けて振り下ろされるライドスクレイパーを、透は手にした剣で受け止める。

 気付けば殆どのノイズが倒され、奏達は颯人達の状況を確認できるほどの余裕が出来ていた。
 2人にジェネシスの幹部が襲い掛かっているのを見て、奏とクリスが2人の援護に入ろうとした。

 その時、フィーネが自らの腹にソロモンの杖を突き立てる。

「あ……う……!?」
「ッ!? 奏、雪音! あれを!?」
「な、何してんだアイツ!?」

 装者4人が見ている前で、フィーネは苦悶の声を上げながらも杖を深々と突きさし背中まで貫通させる。その光景に一瞬彼女達の脳裏に自決の文字が浮かんだが、次の瞬間それが間違いである事を察した。

 フィーネの傷口から触手の様に生えてきた器官がソロモンの杖を取り込み始めた。フィーネはネフシュタンの鎧とだけでなく、ソロモンの杖とも融合し始めたのだ。

「なんつー無茶を……」
「ッ!? 見て、ノイズが!」

 フィーネがソロモンの杖と融合し始めた途端、まだ残っていたノイズが次々とフィーネの体に群がり一体化していった。
 いや、残っていたノイズだけではない。新たにソロモンの杖から呼び出されたノイズまでもがフィーネの体に集り、一つになって膨れ上がっていく。

「ノイズに取り込まれてる?」
「いや、違う! あいつがノイズを取り込んでるんだ!」

 ノイズの塊はまるで柱の様になり、天へと伸びる。だがフィーネの行動はそれだけで終わらなかった。

「……来たれ、デュランダルッ!!」

 崩壊したカ・ディンギルの砲門の中へと流れ込んだノイズの塊は、その中で眠るデュランダルをも取り込みその姿を現した。

 まるで赤黒い巨大な蛇の様な体躯。そいつは鎌首を擡げ、あろうことか街の方を向くとそのエネルギーを解き放った。
 狙った先に居たのは…………颯人とヒュドラ。フィーネは何と、この場で最も腹立たしい存在である颯人をヒュドラと街諸共始末しにかかったのだ。

『ッ!? 颯人逃げろ!!』
「え? げっ!?」

 咄嗟に奏が念話を送った事で、颯人は一早く逃げる事が出来た。だがヒュドラはそうではない。彼は反応が遅れ、フィーネによるエネルギーの奔流に呑み込まれたのだ。

「なっ!? がぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 街を吹き飛ばし焦土と化す閃光に、ヒュドラが呑み込まれ消失していく。敵ながらその最後に憐れみを感じ、颯人はヒュドラが居た場所から目を背けた。

 その光景に、離れた所で透と戦っていたメデューサは舌打ちする。

「チッ!? フィーネめ、我らを捨て石にするつもりか!?」

 フィーネが街とヒュドラを消し飛ばす光景は当然奏達にも見えていた。

「フィーネの奴、何てことしやがる!?」
「街だけでなく、共闘関係にあったヒュドラまで……」

 思わず慄く装者達を前に、蛇の頭部の聖堂の様な部位に鎮座するかのように同化したフィーネが装いも新たにして姿を現した。

『もう魔法使いの協力など必要ない。皆逆さ鱗に触れたのだ……相応の覚悟は出来ておろうな?』

 胸にソロモンの杖の意匠、右手にデュランダルを携えたフィーネを前に身構える装者達。

 対して颯人は、相手が居なくなったことで透と合流し2人でメデューサと対峙していた。

「よぉメデューサ。残るはお前だけだぜ?」

 颯人に並び、メデューサに向け剣を構える透。だがメデューサはそんな2人を鼻で笑った。

「フン、おめでたい奴らだ。まさかあの程度で我らジェネシスの魔法使いが終わったとでも思っているのか?」
「……どう言う意味だ?」

 気になる言い方をしたメデューサに颯人が問い掛ける。メデューサはそれに対し、彼の背後に顎をしゃくる事で答えた。

 メデューサの仕草に仮面の奥で眉をピクリと動かす颯人。その直後、背後から感じた殺気に颯人は弾かれたように振り返った。

「んなっ!?」

 そこにはボロボロになり、メイジの鎧も破壊されたヒュドラの姿があった。確かに消し飛んだ筈の彼が、どう考えても戦えない状態になっているとは言え生きていたことに流石の彼も驚きを隠せない。

 だが本当に彼が驚くのはこの後であった。
 突然ヒュドラは苦しみ始め、その体には見覚えのある罅割れが走り始めたのだ。

「うぐぉ、ああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ありゃ、まさか!? おいメデューサ! あれは!?」

 颯人の問い掛けにメデューサは笑うだけで何も答えない。その間にもヒュドラの体の罅割れは増していき──────

「がぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 遂にその体が弾け飛んだ。それと同時にヒュドラが先程いた場所には、まるで無数の頭を持つ蛇が人間の体を得たかのような姿の異形が立っていた。

 その光景に、颯人と透は言葉を失う。

「出て、来やがった────!?」
「ッ!!?」

 現れた異形は、ヒュドラが使っていた剣を手に颯人達を睨み付ける。

 その光景を見て、メデューサは驚く颯人達が面白いのか満足げに告げた。

「そうとも。あれこそ我ら魔法使いの行きつく先の一つ、ファントムだ!」

 メデューサの言葉を合図にしたかのように、異形──ヒュドラファントムが無数の頭部から一斉に火球を颯人達に向けて放った。 
 

 
後書き
と言う訳で第64話でした。

今回透がスペシャルウィザードリングでちょっとしたパワーアップをしました。この場で彼だけ素のメイジと言うのも、ちょっと厳しいものがあったので。
因みにこの場でバラしますが、透のファントムはデュラハンです。頭だけ何の変化も無いのがヒントですね。手首から剣を出したのは、CCFF7でオーディンが手首から斬鉄剣を出すシーンからヒントを得ました。見るからに重そうな鎧付けてるのに、二刀流で駆け回るのは見た目違和感ありますから。

それと同時にヒュドラがファントム化しました。本作ではこんな感じに、ファントムは基本ボスキャラとしてのみの登場となります。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします。

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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