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二匹の愛犬

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第一章

                二匹の愛犬
 桐生家には二匹の犬がいる。
 どちらも雄犬で色は黒と白だ、だが種類が違い。
 一匹はフレンチブルドッグ、もう一匹は柴犬だ。フレンチブルドッグの名前はナポレオンといい柴犬の名前は半蔵という。
 何故その名前か、家の妻であり母である千和は夫の久光に話した。
「フレンチブルドッグだからね」
「ナポレオンか」
「それで柴犬だから」
「半蔵か」
「それぞれの犬の種類で、それで」
 妻は夫にさらに話した。
「ナポレオンはいつも堂々としてるから」
「ナポレオンみたいにか」
「それで半蔵は写真撮ったらお顔ぶらしてはっきり映らない様にするでしょ」
「確かに」
 夫は妻の言葉に頷いた、見れば優しい顔立ちで黒髪を七三分分けにしている、背は一七一程で中肉である。
「それはな」
「だからね」
 妻はさらに言った、茶色のショートヘアで糸の様に細い目である。背は一五五位で脚がすらりとしていてズボンが似合っている。
「二匹共ね」
「そうした名前にしたんだな」
「それで義光はね」
 二人のこの前産まれた息子はというのだ。
「その英雄達にね」
「囲まれて育つんだな」
「二人のお兄さんにね」
「中々豪華だな」
 義光は笑顔で言った。
「それだと」
「そうでしょ、だから義光もナポレオンも半蔵もね」
「これからもか」
「一緒に育てていきましょう」
「僕達の息子として」
「そう、皆私達の息子よ」
 こう言うのだった。
「だからね」
「これからも」
「私達は五人よ」 
 犬達も入れてというのだ。
「そうして仲良くやっていきましょう」
「これからも」
「そう、皆でね」
 千和は義光に笑顔で話した、そして実際に二匹の愛犬それに産まれたばかりの息子と五人で幸せに暮らしていた。
 だがその中でだ。
 千和は家の玄関で息子を抱いたまま近所の有名なクレーマーである曽良与根助と話していた、初老になるこの男は歪んだ顔をしていて口が臭く非常に下品である。知ったかぶりばかりし自分には徹底的に甘いが他人には何処までも厳しい。
 意地汚く図々しく姑息で近所の嫌われ者であまりにも人格が卑しく奥さんにも子供達にも逃げられた、会社でも嫌われているがその彼がだ。
 千和にだ、あれこれと言っていた。
「いい?あんたのところはね」
「五月蠅いですか」
「そうなんだよ、子供の声が」
 その赤子を見つつ言う。
「五月蠅くてな」
「すいません、泣かない様にです」
「してるっていうんだな」
「そうですが」
「子供が泣いたら怒ればいいだろ」
 実に理不尽に言うのだった。
「躾が足りないんだよ、躾が」
「それは」
「他人のことも考えるんだよ」
 股間を掻きながら言う。
「さもないと迷惑だろ」
「すいません」
「御免で済んだら警察はいらないんだよ」 
 こう言ってあれこれとクレームをつける、そして。 
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