懐かれて好きになって

　　　　　　　　　　　　　　　　懐かれて好きになって
　緒方優斗は小学校からの帰り道段ボールの中に入っている茶色の毛の垂れ耳の子犬を見付けた、それで自然にだった。
　犬を段ボールごと家に連れて帰った、母の郁江黒髪を長く伸ばしセットをした艶やかな顔立ちとスタイルの彼女は犬を見て最初笑顔になったが。
　すぐにだ、暗い顔になってこう言った。
「猫だったらよかったのに」
「お父さん猫好きだから」
「けれど犬は嫌いだから」
　鋭く小さな目で黒髪を借り上げにしている息子に言った。
「だからね」
「駄目って言うかな」
「お母さんは犬好きだから」
　母は自分の好みを言った。
「それであんたもでしょ」
「好きだし捨てられていて可哀想だと思ったから」
　それでとだ、優斗は母に答えた。
「連れて来たんだよ」
「そうよね、じゃあお父さんにはお母さんから言うから」
「それでなんだ」
「世話はお母さんとあんたでしてね」
「お父さんにはだね」
「もういいってことで」
　犬嫌いの父にはというのだ。
「それでね、お父さん嫌いなものは無視するだけで」
「他は何もしないんだ」
「悪口を言ったり殴ったりとかはね」
　そうしたことはというのだ。
「しないから」
「それじゃあ」
「ええ、このままじゃこの子保健所に行くしかないし」
　そして殺処分されるしかないからだというのだ。
「あんたが拾ったのも縁だし」
「うちで飼って」
「ええ、そうしましょう」
　母子でこう話した、そしてだった。
　家に職場から帰って来た父の俊、一八〇を優に超えるがっしりした体格で黒髪を角刈りにしていかつい顔立ちの彼は。
　母から話を聞いて苦い顔で言った。
「仕方ないな」
「面倒は私達が見るから」
「ああ、けれど俺はな」
「面倒見ないわよね」
「猫ならよかった」
　母が言った通りの言葉を出した。
「けれど確かにな」
「このままだとね」
「命を粗末にする奴は嫌いだ」
　父は苦い声で言った。
「犬は嫌いだがもっとな」
「そんな人はよね」
「嫌いだからな、俺はそんな奴になりたくない」
「それじゃあ」
「ああ、蚊さんと優斗でやってくれ」
　こう言ってだった。
　父は犬を飼うことをいいとした、そして。
　優斗は母と共に犬を飼うことにした、犬は雄でペロと名付けられた。そして二人で飼いはじめご飯も散歩用のリードも犬小屋も買った、そうして一緒に暮らしはじめたが。
　ペロは二人に懐いたがそれでもだった。
「何でだろうな」
「そうよね」　
　二人でペロを見ながら話した。
「私達に懐いてもね」
「親父に一番懐くているよな」
「どうしてかしら」
「親父は犬が嫌いで」
　それでというのだ。
「無視しているのにな」
「それなのにね」
「何で親父に一番懐いているのか」
「本当にわからないわ」
「親父って犬嫌いだよな」
「そう、猫が好きでね」
　家には猫はいない、しかし父の実家には代々猫がいて父はその猫を心から可愛がっているのだ。それは二人も見ていて言うのだ。
「犬はね」
「嫌いなのにな」
「それなのに何でだよ」
「俺にわかるか」
　その父も言ってきた。
「俺が一番わからないことだ」
「そうよね」
「全く、俺は犬が嫌いなんだ」　
　父は自分から言った。