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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第271話「帰る場所を守るため」

 
前書き
クロノ達神界入り口sideです。
 

 












「用意していた魔法陣は!?」

「とっくに使い切っている!」

「わかった!じゃあ、後腐れなくやってやるさ!」

 神界。その出入り口にて。
 優輝達の世界と神界を繋ぐ場所で、クロノ達は戦い続けていた。
 用意していた魔法は使い切り、今も突貫したヴィータが吹き飛ばされていた。
 地力は相手が上であり、世界そのものの“意志”による“性質”の相殺もない。
 結果、数は少ないものの、その少数の敵に苦戦していた。

「っ……!」

「くっ……!」

 シグナムとザフィーラが後退する。
 そこへ“天使”の追撃が迫るが、当たる寸前で止まる。
 止めたのはユーノのバインドだ。

「っぎ……!」

 途轍もない膂力が“天使”から発揮される。
 それを“意志”で踏ん張るユーノ。
 抑えられたのはその一瞬のみだ。
 しかし、その一瞬だけで、反撃に出る事は可能だった。

「せぇいっ!!」

 レヴィの神速の一撃が決まる。
 バインドの破壊と同時だったため、僅かに敵が怯んだ。

「ぉおおっ!!」

「はぁっ!」

 さらに、シグナムとザフィーラが“意志”で無理矢理前に踏み込む。
 そして、それぞれが渾身の一撃を叩き込んだ。

「でぇやぁっ!!」

 さらに、片方の“天使”をヴィータが遠くへと吹き飛ばす。
 敵を分断し、各個撃破するつもりだ。

「ぐっ……!」

「きゃぁっ!?」

 だが、その直後に光輝と優香が吹き飛ばされた。
 相手にしていたのは“天使”達の主である神だ。
 神を抑えつつ、他のメンバーで“天使”を倒し、最後に神も倒す。
 そんな作戦だったが……それが瓦解する。

「シッ……!」

 否、その前にシュテルが切り込んだ。
 シュテルはなのはと違い、近接戦にも長けている訳ではない。
 それでも、魔力の炎を迸らせ、杖を叩き込んだ。

「邪魔だ!」

「ッ……!」

 それを、理力の放出のみで弾かれてしまった。

「ッッ!」

「む……!?」

 間髪入れずに、支援に回っていたシャマルが仕掛ける。
 シュテルの動きに紛れるように、魔力の糸を神に絡ませていた。
 それによって、拘束と攻撃を同時に成功させる。

「ふん!」

 だが、その糸は即座に“砕けた”。
 この神は“砕く性質”を持っている。
 今までの戦闘でクロノ達も理解しており、それに合わせた立ち回りにしていた。

「っ……!」

 そのため、神の動きに即座に対応できた。
 糸を砕いたその瞬間に、クロノの魔力弾が神の体を打ちのめす。
 加え、ユーノがバインドで縛る。

「合わせろ、ザフィーラ!」

「承知!」

 直後、示し合わせたかのようにアインスとザフィーラが肉弾戦を仕掛ける。
 バインドで拘束されているのを良いことに、一気に拳を叩き込む。
 その最後に、アインスが腕に付けたパイルバンカーから砲撃魔法を放つ。

「はぁっ!」

 連撃により、理力の障壁を完全に破り、ダメージを入れる。
 さらに追撃とばかりに、シグナムが斬りかかる。
 “天使”はヴィータやディアーチェが抑え、近づけさせないようにしている。
 流れるような連携で、“天使”と神を完全に分断させていた。

「かはっ……!?」

 シグナムがレヴァンテインごと粉砕され、吹き飛ばされる。
 しかし、その最中、シグナムは僅かに笑みを浮かべた。

「ぬ、ぅっ!?」

 直後、側頭部に“シュツルムファルケン”が命中した。
 確かな“意志”も込められていたその一撃は、確かに神の体を吹き飛ばした。

「畳み掛けよ!!」

 ディアーチェの号令と共に、神はクロノとユーノの設置型バインドに引っ掛かる。
 さらにシャマルの拘束も加わり、直後に砲撃魔法が神を呑み込んだ。

「技を、転移させたのか……!」

 砲撃魔法に呑まれながら、神はシグナムが何をしたのか理解する。
 そう。シグナムは事前にシャマルに協力してもらい、魔法を転移させていたのだ。
 時間差で命中するように仕向けたおかげで、敵の意識外から攻撃出来たという訳だ。

「まだ、だ!」

 しかし、倒し切れなかった。
 耐えきった神が、形振り構わず“性質”を発動させようとする。
 止めようにも、タイミング的に誰もが間に合わない。

「かっ……!?」

「終わりだ……!」

「私達を、忘れないで……!」

 光輝と優香が、神を背後から切り裂いた。
 “粉砕”されて以降、二人は回復に努めていた。
 敗北したと思っていた二人による、土壇場での強襲だ。
 今度こそ、その神の“領域”は砕けた。

「なっ、ぁ……!?」

 続けて、その眷属の“天使”も消えていく。
 主の“領域”が砕けたのだ。
 その眷属たる“天使”は主の“領域”なしに“領域”を維持できない。
 そのため、道連れのように“天使”達も消えたのだ。

「……誰も欠けていないな」

 陣地を定め、そこを守るように戦い続ける。
 そうする事で、“意志”を定めやすくしているが、それでも厳しい戦いになる。
 そのため、神と“天使”を仕留める度に、誰かが全員いるか確かめた。
 神界の神と違い、クロノ達の“領域”が砕けた所で死にはしない。
 司達による“格”の昇華もあるため、肉体が消滅しようとも、完全な消滅とまではいかないようにはなっている。
 しかし、戦闘不能な状態で連れ去られたら、その時点で無力化されてしまう。
 それを危惧して、クロノ達は毎回人員を確かめていた。

「これで何人目か……」

「6だ。“天使”を含めれば、何倍にもなるがな」

 やってくる数が少ないとはいえ、既に6人もの神を倒している。
 “意志”次第で疲労もなくせるとはいえ、さすがに保つのも疲れてくる。

「……そら、また来るぞ」

「全員、配置につけ!!」

 迸る理力に対し、再びクロノ達は立ち向かう。
 優輝達を信じ、この場所を守るために。













「これで……9人目……!」

 あれほど、時間にしてどれほど経ったのか。
 時間すら曖昧な神界では、気にするだけ無意味な事だ。
 どの神も生半可な力ではないため、毎回死闘を繰り広げていた。
 精神的な疲労も“意志”で相殺しきれなくなってきた程だ。
 ほとんどが、各々の武器を支えに息を切らしていた。

「休む暇はないようだ……!」

「ああ……ユーノ!!」

「もう結界を展開しているよ!」

「ザフィーラ!」

「むぅん!!」

 遠くから、理力の砲撃が飛んでくる。
 最早、この攻撃は挨拶代わりになっていた。
 中には、延々と狙撃し続ける神もいたが、その時はシャマルの“旅の鏡”で無理矢理引き寄せる事で倒していた。

「えっ……!?」

 今回も、今までと同じように対処するつもりだった。
 ユーノの結界と、ザフィーラの防御。
 それによって初撃を防いだ後、様子を見る。
 そんな、テンプレートのような行動を取り……魔力が掻き消えた。

「まずっ……!?」

 そして、そのままクロノ達は理力の極光に呑まれる。
 “意志”で耐え抜きはしたものの、その胸中には困惑が広がっていた。

「(何が……!?突然、魔力が消えた……?)」

 明らかな異常だった。
 だが、それを理解する前に、追撃が始まる。

「ぉおおおおおおおっ!!」

 誰が言うまでもなく、ザフィーラが盾となる。
 魔力は未だ使えず、だが肉壁として後ろにいる者を守った。

「(最初に張った陣地としての結界はそのまま。でも、他の魔法は一切使えなくなっている。この違いは……“意志”の有無……!)」

 クロノはその間にも分析を進める。
 残っている魔法は、最初にディアーチェ達が共同で張った結界だけだ。
 仮の“領域”として展開したその結界だけが、今も残っていた。
 その結界と、それ以外の魔法。その違いをクロノは見定める。

「(そもそも、結界は最早魔法とは言えない。……だからこそ、まだ残っていると言えるのか?いや、“意志”の有無だけなら、僕らの使う魔法も……)」

 そこまで考え、クロノは気づいた。

「(―――違う。結界は魔法で実現できない部分を“意志”で補った。対し、他の魔法は、“魔法”として成り立たせた後に“意志”で強化しているんだ。同時に行うのと、直後に行うのでは大きく違う。だったら、敵の“性質”は……!)」

 魔力を手繰ろうとして、それすら失敗する。
 その時点で、クロノが……否、同じく思考していたディアーチェやシュテル、ユーノなども確信した。

「“魔力の性質”……!」

「ここに来て、我らにとって相性の悪い者が来たか……!」

 その言葉を聞いて、ほぼ全員が戦慄する。
 魔導師ならば、確実に魔力を使う。
 事実、今までも魔法を用いて戦ってきた。
 その魔力に干渉されるとなれば、戦術が大幅に狭まってしまう。

「じゃあ、魔法は……」

「それだけじゃない」

 優香の呟きに、クロノが苦虫を嚙み潰したような顔で言う。
 そして、その答えとばかりに桜色の極光が迫る。

「どんな魔法も、向こうは使えると見た方がいい……!」

 その極光を、クロノ達は見た事がある。
 今も神界の奥で戦っているであろう、なのはの切り札だ。
 SLB……それを、今度は敵が放ってきたのだ。

「全員、回避及び防御態勢―――!」

 言い終わる前に、極光に呑まれる。
 幸か不幸か、“領域”に直接ダメージを与える攻撃ではなく、その極光は飽くまで魔法として放たれていたため、耐えきる事は出来た。

「ぐっ……!」

 だが、直後にバインドで雁字搦めになる。
 普段なら気づけたかもしれない魔力の動き。
 それが、全く分からなくなっていた。

「(完全に魔力関連全てを封じられた……!)」

 どんな魔法を使ってくるのかも、事前に察知する事が出来ない。
 理力と“性質”を使ってくる神も同じようなものだったが、今まで出来ていたものが出来なくなるというのは、精神的に苦しいものがある。

「ぬ、ぅぉおおおおおおっ!!」

「ぐっ……こんな、ものっ……!!」

 ガタイの良いザフィーラと、標準よりは体格のいい光輝が根性でバインドを破る。
 魔力を使えなくとも、“意志”でバインドぐらいならば破れると行動で示す。

「ぉおおおおおおっ!!」

「はぁああああっ!!」

 他の皆も同じようにバインドを破壊しようとする。
 だが、その間にも攻撃は飛んでくる。
 そのため、ザフィーラと光輝だけでそれを防ごうとする。
 拳を、デバイスを振るい、魔力もなしに飛んできた極光に立ち向かう。

「ぐ、くっ……!」

「光輝……!」

 極光は一回だけに終わらない。
 何度も襲い来る。
 その度に二人だけで耐え抜く事になる。
 それを見て、優香が悲痛な声を上げた。

「っ……大丈夫だ。なんてこと、ない……ッ!」

「ザフィーラ!」

「俺も、平気だ……!」

 ここで、クロノやシグナムなどもバインドを破った。
 既に満身創痍な二人と入れ替わるように前に出て攻撃を受け止める。

「(ディアーチェ達が張った結界のおかげで、まだ立ち向かえる。だけど、このままだと確実に負ける……!)」

 現在は完全に防戦一方だ。
 それだけでなく、敵は遠くから攻撃し続けている。
 魔力を封じられた今、シャマルの“旅の鏡”で引き寄せる事も出来ない。
 完全に、一方的な状態になってしまっていた。

「シャマル、ダメか……!?」

「ダメ……!どうしても、“魔法”として使っちゃう……!」

 “意志”のみで魔法を使おうとするが、上手くいかない。
 否、簡単なものなら可能なのだが、神を引き寄せる程の効果は発揮できないのだ。

「(どうする……!優位性を捨ててでも、こっちへ引きずり込むか……!?)」

 出来るとすれば、仮の“領域”から出て、直接神の所へ向かう事だ。
 だが、結局魔法は使えないため、“意志”のみで戦わなければならない。

「(……これが、相性か……)」

 クロノは食い縛るように、目の前の現実を見る。
 最悪の相性を相手に、自分達は立ち向かわなければならないのだ。

「(逆に考えろ。まだ、“意志”のみで何とかなる)」

 魔法は使えない。しかし、“意志”による不死性はそのままだ。
 それどころか、仮の“領域”である結界も無事であり、簡単な魔法なら“意志”のみでも発動できる事を確認した。

「出来る事はまだある。諦めるにはあまりにも早すぎる……!」

「……その通りだ。故にレヴィ、落ち着かんか」

「だって~……!」

 魔法が使えず、いつもの速度を出せないレヴィを宥めつつ、ディアーチェはクロノの呟きに不敵な笑みを返す。

「一人の“意志”足りぬのならば、複数の“意志”を使えばよい。我らで張った結界のようにな。……尤も、さすがにこのままここに留まるのも愚策過ぎる」

「でも、だからと言って突貫する訳にもいかない。僕らは、ここを守るためにいるんだから。……皆の、帰る場所を守るために」

 突貫するにしても、今いる場所を手薄にする訳にもいかない。
 そのため、どうしても戦力を分断する必要がある。

「“意志”……」

「我らは動けん。しかし、誰かが倒しに行くか誘導するかしなければ勝てないのも確かだ。……どうする?と、聞くべきだが……」

 結界を張った四人は、“意志”を保つためにも結界から離れられない。
 それ以外の面子で、どうにか敵を倒すか連れてくるしかないのだ。
 そのための作戦をディアーチェが考えようとして、ふと優香が目に入る。

「……この神界においては、意志を始めとした抽象的な概念が強く作用する。それを利用すれば、空間置換や転移を魔法なして使えるやもしれぬぞ?」

「っ……もしかして、私と光輝の事を言っているの?」

 目が自身に向いていたために、自分に言っているのだと優香は思う。
 ディアーチェはそれに対し“さて、どうであろうな”と誤魔化す。

「抽象的な概念……まさか、夫婦だからとか、そういう……」

「驚きました。まさか王ともあろう方が、そんな事を言い出すとは……」

「さすがに我も考え方くらい変えるに決まっておろう」

 夫婦の絆。それを利用しようとディアーチェは言うのだ。
 クロノもシュテルも、いくら“意志”を使っていたとはいえ一瞬理解し難かった。

「二人の繋がりを利用して、私の“旅の鏡”を再現するって事?」

 シャマルも何となく理解し、そういう事なのかと確認する。
 返答は肯定だった。

「絆、夫婦としての繋がり……」

「出来ぬか?」

「……いえ。いいえ」

 ディアーチェの問いに、優香は静かに、力強く否定する。

「光輝も、優輝と緋雪達だって頑張っているもの。私だって、応えて見せるわ」

 光輝は未だにザフィーラ達と共に攻撃の盾となっている。
 そして、子である優輝達もこの先で戦っている。
 ともなれば、自分も奮い立つべきだと、優香は確かな“意志”を抱いた。

「さすがに単騎で、とは言わん。シュテル!レヴィ!」

「わかりました」

「出番だね!りょーかい!」

 ディアーチェの呼びかけにすぐに二人は応える。

「作戦……とは呼べぬが、想定する流れはこうだ。まず、二人を付けた貴様が肉薄する。そこで貴様ら夫婦で互いに想い合え。その“意志”が強ければ、空間置換を再現できるだろう。少なくとも、“意志”による魔法発動の助けになるはずだ」

「……わかったわ」

 全てが想定。どれもが確実に行くとは言えない。
 だが、そんな“可能性”を掴まなければ、勝利は見えない。
 故に、優香は即座に覚悟した。

「ぬ、ぐぁっ!?」

「そろそろ持たんぞ!」

「……余裕はない。すぐにでも往け!」

「ええ!」

 ザフィーラが吹き飛ばされ、前衛が限界になる。
 すぐさま、優香はシュテルとレヴィを連れて結界を飛び出していく。

「優香……!?」

「作戦通りだ!慌てるでないぞ……貴様はあやつを想え。貴様らの絆こそ、この状況を打開する一手になり得る……!」

「っ……!」

 光輝が飛び出していった優香を気にするが、ディアーチェがすぐに止める。
 クロノもディアーチェに同意するように頷き、光輝は一端気を落ち着かせた。

「……聞かせてくれ」

「よかろう」

 光輝は簡潔に説明される。
 要は、夫婦の絆を利用し、空間を繋げるないしその手助けをすると。

「優香は信じたからこそ行ったんだな?」

「当然だ」

「……なら、俺も信じない訳にはいかないな」

 ぐっと自身の剣であるデバイスを握りしめ、光輝は前を見据える。

「とにかく、今は攻撃を凌ぎ続けるだけだ」

「ああ。……さっきまでよりも、圧倒的な速度と頻度でボロボロにされる。防戦に徹しないと、あっという間に“意志”が挫ける」

 魔法が使えないため、“意志”以外で身体強化が出来ない。
 その上、防御魔法などの障壁も張れないため、結果的に出来る防御は攻撃に備えて踏ん張る事だけなのだ。
 そんな肉壁と同義な防御では、当然ダメージが防げるはずもない。
 体の丈夫なザフィーラすらとっくにボロボロの体だ。
 尤も、ザフィーラの場合は丈夫だからこそ、前に出て盾になっているとも言える。

「身体欠損の回復が間に合わなければ、踏ん張る事すら難しいな……」

「……随分、冷静な判断じゃないかクロノ……。現状って、控え目に言って地獄以上だけど……!」

 吹き飛ばされ、何度も立ち上がる。
 その度に自分達を奮い立たせるように軽口を叩き合う。

「結界があるからこそ、“負け”はない。……だから、結界の要である四人だけは確実に死守すべきだ。……故に」

「そこまで言わなくったってわかってるよ」

「要は、耐え続ければいいだけの事……!」

 決して防ぎきれる訳ではない。そのため、つい先ほどのユーノのように、結界を張った面子も同じように吹き飛ばされている。
 それでも、その身を盾にする事で僅かにでもダメージを減らしていた。

「……後は、“その時”が来るのを待つだけだ……!」

「頼んだぞ、優香……!」

 後を突貫した三人に託し、クロノ達は立ち上がり続けた。











「ッ………!」

 一方、突貫した優香達はただ走り続けていた。
 しかし、愚直に走るだけでは辿り着けない。
 そのため、敵を見つけるという“意志”の下、走っていた。

「次、来ます!」

「くっ……!」

「っとと……!」

 その途中でも、敵の攻撃はやってくる。
 むしろ、近づかせないようにより苛烈になっている程だ。
 しかし、先ほどまでと違い、自由に避け回る事が出来るため、回避は容易だった。

「(もっと、もっと早く、辿り着く……!!)」

 焦りにも近い強い“意志”で、優香は突き進む。
 直後、優香は空間を跳んだ。

「ッ……!」

「見えたッ!!」

 執念、覚悟、意志。それらが合わさり、優香を“魔力の性質”の神へと導いた。
 最早過程を飛ばしたかのような肉薄で、神も僅かに顔を強張らせる。

「ぁあああああっ!!」

 そのままの勢いで、優香はデバイスを振るう。
 杖としてだけでなく、棍としても扱えるため、近接戦も可能だ。
 だが、魔力が籠っていなければ、大した威力ではない。

「くっ……!」

 しかし、それでも優香の攻撃は理力の障壁を揺らした。
 “意志”によって、そこまで威力が昇華されていたのだ。

「はぁああああっ!!」

「せぇやぁああああっ!!」

 続くように、シュテルが杖で突貫し、レヴィが斧で斬りかかる。
 “天使”に阻まれはしたものの、これで一つ目の目的は達成した。

「私達の絆を……人の想いを、知りなさい……!!」

 そういって、優香は胸の前で手を組む。
 想うのは、神界の入り口にいる光輝の事。
 家族として、妻としての愛。それが一つの事象へと代わる。

「―――は?」

 思わず、神は間の抜けた声を漏らした。
 人間個人の想いなど、形になるほど強いはずがなかったのだ。
 どうあっても“格”が足りないため、想いそのものは強くでも神界に干渉できない。
 ……そのはずだが、目の前で空間が繋がる。

「光輝!」

「優香!」

 繋がった空間の先では、デバイスを片手に胸に手を当てる光輝の姿があった。
 その背後にはシャマルがおり、明らかに“旅の鏡”と同一の現象が起きていた。

「隙を見せましたね」

「今だー!」

 神の動揺を、シュテルとレヴィは見逃さなかった。
 “意志”で即座に肉薄し、各々の武器を叩きつける。
 そのまま繋げた空間に押しやり……

「はぁあああっ!!」

 ダメ押しに優香が吹き飛ばした。
 障壁でダメージはないとはいえ、それでも体は動く。
 それを利用し、そのまま押し込み切った。

「しまっ……!」

「では、ごきげんよう」

「じゃーねー」

 そのまま優香達も繋げた空間から合流。
 見事に神のみ引き寄せた結果になった。

「……さて、と。よくも散々やってくれたな。うん?」

「遠くからチマチマと……こっちは苛ついてんだ。覚悟出来ているよなぁ?」

 繋げた空間は閉じ、神に対しディアーチェやヴィータが詰め寄る。

「っ……嘗めるな―――」

「ふんッ!!」

 反撃に出ようとする神だが、先にザフィーラの渾身の一撃が叩き込まれた。
 “意志”によって理力の障壁すら貫通し、鳩尾へと命中した。

「がはっ……!?」

「悪いが、魔力を封じたからと言って、簡単に挫けはしない。むしろ……」

「魔力なしで攻撃する分、リンチ染みた絵面になるな……」

 寄ってたかって、物理で殴る。
 どう見てもリンチそのものだ。
 “意志”で威力を底上げしているとはいえ、見た目は酷いものになるだろう。

「………」

「まぁ、てめぇが魔力を封じているんだから、しょうがねぇよなぁ?」

「こちらとて、出し惜しみは出来んのでな。容赦なくいかせてもらうぞ」

 冷や汗を流す神。
 それは、相手の強さに苦戦するがための類ではなく、恐怖から来るものであった。













「はぁっ!!」

 トドメとなるシグナムの一太刀が決まり、“魔力の性質”の神は倒れた。
 あれから、“天使”による妨害はあったものの、それまでの神を相手にしたのと同じように、“意志”で“領域”を砕いて倒し切る事が出来た。
 
「……相性が悪くても、“意志”次第で乗り越えられる……か」

「確かに、その通りだったね……」

 クロノ達も満身創痍だ。
 だが、最悪な相性を相手にした割には破格の結果と言えるだろう。

「魔法も再び使えるようになった。これで回復も比較的容易になっただろう」

 瞬く間に物理的なダメージは消えていく。
 疲労の類も、深呼吸して息を整えればたちまち消えていった。

「……さぁ、まだ敵はやってくる。出来るだけ早く態勢を立て直そう」

 クロノの言葉に、全員若干うんざりしながらも次の戦いのために“意志”を備えた。
 優輝達の決着がつくまで、彼らの戦いは続く。

















 
 

 
後書き
“砕く性質”…文字通り。今回登場したのは物理的な“砕く”に特化している。実際に砕くだけでなく、相手の打撃系の攻撃を防ぐ際にもこの“性質”は働く。

“魔力の性質”…文字通り、魔力に関する事に長ける。強力な魔法を扱うのはもちろん、原作におけるAMF(アンチ・マギリンク・フィールド)の完全上位互換な事も出来る。魔導師にとって完全な天敵。


完全な力技による空間置換。神界はその気になれば何でもできる世界なので、こういう事も可能です。多分、高町夫婦でも同じ事が出来ます。 
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