歪んだ世界の中で
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第三話 小さな決意と大きな一歩その一
第三話 小さな決意と大きな一歩
希望は千春と一緒に電車に乗った。その青い電車の中の黄色い席に座る。
電車の中は七人用の席が左右にあり両端に三人用の優先座席がある。
その七人用の席に二人並んで座りだ。吊り皮や広告を見てだ。彼は千春に言った。
「実はさ。僕電車ってね」
「どうなの?電車は」
「結構好きなんだ」
こう言うのだった。
「乗るのも見るのもね」
「そうなんだ。電車好きなの」
「特にこの八条鉄道の電車はね」
「好きなんだ」
「青い電車ってよくないかな」
微笑みだ。隣に座る千春に言う。
「奇麗だよね」
「うん。この電車の青って」
「コバルトブルーでね」
その青だった。この電車の青は。
その青い電車の中でだ。彼はまた言った。
「だからね。大きくなったらね」
「大きくなったら?」
「車掌さんか駅長さんになりたいと思ってたんだ」
その夢をだ。千春に話したのである。
「ずっとね」
「今はどうなの?」
希望が言うとだ。千春はだ。
その彼にだ。すぐにこう言ってきたのだった。
「やっぱり車掌さんか駅長さんになりたいの?」
「それが無理なんだよ」
寂しい笑顔になってだ。希望は千春に答えたのだった。
「もうね。それはね」
「どうして無理なの?」
「学校の成績が悪いから」
それでだというのだ。
「もう車掌さんや駅長さんになるのはね」
「学校の勉強ができないと駄目なの」
「そう思うよ。今の僕の成績だと」
自然に顔を俯けさせて言う彼だった。
「何にもなれないだろうね」
「それじゃあね」
だがその俯いた希望にだ。千春は言ってきた。
「勉強すればいいだけだよ」
「勉強すれば?」
「うん、それだけ」
こう希望に言うのだった。
「それだけだよ」
「それだけって」
「勉強は勉強すればよくなるから」
「そうなのかな」
「うん、例えば社会とか英語は」
そうしたものはというのだ。
「覚えればいいし」
「覚えるだけ?」
「そう、それだけ」
本当に何でもないといった調子で言う千春だった。
「生物とか化学も基本そうだし」
「覚えるだけなんだ」
「国語の系統はよく読んで先生の言うことや参考書を読んでね」
「それでいいんだ」
「そう、後は覚えて」
ここでも覚えるということだった。
「数学だって公式覚えたらいいから」
「覚えるだけなんだ」
「そう、勉強は覚えることなの」
にこりと笑って述べる。
「それだけなの」
「ううん、それだけなんだ」
「希望は今までお勉強のことどう考えてたの?」
「物凄く難しいものだって」
先入観からだ。そのうえでの話だった。
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